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二章 学校で夜遊び

028 護衛の交代作業

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 旅の2日目はフィリップは寝不足の上、乗り物酔いで本日の宿に着いてもグロッキー状態。ダグマーにセクハラもできずに、お風呂から上がったら倒れるように眠った。
 3日目の朝も懲りずに仮病で乗り切ろうとしたフィリップだけど、また馬車に放り込まれて出発。今日も朝からダグマーにブーブー言ってる。

「僕が死ぬとは思わないの?」
「命令ですので」
「僕が死んだら、全員自害することになっちゃうんだよ?」
「命令ですので」
「膝枕してよ」
「セクハラです」
「そこは『命令ですので』ってやってよ~」

 ダグマーは相も変わらず操縦不能なので、フィリップもふてくされて窓の外を見る。

「昨日よりは馬車に慣れましたか?」
「いまんとこはね。あとから吐くと思う」
「でしたらいまのうちに、これを渡しておきます」
「手紙? なになに……エイラからだ~~~!」

 フィリップはダグマーから手紙を受け取ってさっそく開くと、嬉しそうに読んでいる。
 その内容は、謝罪。フィリップの予想通り、エイラも皇帝の命令に従って睡眠薬を飲ませたので、何度も謝罪の言葉が書かれていた。

「やっぱりか~……でも、もうちょっと僕に対してなんか書いててもよかったのにな~。検閲でもあるのかな?」
「はい。めったなことを書くと罰せられます」
「お前に聞いてるんじゃないんだけど……まぁいいや。それより、なんでこの手紙を隠してたの?」
「それは殿下が落ち着くのを待っていたからです。初日に読んでいたら、殿下は里心が出て逃げると判断しました」
「そりゃ逃げるよ~。ここ、涙の跡があるんだよ? あ~あ。いますぐ抱きたいな~」
「……」

 先ほど話に割り込んだことでフィリップに睨まれたダグマーは無言。「そこは抱き締めるの間違いだろ!」ってツッコミは飲み込んだみたいだ。

「うっ……気持ち悪くなって来た」
「殿下、桶です」
「ありがと……いや、手紙読ませるから気持ち悪くなったんだよ!?」
「そうなのですか??」
「オロオロオロオロ~」

 こんな揺れの激しい場所で文字を読む行為なんて自殺行為。その知識のないダグマーは本当にわかっていないようだが、フィリップは睨みながら戻すのであったとさ。


 今日もフィリップはグロッキー状態で宿屋に入ったが、昨日よりはマシなのでお風呂ではダグマーに質問していた。

「お風呂では、僕が裸を見るのはセクハラじゃないの?」
「業務内容ですので」
「お風呂以外で、僕が裸を見せたら?」
「セクハラであり、事件です」
「なんで!?」

 どうやらセクハラの線引きを知りたいみたいだけど、セクハラより酷いことを言うので驚いている。

「僕が触るのはセクハラだけど、僕のモノは触っても大丈夫なの?」
「業務内容ですので」
「じゃあ、もう少し長く洗ってもらうのは可能??」
「立ってなければ可能です」
「無理だよ~~~」
「では、セクハラです」
「立っただけで!?」

 結局は生殺し。今日は元気なだけに、フィリップは悶々としてなかなか寝付けないのであった。

「あっ! 自分でやればいいんじゃん!!」

 でも、現世では毎日やっていたことを思い出し、エイラのことを考えながら幸せな気分で眠るフィリップであったとさ。


 旅の4日目は、フィリップも乗り物酔いにかなり慣れて来て、戻すまでには至らなかった。でも、気持ち悪いモノは気持ち悪いので、気分を紛らわすためにダグマーとセクハラについて議論していたら、次の領地に入るとのこと。
 フィリップ的には領主や騎士の交代なんてどうでもいいのだが、ずっと馬車に乗っているのもしんどいので、今回は挨拶と労いぐらいはやってみることにした。

 そうして多くの騎士が並ぶ場所に馬車が到着すると、騎士たちが領地の境界線を挟んで整列し、フィリップが出て来るのを待つ。

「は~い。第二皇子のフィリップだよ~」
「「「「「はは~」」」」」
「え……」

 偉そうに出ても面白くないかと、フィリップは砕けた感じで馬車を降りたら、全員ひざまずくのでビックリ。領主かダグマー辺りに「真面目にやれ」とツッコまれるのを待っていたのに、何もなしでは信じられないのだ。

「えっと……面を上げて。そっちのストークマン子爵や騎士の人、護衛ありがとね。そっちのフォーゲルクロウ伯爵や騎士の人は、これからよろしくね」
「「「「「はは~……」」」」」
「なるほど……」

 またしても、適当な挨拶なのに全員が敬意を払いまくるので、フィリップも小さく頷きこんなことを考えていた。

(これも強制力じゃね? 乙女ゲーム内のフィリップも、ずっとショタっぽい口調だったから、どこに行ってもこの口調は普通に聞こえるのかも? お父さんの前でも注意されたことないし……そういえば一人称、ずっと『僕』って言ってる!? 前世の俺は、『僕』なんて小学校で卒業したのに~~~)

 ここに来て、初めて自分の口調に気付き、恥ずかしくなるフィリップ。でも、どこで誰と喋ったかを思い出すと、「よくこんな口調で全員跪いていたな」と面白くなって来たフィリップであった。


 フィリップがそんな馬鹿なことを考えている間も護衛の交代作業は進み、領主とラーシュ、専属護衛の4人が集まり申し送りをし、騎士たちも帰宅する組と護衛する組で準備をしている。
 その中で、新しく護衛に当たる騎士の1人が何か報告があるのか、領主たちの元へ向かった。しかし、途中で方向を変え、フィリップたちの元へ……

 そのスピードは歩きから早足に変わった。

(ん? なんだあいつ??)

 その行動に一番最初に気付いたのはフィリップ。隣に立つダグマーも違う方向を向いてメイドと喋っているので気付いていない。

(怪しい……剣の柄を握った……これはアレか? 俺の暗殺イベントじゃね??)

 レベル30超えのフィリップでは、全てがスローモーションのように見えるのか、暗殺者の行動は筒抜けだ。

(誰も気付いてないのか? だったら俺が……いやいや、そんなことしたら目立つか。どうにか目立たずあいつを捕らえる方法はないかな? 下手したら死にたがりのダグマーが体を張って守りそうだからな~……
 いっそ前に出て、ギリギリで転んでやろうか? それならビビって倒れたところ、あいつがこけて運良く助かったとか思われるかも??)

 そんな危機的状況なのにフィリップがニヤニヤしながら作戦を考えていたら、暗殺者が走り出した。

「父の仇~~~!!」
「わ、わ~……へ??」

 暗殺者が剣を振り上げ大声を出し、フィリップが演技に入ると同時にそれは起こる。
 フィリップの視界の端にたなびく布が目に入った瞬間、スカートが捲れたままのダグマーが回転しながら、暗殺者の首にナイフを突き刺したのだ。

「かはっ!? く、くそ……」
「トドメです」

 そして、前に倒れながらフィリップに手を伸ばした暗殺者を、ダグマーは無情にも突き刺したナイフで首をかっ切った。

「う……うわああぁぁ~~~!!」

 その状況をハッキリと見てしまったフィリップは、尻もちを突いて叫ぶのであった……
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