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一章 帝都で夜遊び
019 世間話
しおりを挟む奴隷館のオーナー、キャロリーナと出会ってから1週間……
「また来たのぉ? 毎日だとあたしも大変なんだけどぉ……」
フィリップは娼館ではなくキャロリーナの部屋に入り浸っていた。
「だったら紹介状書いてよ~」
「うっ……」
「『うっ』じゃなくて……週1ぐらいでどう?」
「週2……」
「それでいいから! がお~」
「あ~れ~」
理由は……まぁ、どちらもなんだかんだ言って楽しいからじゃない? しらんけど。
出会った初日のテストでは、エイラから習ったマッサージをレベル30超えの力を無駄に使ってやったので「こんなの初めて~!」と200点を叩き出したから、フィリップはまずは奴隷館の出入りを許されたのだ。
だが、キャロリーナに独占欲が出たらしく紹介状は手に入らず。フィリップもそれならばと。このドエロいキャロリーナのマッサージを楽しんでいたので、そこまで強く言わなかったからこんなに長引いてしまったのだ。
ちなみに白金貨はキャロリーナは返そうとしたけどフィリップが受け取らなかったので、系列店ならここから支払ってくれることになっている。それを超えた場合はツケにして、奴隷館で一括で払えるようにしてくれるとのこと。
フィリップが殴った男2人はというと、お咎めなし。相手が悪かったことになっているが、キャロリーナはこの出会いに感謝しているらしい……治療費も出してあげてるんだって。
この1週間、フィリップはキャロリーナと楽しむだけじゃなく、こんな会話もベッドの上でしていた。
「ふ~ん……マフィアって帝都にいないんだ」
「ええ。昔は多かったんだけどねぇ。皇帝陛下が貴族の汚職を正したらぁ、繋がりがアホほど出て来たらしいのぉ。それで芋づる式にねぇ。耳の早いマフィアは帝都を脱出してぇ他所で同じことしてるらしいけどねぇ」
「なるほどね~。陛下も徹底的だね。でも、目が届くのは帝都だけってことか」
「でしょうねぇ。他所は領主や貴族が囲ってぇマフィアを守ってるって噂よぉ」
皇帝の活躍は楽しそうに聞くフィリップ。ここまで詳しく聞くのは初めてみたいだ。
「ただぁ、もっと深く潜ったって噂やぁ、チラホラ戻って来てるって噂もあるわよぉ」
「あ~……闇に隠れてやるタイプね。暗殺者とかは需要があるから残ってそう」
「そういえばぁ、世界最高の暗殺者とかいうヤツは捕まってないわぁ……噂も聞かないし引退したのかしらぁ……」
「案外近くに潜んでいるかもね。そのうち出て来るんじゃない? クスクス」
「なんでちょっと嬉しそうなのぉ??」
この暗殺者は乙女ゲームの佳境で出て来るから、フィリップは確実に残っていると笑みを漏らす。会うのが楽しみみたいだ。
それからも世間話を続けていたら、この奴隷館の話が出て来た。
「貴族は裁いても、奴隷制度は変えないんだね」
「なあにぃ? ここの奴隷がかわいそうとか思ってるのぉ??」
「まぁ、ちょっとはね~。嫌いな男を抱かないといけないじゃない?」
「それだけ借金したんだからぁ、仕方のない罰よぉ」
「借金??」
「なんにも知らないのねぇ。性奴隷ってのわぁ借金奴隷に位置されてぇ……」
どうやら借金奴隷とは、借金しすぎて首の回らなくなった者への罰と救済措置らしい。男は主に鉱山に送られて死の危険がある仕事をさせられるから給料も高く、短期間で借金を返せるプランとなっている。
女性も鉱山で働く選択肢はあるが、男でも死者が出るような過酷な仕事だから、ほとんど性奴隷を選ぶとのこと。給料がいいから、そのまま娼館に残る女性もいるそうだ。
「へ~。でも、そもそもなんでそんなに借金するの?」
「事情は様々だからねぇ……うちの性奴隷わぁ、病気の家族のためってのが半分ぐらいかなぁ。神殿で治療すると高すぎるのよぉ」
「残りの半分は??」
「男よぉ。貴族だとぉ、親の贅沢の返済で連帯責任にさせられてねぇ。庶民だとぉ、酒とギャンブルに溺れた男の肩持つとかねぇ。マフィアがいた頃わぁ、自分の女を売る奴もいたわねぇ」
「どれもこれも理由が酷いね~」
「そんなのばっかりよぉ」
キャロリーナは寂しそうな顔でフィリップに抱き付いた。
「もしかしてだけど、キャロちゃんって貴族のご令嬢だったの?」
「フッ……遠い昔の話だけどぉ……」
「だからそんなに美人だったんだ~。謎が解けたよ~」
「もう少し同情するとかないのぉ??」
「してほしくないかな~っと思って。だって、女手ひとつでこんな立派なお店を運営してるんだから、相当な努力して来たんでしょ?」
「ただの運よぉ。マフィアの話をしたでしょ?」
どうやらマフィアが帝都から消滅したせいで、性奴隷の行く当てがなくなってしまったから皇帝が介入したらしい。そこで10年以上の経験があり、貴族の常識にも詳しい女性のキャロリーナなら性奴隷を扱えると任命したそうだ。
「うお~。大出世。下克上だね!」
「よく言えばねぇ」
「そんなことないよ。陛下の目に掛けられるなんて、相当できる人だと思うよ。てか、陛下は常連さんだったとか??」
「いえ……あの時、初めて会ったわぁ。でも、そんなに陛下に興味あるのぉ??」
「うん。弱味とか握れたら何かと使えそうじゃない?」
「もう陛下のこと話さない! あたしの命の恩人なのよぉ!!」
「あ……冗談だよ~? 機嫌直して~?」
単純にフィリップは父親とバレたくないから悪く言ったのだが、子供みたいにヘソを曲げたキャロリーナ。フィリップが頑張ったらすぐに機嫌は直ったけど、皇帝の話はどちらもしなくなった。
その帰り道……
「よかった~。お父さんがブラザーになったかと思ったよ~~~」
よくわからないことを呟きながら、心底ホッとしていたフィリップであったとさ。
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