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さいご。
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「ありがとうございます! それでは、最後にファンのみなさまに一言お願いしますっ!」
「分かりました!」
おれは、一歩前に出て、ここにいる人、画面越しの人、全てのファンに届けたい気持ちでマイクを強く握り息を吸う。
「ここまでやってこれたのは、僕を支え、応援してくれたみなさまのおかげです。そして、こんなにも最高のスタッフ、ファンの方々、両親に出会えた僕は本当に幸せものです。」
「この映画をみて、今日も生きててよかった。・・・と思ってくれたら、僕は・・・幸せ・・です。」
力強く言葉を投げかけると、徐々に目頭が熱くなっていく感覚を覚える。
忘れた訳ではない。忘れなくてもいい。大切に心の中の引き出しにしまっておいた物が溢れ出してくる。
予想外の出来事に場内がざわつく。
ここぞとばかりに炊かれるカメラの眩しいフラッシュが、頑張って食い止めようとする目頭をいたずらに攻撃してくる。
————「あ・・・・、あわわわわ・・・・・。」
教習所では上手く運転できたのに、思うようにいかなくて焦る。
教習所の車にはない機器がいっぱいあって何がなんのためにあるのかまるで分からない。
でも、次はわたしが助けてあげたい。
その気持ちで自分自身を震え立たせた。
「え~~と、、次をみぎ・・・・かな?」
ナビのやり方なんて全然分からなかったけど、いつも涼くんがやってるように見よう見まねでやってみたらなんとかいけてそうだった。
少しずつだが、運転も慣れてきて、周りをみる余裕が見えてきた。
「りょうくん!まっててね!!」
やっとわたしが助ける番がまわってきて、誇らしい気持ちになれた。
前を注意深くみていると、暗闇の先にヘッドライトに照らされる、でかでかと左右を指さすフェンスが見えてくる。
上の信号は青を表示している。
「よしっ」
教習所で教わった通り、しっかり左右を確認した後、右のウインカーを出す。
いつもは涼くんの大好きなB'zが流れているが、今の車内は轟くエンジン音と時計の針のようなウインカー音が響き渡っている。
右足をアクセルから離し、左のペダルをゆっくり踏み込む。
周りの景色が進む速さが徐々に遅くなる。
「よしよし・・・」
いつも羨ましくて、涼くんが運転しているのを観察していたので曲がる時のブレーキ加減はある程度分かっていた。
信号が徐々に近づいてくる。
ハンドルに力が入る。
緊張で心拍数が上がって行くのがわかる。
「ポ —— ン、ポ —— ン。」
不意に車内にそんな音が聞こえる。
初めて聞いた音だった。
「え・・・故障かな・・・・?」
一瞬足を離してよそ見をしてしまった。
「あ!」
集中しなきゃ。音は無視することにした。
改めてペダルに足を乗せ直す。
「壊してたらどうしよう・・・涼くんに怒られる・・・」
そんなことが頭をよぎったが、今は自分のやるべきことに集中しようと居住まいをただす。
しかし、結構減速してたこともあって、前の信号が黄色に変わってしまった。
「黄色信号は止まりなさい。」そう何度も教えられたこともあり、迷わずペダルを力強く踏み込む。
「えっ」
気づいた頃には蛍光色のフェンスは間近に迫っていた。
「 ———————————————— 」
「えっと・・・・。すみません。最後は、ちゃんとみなさんに伝えたいので。敬語はやめます。」
フラッシュがさらに加速する。
視界に入る観衆の表情で、ついに涙腺が崩壊してしまっていることを自覚する。
大きく息を吸い込む。
俺を救ってくれたファンのみんな。俺の一番のファンに届くように。
「っ・・・ゴホっ。・・・すみませんっ」
—————————「おい!!!!優奈!!いまどこにいるんだ!」
言葉を発しようとするが、胸が苦しくて息ができない。
