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二章 学校で夜遊び

031 帝国の最西端

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 移動を1日休んだ第二皇子一行は、元気よく出発。その護衛にはあんなこともあったのに、フォーゲルクロウ伯爵兵だけで統一している。
 本来は公爵家のラーシュの案である「子爵兵と伯爵兵を半々」ってのでまとまっていたのだが、フィリップが「もう大丈夫じゃない? 伯爵なら絶対守ってくれるよ」とアホっぽく言ったからの変更。
 フィリップ的には、自分の危険ぐらい1人で守ってお釣りが来るからの安請け合い。それと、ストークマン子爵が勝ち誇った顔をして、フォーゲルクロウ伯爵が恐ろしい顔でストークマン子爵のことを睨んでいたから仲裁しただけってのもある。

 そんなフォーゲルクロウ伯爵は、鬼気迫る感じでフィリップの馬車を守っているから、もう前回のような事件は起きないだろう。珍しくフィリップを尊敬する貴族の誕生だ。
 その馬車の中では、フィリップはダグマーに膝枕されてずっとニヤニヤしてる。

「その顔、セクハラです」
「顔ぐらい、いいじゃな~い」
「そんなに私如きの膝枕が嬉しいのですか?」
「まぁそれもあるね。ニヒヒ」

 フィリップが含みのある言い方をするので、ダグマーも当てに行ったみたいだけど、ハズレたので意地になる。絶対に膝枕だと思っていたっぽい。

「フォーゲルクロウ伯爵様ですか? 他の領主や貴族と違い、並々ならぬ忠誠を誓っていましたし」
「あんなオッサン興味ないよ。なんで僕みたいな出来損ないについて行こうと思うのかね~?」
「それは私に言われても……」
「いま、失礼なこと考えたでしょ?」

 出来損ないの第二皇子に仕えることになったダグマーの考えなんて、フィリップでもすぐにわかる。それが当たっていたので、ダグマーは慌てて話を戻す。

「そういえば手紙を出していましたね……エイラに何かセクハラ染みた手紙を書いたのでは……」
「そんなの書いたら他の人に読まれて、変な噂が広まるでしょ~。父上とお兄様にも経過報告したし」
「おふたりはついでのように聞こえるのですけど……」

 確かにフィリップは、エイラだけに手紙を書くのはおかしいかと思って2人の手紙はあとから書いていた。ちなみに内容は、エイラには謝罪の件は気にしてないことと、早く城に帰りたいと遠回しに「早く会いたい」とのこと。
 皇帝とフレドリクには「カールスタード学院で頑張る」との当たり障りのない内容。あと、馬車移動でいまにも死にそうとの愚痴も……

「では、何がそんなにおかしいのですか?」
「べっつに~。いつもこんな顔だよ?」
「セクハラですね」
「顔でセクハラと言われると、どうしようもないんだけど……」

 結局ダグマーは当てられなかったからの八つ当たり。いや、セクハラは本当は当たっている。
 昨夜フィリップは、皆が寝静まった頃に宿を抜け出し、娼館に行っていたのだから……

 昼間に少し寝たフィリップは、夜はなかなか眠れなかったので1人でゴソゴソしていたら「いまなら行けんじゃね?」と、黒髪カツラと庶民っぽい服を着て窓からそうっと外に出た。
 屋根を飛び交い灯りのある場所まで行くと、経験を頼りに外観でお店を決めたらビンゴ。もちろん見た目で止められたけど、奴隷館の紹介状をオーナーに見せたら「ハタチの帝王」と呼ばれてVIP対応になった。

 そのことに不思議に思ったフィリップだが、時間がもったいないのでナンバー1とナンバー2を頼んでマッサージをしてもらいながら世間話をしたら、帝都での噂がここまで流れていたのだ。
 そんな噂は迷惑だけど、こんなにすぐにできるなら有り難い。フィリップはチップを弾み、1時間ほどで出すモノを絞り出してもらったから、今日はスッキリした顔で余韻を楽しんでいたのだ。

 そんなフィリップがニマニマしていたら、本日の宿に到着。いつも通り皆で食事をしてダグマーに体を洗ってもらっていたら、少し変化があった。

「今日はいつもより長いね」
「終わりました」
「うそ~~~ん。ここで終わり~~~」

 ダグマーが少しサービスしてくれたのだ。でも、口に出した瞬間に手を離されたので、フィリップはモヤモヤしながらベッドに飛び込むのであった。


 翌日は、「昨日はやっぱり抜け出せばよかった」とフィリップが悔やんでいたら、フォーゲルクロウ伯爵領を抜けて護衛の交代。今回は専属護衛とラーシュたちがフィリップの周りを囲んでいたから、何も起こらず無事に交代となった。
 それからも馬車は真っ直ぐ西に向かい、ダグマーにセクハラと言われ、フィリップがたまに夜に抜け出し、護衛の交代を続けていたら、帝国の一番西の領地、ダンマーク辺境伯領に到着した。

 ここは乙女ゲームの悪役令嬢、エステル・ダンマークが育った土地。フィリップも興味があるのか、交代の際には当主のホーコン・ダンマーク辺境伯をジロジロ見ていた。

「私の顔に何か付いていますか?」
「いや……デカイと思っただけ」
「わはは。殿下もいっぱい食べれば、私なんてすぐ追い抜きますよ。その頃にはエステルもフレドリク殿下と結婚して親戚になってますかな? わはははは」

 ホーコンの第一印象は、ガサツでデカイオッサン。フィリップは念の為ストーリーに影響がないように、ダグマーの後ろに隠れて人見知りを演じる。いや、苦手なタイプみたいだ。
 そんなホーコンの護衛も2日で終了。と思っていたけど、隣の国のボローズ王国にもついて来るらしい。

 フィリップはホーコンの護衛のもと、初めて帝国を出るのであった……
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