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時の女神の悪戯〜婚約破棄テンプレ破壊〜2
しおりを挟む「恐ろしい!王家の威信を弱めるのが目的ですの!?」
アイリスは息をするように嘘を吐けるし、被害者面して他人を貶めることもできる。無罪の人間を国賊にしたてあげることも朝飯前だ。
得意げに語っていた男は顔を真っ青にして、首を振った。
「そ、そんなはずはない!」
「いいえ。国王陛下が承認なさった正当な婚約者であるわたくしを蔑み、見知らぬ女を王妃に祭り上げようとしている。こんな大勢で寄って集って。いじめなど、どこに証拠があるというのです!あの女は傷一つなく立っているではありませんか!でっち上げた嘘で、わたくしを陥れようと企むなんて!何を喚こうが、無駄よ。もう誰も騙されないわ。この場にいる者達が陛下に証言してくれるわ、罪から逃れようなんてしないことね。そこの兵、この罪人共を捕らえなさい!国家に対する反逆を犯したわ!」
「ま、待て!」
声を上げたのは王子だった。まさか、こんな大事になるとは思っていなかったのだろう。だが皇太子の婚約破棄とはそれだけ重い意味を持つ。好きな女ができたからそっちに鞍替え、なんて簡単にできるわけないじゃない。
そんなことも分からないのか。
「ああ、殿下、あなたさまもきっと洗脳を受けてらっしゃるのね。誰か、医者もお呼びなさい」
王子と蜂蜜女を見て、嘲笑う。
「その女も捕らえなさい!主犯はこの女よ!裏には一体どの貴族がいるのかしら。それともどこかの国かしら!その身一つで我が国を滅ぼそうとするなんて、恐ろしいわ!」
びしり、とアイリスが今度は指さしてやった。
やられたら、やり返す。
ただの小娘とは思えないアイリスの命令に、騎士がつい足を動かさざるを得なかった。しかし殿下だぞ、陛下のご命令を、だがその殿下も……。
ざわめきの中、先陣を切ったのはとある貴族だった。
「はようせい!あの女を捕らえろ!」
あの女、とは。蜂蜜女だった。
今度こそ、兵が一斉に動く。
今の状況でアイリスにぶがあるのは明白。なにせ国賊やら国家反逆やら、首が飛びかねないセンシティブな単語を出したのだ。誰もアイリスに逆らえない。逆らえば、己に疑いの目が向く。政敵にいい蜜を与え、いつの間にか蜂蜜女を裏で支援していたことになるかもしれない。
貴族に保身は必須だということは、アイリスがよく知っている。アイリスみたいに白を黒だと決めてしまう怖い人間ばかりがいる世界だ。
愛や優しさだけでは、生きていけない。白を黒と、黒を白と決め、そして白は白、黒は黒と判断できる力がいる。
特に王妃であるなら、なおさら。
中には王子の手がかかった貴族もいただろうが、アイリスに加担した。そして蜂蜜女を助けようとした、「洗脳」されている王子も、兵に拘束を受ける。
「っ、何をしている!離せ、離せ!」
「殿下、どうかご冷静に。そしてご容赦を」
蜂蜜女は騎士に引きずられて、ずるずると王子から引き離されていく。
何を考えていたのかは知らないけれど。
ざまあみなさい。愚か者が王子の隣を奪おうなど考えるからよ。そして愚か者の王子も、国への忠誠心を今一度よく思い出すといいわ。
蜂蜜女は演技ではなく泣き叫んでいる。無様に。
「っ、やめて!どうして!あの女がいじめたのよ!私は何もしてないのに!殿下だって愛してると言ってくれたのに!」
冷ややかな目で見下す。
「ワインは手が滑っただけ。中庭で突き飛ばしたというのもあちらがぶつかってきただけ。いじめだなんて酷いわ。おまえの勘違いではなくて?」
このわたくしがそう言うのなら。
「それに、愛よりもまずは誇りを持つことから始めてちょうだい。誇りがない人間の愛なんて、王妃には必要ないわ」
そもそも泥棒猫だという自覚さえないらしい。恋は盲目。
盲目でもこの女を選ぶなんて、どこかのサイラスでもしないだろう。
サイラス以下の王子様、せめてサイラス並には根性鍛えてくださいませ。
微笑む。
その瞬間、シャロンの体から力が抜けた。
シャロンは目をぱちぱちと瞬かせながら、目の前の惨状に呆気に取られる。なぜか騎士に拘束されている婚約者である殿下。その殿下の心を奪った田舎娘や、その取り巻きたちは騎士に引きずられながら喚いている。
そしてシャロンの周りで、貴族たちが「お労しい」「このことは必ず陛下にお伝えします」「あんな国賊が殿下に近づいていたとは」と、唾を散らしながら怒っていた。
……どういうこと?
ずっとずっと好きだった殿下の気持ちがミレンに移ったのを知って、あれこれ手を打ったのにどうにもならなくて、空回るばかりで、自分の立場ばかりが悪くなって。
殿下にも嫌われた。ミレンに勝ち誇った顔をされた。
そして、「婚約破棄だ!」と指をさされたはずだったのに。
「……どうなってますの?」
何の記憶もないのに、なぜかシャロンが勝者らしい。
ぽかんとシャロンは立ち尽くすことしかできなかった。
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