「おい!どうした?聞こえてる??」
「・・・・うんっ。」
振り絞った精一杯の声で応答する。
「今どこにいるの!!」
こんなに慌てる涼くんは初めてだった。
いつも冷静に優しく包み込んでくれた彼の面影は全くといっていいほどないくらいに。
「怒らないから!ね! 免許もある訳だし! 優奈!!どこ??」
ごめんなさい。
いまのわたしに、この状況を説明できる力はないの。
目の前には、原型を失ったオレンジ色の軽が横たわり、至る所に車の破片が散らばっている。
幸いなことに、わたしは車から投げ出されたので、車と同じ目にあわずにすんでいる。
両手、両足は無事だし、ところどころは痛いがおそらく骨折はしてないと思う。
ただ、強く路面に打ち付けられたせいなのか、息が全くといっていいほど全然できない。
夢の中にいる時に、しようと頑張るけどなかなか思うように言葉を発することができないのと似ている。
「優奈!!!!!」
さっきから何回もそう叫んでいるのが耳に入ってくる。
しかし、分かっていても言葉にできない。
「ご・・・・めん・・・・・」
「え??どうした!!!!」
精一杯頑張ってみるけど、やっぱり言葉にならない。
緊張なのか、危ない状態なのか、波打つ心臓の音がよく聞こえる。
まだわたしは、生きている。
改めて、横たわる車に目をやる。
とんでもないことをした。なんて言葉では説明しきれない。
「優奈!!!!!優奈!!!!!」
不意に、横たわるオレンジの軽にスポットライトが当たり始めていることに気づく。
精一杯の力を込めて、光源の方に体を振り向かせる。
「あっ」
このままではやばい。本能がそう叫んでいる。
すぐに片手にもっていたスマホをポケットにしまい、必死に身体を動かそうとする。
しかし、全くといっていいほど両足はびくともしなかった。
何度も動かそうと頑張った。ごつごつとしたコンクリートの地面を必死につかみ、痛みに耐えてありったけの力を振り絞った。
でもダメだった。
あ、わたしはここで終わるんだ。そう思った。
「すみません・・・・ふう~~~・・・ゴホっ」
吸い込んだ鼻水に息がつまり、咳が止まらなくなる。
もう抑えることなんかできない。我慢しても無駄だった。
心拍数が上がり、息遣いが極端に悪くなる。
それでも、俺を囲む観衆は、いやな顔ひとつせず、暖かい目で見守り、俺の言葉をまってくれている。
どんな顔になっててもいい。どんなに不細工でもいい。
ただ、これだけは、ちゃんと伝えたい。
もう一度息を吸い込み、覚悟を決める。
—————— 最後までわたしはダメだった。
涼くんになにもしてあげられなかった。
いいお嫁さんになれなかった。
「優奈!!なにか怒ってるんだったらごめんっ、、あやまるからっ!なあ!!」
スマホのポケットから涼くんの怒号が聞こえる。
あやまりたいのはこっちだよ・・・・
「おれは優奈がいないとダメなんだ!優奈がいてくれたから、仕事も頑張れた!」
わたしはそんなにいいお嫁さんになれたのかな。涼くん。
「辛い時も、苦しい時もいつだってずっと優奈がそばにいてくれたから・・・・だから!!」
「こんなおれでも、生きててもいいって思えたんだ!!!!!」
声にも出せずに、ただ涙が溢れ出る。
言葉にして伝えたい。でもできない。
わたしは勘違いしていた。
わたしがいいと思うお嫁さんは、それは単なる世間的なもので
いいかどうかは涼くんが決めること。
他人にどう思われたって関係ない。
もしかしたらわたしは、涼くんにとっては「いいお嫁さん」になれたのかもしれない。
そう思うと、ちょっと嬉しくなった。
爆音のクラクションがすぐ横で聞こえる。
涼くん ——————————————— 。
もう前なんか見えない。感情は止まらない。
見せたかったなあ。どんな反応するだろう。
泣きながら喜んでくれるかな。
もう分からない。ただ、会いたい。
でもね。優奈。
「 本当に!!! みなさん! ほんとうに!!!・・・・・・・・・・・」
