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一章 帝都で夜遊び
006 初ダンジョン
しおりを挟む武器庫から必要な装備を拝借したフィリップは、しばらく夜はおとなしくして噂話に耳を傾けていた。その噂の内容には武器庫の話は出て来なかったので「備品の数ぐらい把握しておけ」とか思っていたけど、口には出さず。
装備の紛失に気付いていないのならばと、夜遊びを再開したフィリップ。夜遊びとは、ダンジョンまでの道順と巡回兵の確認のこと。決して女遊びではない。たまにエイラとはマッサージし合っているけど……
最初は外壁の西側までの調査。続いて氷エレベーターを使っての外壁の上まで。ここも巡回兵が来る間隔を確認したら、学院側に飛び下りて走り回る。
「フフン♪ このスケートは使えるな。走るより速い」
それも氷のスケートを履いての移動。氷のリンクが滑るのならば、氷のエッジも摩擦が少ないのではと思って作ったら上手く嵌まったのだ。
これで走るよりも時間の短縮になったので、頭の中にある帝都学院の地図を思い浮かべれば、思ったより早くに四角い建物のダンジョンに辿り着けたのであった。
「警備はなし……ゲームの中では明るい時間しか行けなかったから知らなかったけど、危険な施設なのにこれでいいのか?」
ダンジョンの中にはモンスターがいるにも関わらず、誰も立っていないのでは入り放題なのだから心配になるフィリップ。
「スタンピードとか起こったりしないのかな? ゲームではそんな事件は起きなかったけど……まぁいいや。まだ時間はあるんだから、ちょっとだけ中を見て帰ろう」
ここも立派な扉に鍵は掛かっていたけど、氷の鍵でピッキングしたフィリップは、力いっぱい押して少しだけ開けて中へと入った。
「おお~。ゲーム通りだ。これこれ~」
乙女ゲームは好みではなかったのだが、ダンジョンイベントだけはけっこう楽しめたので、フィリップは目を輝かせて進んで行く。
「明るいのはなんでだろ? 照明器具なんてないのに……天井が光ってる? 魔法かなんかかな~??」
古びた遺跡のようなダンジョン内をキョロキョロしながら歩いていると、フィリップは興奮しながら止まった。
「スライムだ~~~!」
半透明の水色の球体が現れたからだ。古今東西のゲームのザコキャラが現れたのだから、社会人までRPGで育ったフィリップは辛抱堪らないのだ。
「どうやって倒そう? ナイフって効くのかな~? 無駄に派手な魔法で倒したいな~。反撃とかして来るのかな~??」
倒し方を悩んでいたらスライムは体を引きずって近付いて来たので、フィリップは同じだけ下がって様子を見る。
「まぁいまの装備じゃ攻撃を受けたらどうなるかわからないし、遠距離からにしとくか。パーンッと」
ひとまずフィリップは指鉄砲で攻撃。指鉄砲といっても、これはオリジナル魔法。人差し指大の尖った氷が勢いよく飛び、一発辺りのMP消費量が0.1という省エネ魔法なのだ。
「ありゃ? 威力が弱かったか? もうちょっと速度を上げるイメージでっと」
スライムの体には直撃したが、ダメージになっているかよくわからない。なので速度を上げると氷の礫は貫通した。
「ザコのくせにしつこい! パンパンパンッ!!」
まだ死なないので指鉄砲を連射すると、スライムはようやくベチャッと床に散らばったのであった……
「あ~……そゆことね。核を破壊しないと死なないのか。ゲームの中では一撃で倒していたから、そんなのわかんねぇよ」
スライムはベチャッとなってから壊れたガラスの玉が現れて、最終的には全てダンジョンに吸い込まれたので、フィリップも反省というか愚痴ってる。
「おっ。なんか床から出て来た」
しかしスライムが死んだ場所から物体が現れたので、フィリップは嬉しそうに近付いた。
「硬貨と葉っぱ?? あ、ゲームでもお金とか薬草を手に入れてたな。でも、どっちも使えね~。町に行ったことないし、落ちてた物を食えと? ま、記念に取っておくか。さてと、つぎつぎ」
次なる敵は、角の生えたかわいらしいウサギ。ちょっと進んだ所でホーンラビットが現れた。
「アレを殺せと? リアルだとちょっとやりにくいな。あ、走って来た。けっこう速い!!」
ペットっぽいなと思っても、ホーンラビットは待ったなし。フィリップに角を突き刺そうと突っ込んだ。
「でも、バカだな。雪だるまに埋もれて抜け出せなくなってる。いまのうちに固めておこっと」
フィリップが防御に使った魔法は雪だるま。見た目がかわいいから手心を加えて、氷より柔らかい物を選んでしまったみたいだ。
しかし、拘束してしまえば同じこと。顔面を雪で固めて窒息死させるフィリップであった。
「ん~。なんまんだぶなんまんだぶ……あ、これも床に吸い込まれた。無機物も有機物も関係ないんだな。てか、ドロップは銅貨2枚だけって、いいのか? 角とか毛皮がドロップすると思ってたわ~。さあて、もうちょっとだけ探索して帰ろっと」
このあとフィリップは、スライム3匹を攻撃方法を変えて倒し、ゴブリン2匹には遠距離から指鉄砲で蜂の巣にして倒したのであった。
「うお~。リアルのゴブリン、キモかった~。まだ鳥肌が……」
部屋に帰ったら、今日のおさらいというか愚痴。ゴブリンにはオーバーキルになっていたから、ちょっとは反省しているらしい。
「おっ。レベルが1上がってる。たいした数も倒していないのに上がるってことは、やっぱりダンジョンのほうが経験値がお得なんだ。明日はもう少し奥まで行ってみよっと。おやすみ~」
この日からフィリップは、夜な夜な部屋を抜け出し、ダンジョンでレベル上げに精を出す日々を過ごすのであった。
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