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二章 学校で夜遊び
029 フィリップの覚悟
しおりを挟む「殿下、こちらへ!」
暗殺者が殺された現場を目の前で見たフィリップが尻もちを突いて叫んでいると、ダグマーは血の付いた手でフィリップを担ぎ上げて馬車に走った。
「賊だ! 他にもいるかも知れないぞ! 殿下の馬車を囲め!!」
「いや、我々ストークマン兵が護衛する! 賊はフォーゲルクロウ伯爵側に紛れ込んでいたぞ!!」
「なんだと~~~!!」
その混乱の中、護衛の責任者どうしで揉めてさらに混乱。ひとまずフィリップの専属護衛である騎士2人と公爵家のラーシュたち3人が馬車を囲み、誰も近付くなと止めていた。
これで少し冷静になった責任者2人は、暗殺者の顔を確認して犯人捜しを始める。それと同時に、間違いなく犯人ではない者を選別して馬車より少し離れた位置で守りを固めた。
そうこうしていたら暗殺者の顔を知る人物がいたので、大方の事件の概要がわかる。だが、どこに協力者がいるかはわからないから、ここは両責任者が信頼する者で馬車を固めながら先に進むことにしたのであった。
「入って来るな! 人殺し!!」
馬車の中でずっと震えていたフィリップは、本日の宿の部屋に入るなりダグマーを拒絶した。それからもダグマーが食事を持って行っても追い返し、ベッドに潜って震えていた。
「殿下の様子、どうだった?」
ラーシュたちが食堂で夕食をしていたら、料理を下げに来たダグマーが目に入ったので呼び寄せた。
「少々ショックを受けているようです」
ダグマーがフィリップの状態を説明すると、ラーシュは呆れたような顔になった。
「ハハ。人が死んだぐらいで取り乱すなんて情けない。私でも大丈夫なのに」
ラーシュの発言に、一同口には出さなかったが軽く頷いた。その中で、ダグマーだけは意見が違う。
「僭越ながらラーシュ様は、明確な殺意を向ける人間に殺されそうになったことがあるのでしょうか? その者が死の間際に見せる恨みと憎しみの顔を見たことがあるのでしょうか?」
「それはないけど……たいしたことないだろ。ハハハ」
「たいしたことはあります。私も最初の頃は、何日も眠れませんでした。いまでもたまに夢に見ます。何人も人を殺したことのある私でもそうなったのですよ? ラーシュ様は耐えられますか?」
「実際に経験がないからわからない……」
「でしたら、殿下を蔑む発言は撤回してください」
「あ、ああ……すまなかった」
ダグマーの静かな迫力に押されたラーシュは下を向きながら謝罪したが、ダグマーは何も言わずその場を離れるのであった……
同時刻、フィリップの部屋……
「あんなに簡単に人が死んでいいのか……」
フィリップは布団を被ってガクガクと震えていた。それから何時間も過ぎると、フィリップの震えも止まり冷静になって来た。
「そうだよな……ここは日本じゃないんだよな……僕の認識が温すぎるんだ。これでも僕は腐っても皇族だ。これから何度も同じようなことがあるかもしれない。最悪、自分の手で……」
人殺しなんてできるのかと、フィリップは自身の小さな両手を見る。
「よくよく考えたら、人型のモンスターは殺しまくっていたな……もうすでに殺戮者だった。ナイフでもレイピアでも殺したことあるから、感触はそれに近いんだろうな~……」
フィリップは覚悟の目をしてベッドの上で立ち上がった。
「ゲーム気分は今日で捨てよう。僕は帝国第二皇子フィリップ。皇族に恥じない生き方をしよう!」
声に出して自分を鼓舞したフィリップであっ……
「あ……兄貴と戦うまでダメ皇子設定で行くんだった……てか、ダメ皇子で定着してるから、時すでに遅しなんじゃね? どうしよ~~~」
どうしてもフレドリクと戦う時にかっこよくネタバラししたいフィリップは、結局はダメ皇子設定で行くと決めるのであったとさ。
翌朝、ラーシュが音頭を取り護衛の重要なポストの者を食堂に集めて、作戦会議をしている姿があった。
「ねえ? 誰も迎えに来ないけど、今日は移動しないの??」
「「「「「殿下!?」」」」」
そこにフィリップが護衛も連れずに1人で現れたので、一斉に視線が集中した。
「なに驚いてんの??」
「殿下こそ、危ないので勝手に出歩かないでください」
「あ、ダグマー。おはよ~」
フィリップが小首を傾げるなかダグマーが駆け寄ったけど、フィリップは軽すぎる。
「昨日のことは、もう大丈夫なのですか?」
「驚いたけど、寝ておきたらスッキリした。あ、そうだ。昨日はゴメンね~。守ってくれた人に人殺しなんて言っちゃって。僕が間違ってた。ゴメン」
「あ、頭をお上げください! 謝罪など必要ありませんから。皆も見てますので!」
「じゃあ許してくれる?」
「許しますから、早く頭を……」
「ニヒヒ。ありがと~」
フィリップは顔を上げると同時にダグマーに抱き付いて感謝。ちゃっかり胸に顔を埋めているけど……
それからダグマーに首根っこを掴まれて席に着いたフィリップは、食事を頼んで会議を見てる。
「「「「「……」」」」」
「あ、続けて続けて」
料理が並ぶと普通に食べ出したから、皆はフィリップが邪魔みたいだ。
「ふ~ん……今日は犯人捜しで移動しないんだ」
あと、たまに相槌を打つから無視できないってのもある。
ちなみにフィリップを襲った犯人は、とある男爵家の次男。父親がかなりの不正をしていたので皇帝がお取り潰しにしたから、逆恨みしたのではないかとの結論となっていた。
フォーゲルクロウ伯爵家に縁のある貴族が哀れみ、不正に関わっていなかった次男に騎士からやり直したらいいと声を掛け、真面目にやっていたらしいが、第二皇子が来ると聞いて犯行に及んだ可能性が高いそうだ。
「ふ~ん……生かして捕まえておけば、話を聞けたのにね」
予想ばかりを聞かされたフィリップがまた茶々を入れたら、ダグマーが頭を下げた。
「申し訳ありませんでした」
「あ、咎めてるわけじゃないよ? 素人考えだから気にしないで。はい、僕の浅知恵は終了」
この話はフィリップの前にも出ていて、ダグマーは責められていたから反省中。フィリップもそれに気付いて、すぐにこの話を終えた。
「じゃあ、明日に出発ってことだね? 僕はもうひと眠りするよ~。ふぁ~」
やっと聞きたいことを聞けたフィリップがへらへらしながら自室に戻るので、皆からフィリップの評価は下方修正されるのであった。
ダメ皇子、健在と……
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