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三章 夏休みは夜遊び
058 王族の証明
しおりを挟むマッサージを終えてベッドの中ではお掃除大作戦をクリスティーネ姫に褒められまくったフィリップはお腹いっぱい。クリスティーネがお喋りすぎて疲れたので、話を変える。
「てか、本当にカールスタード王国の王族なの?」
そう。ダグマーの歴史授業の中に、クリスティーネの名前が出て来なかったから、今日はこの話をしに来たのだ。
「そうですよね……信じられませんよね。先々代の話ですし……」
「その人の名前はなに??」
「アレクサンドラです」
「アレクサンドラだったら歴史にも出て来るね。病で倒れたあとは王配が治めるようになったんだっけか」
「いえ。それは王配が謀反を働き殺めたのです。さらに、次期君主になりえる者を全て殺めて……」
クリスティーネの話は、現国王の父親の乗っ取り計画の概要。先々代の女王を毒殺した上に王族を次々に殺し、若い王妃を娶って子を生ませた。
ただし、それではカールスタード王家の血が途絶えることになり、他国の貴族を多く集める国としては都合が悪い。
なので、まったくカールスタード王家の血を継がない我が子を、王族の忘れ形見として言い繕って世界に発信したらしい……
「ふ~ん……なるほどね。都合の悪い歴史は隠蔽したってことか」
「信じてくれるのですか?」
「正直、ありそうな話としか。誰か証明する人がいれば別だけど」
「残念ながら、私に近しい人しかそのことを知りません。お婆様も幼い頃に連れ出されて隠れて暮らしていましたので……」
危険を感じた次期国王が信頼厚い近衛騎士長に幼い我が子を預け、近衛騎士長はさらに口の堅い者に世話を任せていたのでは証明しようがない。
「う~ん……何か王族だと証明する物とかないの?」
「いちおう家紋の入ったナイフと書状はありますけど、嘘と言われたら証明できません」
「打つ手なしか~……そもそも、クリちゃんはどんな計画で返り咲こうとしてたの? それはあるんだよね??」
「ええ。お金を貯めて、暗殺者を雇おうかと……クリちゃん??」
「名前が長いから短くしちゃった。えへへ」
名前で話が逸れ掛けたが、どうやら世界最高のアサシンを雇って現王族を全て排除して、そこに登場しようとしていたらしいが、増やしていた味方に困窮者が多いので、現在はそっちを助けるので手一杯みたいだ。
「プププ……そんなツテあるんだ」
「笑うところはそこですか??」
フィリップとしては、乙女ゲームに出演しているキャラが出て来たから笑ってしまっただけ。クリスティーネとしては、金策が上手くいかないことを笑われると思っていたみたいだ。
「まぁそれが上手くいったところで、他国は納得するのかな?」
「もしもハタチさんが暗殺者を雇ってくれたら、チャンスはあります」
「そのチャンスって??」
「現在、カールスタード学院には、この大陸の六割を占める帝国の第二皇子、フィリップ様が通っております。その方に口添えしていただければ、他国も口出ししないはずです」
「……」
いきなり自分の名前が出て来ただけでなく、作戦に組み込まれていたのでフィリップも黙ってしまった。
「ハタチさん。どうかしました?」
「……ん? あ、第二皇子ね。その人は、やめたほうがいいんじゃないかな~?」
「どうしてですか? 帝国といえば、かなり影響力のある国ですよ」
「いや~。帝国は強いんだけど、第二皇子はいい噂がないから……」
「確かに……女癖は悪いわ頭が悪いわ体が悪いわ取り柄はないわですもんね」
「酷い言われようだね……」
さすがのフィリップでも、女性にここまで言われてはヘコムらしい。八つ当たりで、クリスティーネの大きなモノを揉みまくってるし……
しばらくフィリップが黙ってモミモミしているので、クリスティーネもどうしていいかわからなくなっていた。
「あの……そんなに揉まれますと……」
「あ、ゴメン。ちょっと考え事してた」
「何かいい作戦が思い付きましたか?」
「う~ん……いまのところ策はふたつだね」
「聞かせてください!!」
クリスティーネがフィリップのモミモミしている手を押さえるので……いや、フィリップも聞かれたから普通に喋る。
「長期戦なら、外からジワジワ攻めるって方法ね」
「ジワジワですか……」
「いまのお掃除大作戦だよ。中町より外町が栄えてしまったら、王様は赤っ恥。人数も何倍も多いから、武器が行き渡れば止めようがないでしょ? 他国の子供も多いんだから、力で押さえようとするのはやりにくい。なんだったら、子供が重荷になって無血開城せざるを得ないかも。それを先導するのがクリちゃんね。これなら文句なく、他国も王の復権だと認めてくれるはずだ」
「なるほどです! もうひとつはどんな作戦ですか!?」
フィリップの作戦に、クリスティーネは目を輝かせて興奮している。
「もうひとつは短期戦。王族全員さらって、混乱しているところにクリちゃんが玉座に座るの。あとは反対派を粛清してしまえば、国は簡単に手に入るよ。けっこう血は流れるから、他国からの評判はどうなるかわかんないな」
「いまの困窮している国民を思ったら、短期戦が望ましいのですけど……そもそもそんなに簡単にさらえるモノなのですか?」
「城の内部情報が手に入れば、僕ならね。でも、高い壁がふたつもあるんだよね~……抜け道があれば楽なのに……」
フィリップの発言で、クリスティーネも考えて閃いた。
「抜け道でしたら、あります……」
「え? 本当に??」
「はい! お婆様は、そこを通って逃げて来たのですから! 近衛騎士長が王家の抜け道の地図を預かって逃がしてくれたんですよ! 私がそれを保管しています!!」
クリスティーネが興奮してフィリップの顔を胸に挟んで来たけど、些か納得がいかない。
「それ、いまの王家が知らないのなら、クリちゃんが王族って証拠になるのでは……」
「あ……」
そう。誰も知らない抜け道を知っていることこそ、王族の証。
「でもですね。お城は改築をしているので、使えるかどうかはわからないんです……」
「それ、先に言ってくれない?」
「ですよね~?」
クリスティーネ、勇み足。使えるかどうかわからないモノでは、やっぱり王族の証になるかわからなくなるフィリップであったとさ。
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