俺に生きる意味をくれて
————— わたしをお嫁さんにしてくれて
「 ありがとう。 」
「分かりました!」
おれは、一歩前に出て、ここにいる人、画面越しの人、全てのファンに届けたい気持ちでマイクを強く握り息を吸う。
「ここまでやってこれたのは、僕を支え、応援してくれたみなさまのおかげです。そして、こんなにも最高のスタッフ、ファンの方々、両親に出会えた僕は本当に幸せものです。」
「この映画をみて、今日も生きててよかった。・・・と思ってくれたら、僕は・・・幸せ・・です。」
力強く言葉を投げかけると、徐々に目頭が熱くなっていく感覚を覚える。
忘れた訳ではない。忘れなくてもいい。大切に心の中の引き出しにしまっておいた物が溢れ出してくる。
予想外の出来事に場内がざわつく。
ここぞとばかりに炊かれるカメラの眩しいフラッシュが、頑張って食い止めようとする目頭をいたずらに攻撃してくる。
————「あ・・・・、あわわわわ・・・・・。」
教習所では上手く運転できたのに、思うようにいかなくて焦る。
教習所の車にはない機器がいっぱいあって何がなんのためにあるのかまるで分からない。
でも、次はわたしが助けてあげたい。
その気持ちで自分自身を震え立たせた。
「え~~と、、次をみぎ・・・・かな?」
ナビのやり方なんて全然分からなかったけど、いつも涼くんがやってるように見よう見まねでやってみたらなんとかいけてそうだった。
少しずつだが、運転も慣れてきて、周りをみる余裕が見えてきた。
「りょうくん!まっててね!!」
やっとわたしが助ける番がまわってきて、誇らしい気持ちになれた。
前を注意深くみていると、暗闇の先にヘッドライトに照らされる、でかでかと左右を指さすフェンスが見えてくる。
上の信号は青を表示している。
「よしっ」
教習所で教わった通り、しっかり左右を確認した後、右のウインカーを出す。
いつもは涼くんの大好きなB'zが流れているが、今の車内は轟くエンジン音と時計の針のようなウインカー音が響き渡っている。
右足をアクセルから離し、左のペダルをゆっくり踏み込む。
周りの景色が進む速さが徐々に遅くなる。
「よしよし・・・」
いつも羨ましくて、涼くんが運転しているのを観察していたので曲がる時のブレーキ加減はある程度分かっていた。
信号が徐々に近づいてくる。
ハンドルに力が入る。
緊張で心拍数が上がって行くのがわかる。
「ポ —— ン、ポ —— ン。」
不意に車内にそんな音が聞こえる。
初めて聞いた音だった。
「え・・・故障かな・・・・?」
一瞬足を離してよそ見をしてしまった。
「あ!」
集中しなきゃ。音は無視することにした。
改めてペダルに足を乗せ直す。
「壊してたらどうしよう・・・涼くんに怒られる・・・」
そんなことが頭をよぎったが、今は自分のやるべきことに集中しようと居住まいをただす。
しかし、結構減速してたこともあって、前の信号が黄色に変わってしまった。
「黄色信号は止まりなさい。」そう何度も教えられたこともあり、迷わずペダルを力強く踏み込む。
「えっ」
気づいた頃には蛍光色のフェンスは間近に迫っていた。
「 ———————————————— 」
「えっと・・・・。すみません。最後は、ちゃんとみなさんに伝えたいので。敬語はやめます。」
フラッシュがさらに加速する。
視界に入る観衆の表情で、ついに涙腺が崩壊してしまっていることを自覚する。
大きく息を吸い込む。
俺を救ってくれたファンのみんな。俺の一番のファンに届くように。
「っ・・・ゴホっ。・・・すみませんっ」
—————————「おい!!!!優奈!!いまどこにいるんだ!」
言葉を発しようとするが、胸が苦しくて息ができない。
「おい!どうした?聞こえてる??」
「・・・・うんっ。」
振り絞った精一杯の声で応答する。
「今どこにいるの!!」
こんなに慌てる涼くんは初めてだった。
いつも冷静に優しく包み込んでくれた彼の面影は全くといっていいほどないくらいに。
「怒らないから!ね! 免許もある訳だし! 優奈!!どこ??」
ごめんなさい。
いまのわたしに、この状況を説明できる力はないの。
目の前には、原型を失ったオレンジ色の軽が横たわり、至る所に車の破片が散らばっている。
幸いなことに、わたしは車から投げ出されたので、車と同じ目にあわずにすんでいる。
両手、両足は無事だし、ところどころは痛いがおそらく骨折はしてないと思う。
ただ、強く路面に打ち付けられたせいなのか、息が全くといっていいほど全然できない。
夢の中にいる時に、しようと頑張るけどなかなか思うように言葉を発することができないのと似ている。
「優奈!!!!!」
さっきから何回もそう叫んでいるのが耳に入ってくる。
しかし、分かっていても言葉にできない。
「ご・・・・めん・・・・・」
「え??どうした!!!!」
精一杯頑張ってみるけど、やっぱり言葉にならない。
緊張なのか、危ない状態なのか、波打つ心臓の音がよく聞こえる。
まだわたしは、生きている。
改めて、横たわる車に目をやる。
とんでもないことをした。なんて言葉では説明しきれない。
「優奈!!!!!優奈!!!!!」
不意に、横たわるオレンジの軽にスポットライトが当たり始めていることに気づく。
精一杯の力を込めて、光源の方に体を振り向かせる。
「あっ」
このままではやばい。本能がそう叫んでいる。
すぐに片手にもっていたスマホをポケットにしまい、必死に身体を動かそうとする。
しかし、全くといっていいほど両足はびくともしなかった。
何度も動かそうと頑張った。ごつごつとしたコンクリートの地面を必死につかみ、痛みに耐えてありったけの力を振り絞った。
でもダメだった。
あ、わたしはここで終わるんだ。そう思った。
「すみません・・・・ふう~~~・・・ゴホっ」
吸い込んだ鼻水に息がつまり、咳が止まらなくなる。
もう抑えることなんかできない。我慢しても無駄だった。
心拍数が上がり、息遣いが極端に悪くなる。
それでも、俺を囲む観衆は、いやな顔ひとつせず、暖かい目で見守り、俺の言葉をまってくれている。
どんな顔になっててもいい。どんなに不細工でもいい。
ただ、これだけは、ちゃんと伝えたい。
もう一度息を吸い込み、覚悟を決める。
—————— 最後までわたしはダメだった。
涼くんになにもしてあげられなかった。
いいお嫁さんになれなかった。
「優奈!!なにか怒ってるんだったらごめんっ、、あやまるからっ!なあ!!」
スマホのポケットから涼くんの怒号が聞こえる。
あやまりたいのはこっちだよ・・・・
「おれは優奈がいないとダメなんだ!優奈がいてくれたから、仕事も頑張れた!」
わたしはそんなにいいお嫁さんになれたのかな。涼くん。
「辛い時も、苦しい時もいつだってずっと優奈がそばにいてくれたから・・・・だから!!」
「こんなおれでも、生きててもいいって思えたんだ!!!!!」
声にも出せずに、ただ涙が溢れ出る。
言葉にして伝えたい。でもできない。
わたしは勘違いしていた。
わたしがいいと思うお嫁さんは、それは単なる世間的なもので
いいかどうかは涼くんが決めること。
他人にどう思われたって関係ない。
もしかしたらわたしは、涼くんにとっては「いいお嫁さん」になれたのかもしれない。
そう思うと、ちょっと嬉しくなった。
爆音のクラクションがすぐ横で聞こえる。
涼くん ——————————————— 。
もう前なんか見えない。感情は止まらない。
見せたかったなあ。どんな反応するだろう。
泣きながら喜んでくれるかな。
もう分からない。ただ、会いたい。
でもね。優奈。
「 本当に!!! みなさん! ほんとうに!!!・・・・・・・・・・・」
俺に生きる意味をくれて
————— わたしをお嫁さんにしてくれて
「 ありがとう。 」
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