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2023年7月
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7月10日 窓 もどかしい 触れないで
窓越しに見える彼は青白く、僅かに上下している胸が生きていることを教えてくれる。「止まれなくなるのが怖いならまだ触れないで」と言っていたのに、そうなる前にこの状態になった。彼に触れられないのがもどかしい。早く、早く目を覚まして。俺に触れて、生きていることを教えて。愛を刻みつけて。
7月11日 握る 紅茶 電車
電車の中で紅茶を飲むなんて優雅なことをしているのは、ここが二泊三日でウン百万円もする高級列車だからだ。今は執事兼恋人と二人きり。サブレをサーブして下がろうとした彼の手を掴んで引き止める。「坊ちゃん?」「今は名前で」うっそりと笑った彼は身を屈め、俺の耳元で、俺の名前を甘く呼んだ。
7月18日 滴る タイムリミット 写真
写真に写っている青い花から蜜が取れるのは一年に一度、一番月が大きく見える満月の夜のみ。その滴る蜜はどんな病でも癒すという。青い花が咲くという山に入って既に二週間。方々探したのに見つからない。タイムリミットはあと半日。早く探さなければ。これを逃せばあの人が天使に連れ去られてしまう。
7月21日 壁 仕草 ベルト
「危機感ないねぇ」変な雰囲気に後退り。壁に押し付けられて逃げ場はない。ベルトは抜き取られどこかへ飛んでいった。「俺の噂、知らないの?」「知らな…」「だよね。じゃなきゃここに来てない」舌舐めずりする目の前の獣の仕草に胸が高鳴った。逃げなきゃいけないのに、俺はその身を差し出した。
7月22日 強張る 絵画 削る
1 奴はいつもキャンバスに向き合っていた。ほんの出来心でキャンバスにかかった布を取ると俺の顔は強張った。何度もやり直ししたのか所々削った箇所がある。描かれていたのは俺だ。「あーあ、見ちゃった?」奴の声がすぐ後ろで聞こえた。「逃さないよ」逃げを打つ俺の体は瞬時に床に引き倒された。
2 薄暗い部屋に足を踏み入れると聞き慣れない音が聞こえて体が強張った。拳を握りしめて電気を点けるとキャンパスを削っている同居人がいた。「電気くらい点けろ」「いいのが描けそうなんだ。だから夢中で」彼は楽しそうに次の絵の準備している。きっと本当に鮮やかで美しい絵画が出来上がるだろう。
7月24日 もうおやすみ 穴 触れないで
1 貴方が僕に生きろと言ったから、冷たい体には触れないでおく。触れれば貴方の後を追いたくなるから。深い穴の底で眠りについた貴方を想いながら枕を濡らす。「もうおやすみ」貴方と同じ声が降ってきて頭を撫でた。
2 今日もせっせと穴を掘って汗を流した。日焼けした肌には誰にも触れないで欲しかった、のに。「おらじっとしてろって」「痛いんだってば!」「薬塗ったらもうおやすみできるんだぜ。我慢しろ」容赦なく軟膏を塗ってくる雇い主に今日も甲斐甲斐しく肌のケアをされる。夏の入江に俺の悲鳴が木霊した。
7月25日 印 指 足元
1 椅子に腰掛けた僕の足元に這いつくばり、奴は裸足の左足の甲にキスをした。「そこじゃないだろ」足先で生意気にも睨み付けてくる奴の顎を掬うと、無言で差し出された僕の親指を思い切り噛んで印を残した。「この駄犬が」蹴り上げられて床に転がっても尚、奴は挑むような目をして口元に笑みを浮かべた。
2 命令に従って彼の足元にぺたりと座り込みんだ。指先で耳を擽られるけど、声を出してはいけない。彼の長くて伸びた指は、やがて首元にある彼のものだという印をなぞった。「ちゃんと命令を聞けて偉いね。いい子」甘いグレアが放たれて、俺は彼の脚にもたれ掛かって揺らめく波に身を任せた。
7月27日 突き放す 壁 カクテル
1 まさか自分が遊び相手だとは思わなかった。突き放されて自暴自棄になり、界隈では有名なバーに来たが勝手が分からず壁の花になるしかなかった。「一杯どう?」イケメンが差し出されたのは琥珀色の酒が入ったグラス。「どうも」その酒言葉の意味も知らないまま、一気にそれを煽ったのが運の尽きだった。
2 「ごめん。俺は友達のままでいたい」長年の親友の想いを苦渋の決断で突き放す。申し訳なくて顔が見れない。視線を下に向けると、いきなり壁に押し付けられた。「何を⁉︎」「無理なら思い出だけくれよ」重なる唇から伝わったのは、直前まで飲んでいた苦味のあるカクテルの味だった。
7月29日 嗤う マニキュア 靴音
1 俺の姿を嗤う奴は嗤えばいい。派手なメイクに奇抜な髪型。体のラインを強調したラバースーツにストーンが散りばめてマニキュアを塗った爪。地味で根暗な普段とは違う、本性を曝け出せる姿が大好きだ。今夜も靴音を高らかに鳴らして光が乱反射するステージに立つ。まさかそこに同僚がいるとも知らずに。
2 逃げ切れると思ったのに、奴はとうとう本気を出してきた。響く靴音は逃げても無駄だと告げ、それは嘘ではなかった。毒々しい色のマニキュアを塗り、俺の襟首掴んで壁に押し付ける宿敵は暗く嗤っていた。「アタシのモノになる覚悟はできたかしら?」「冗談」鼻で笑った瞬間、奴は俺の耳に噛みついた。
7月31日 おかしい 指切り 首輪
1 おかしい。体が動かない。そこは窓のない部屋だった。手足は拘束され、長い鎖が繋がった首輪も嵌められている。「目が覚めた?」そこにいたのは近所に住んでいる年の離れた弟分。「僕のお嫁さんになるって指切りしたでしょ?約束は守らないとね」可愛らしくにこりと笑ったその瞳には狂気が宿っていた。
2 彼は俺のモノだという証の首輪をつけているのに支配されているのは俺だ。おかしい。だが望んだのは俺だ。「指切りしたの覚えてる?」「パートナーになったら俺を抱くってやつか」「そう。だから早く命令して」俺は乾いた舌を舐めて潤すと、恍惚とした表情を浮かべる彼に向かってコマンドを放った。
窓越しに見える彼は青白く、僅かに上下している胸が生きていることを教えてくれる。「止まれなくなるのが怖いならまだ触れないで」と言っていたのに、そうなる前にこの状態になった。彼に触れられないのがもどかしい。早く、早く目を覚まして。俺に触れて、生きていることを教えて。愛を刻みつけて。
7月11日 握る 紅茶 電車
電車の中で紅茶を飲むなんて優雅なことをしているのは、ここが二泊三日でウン百万円もする高級列車だからだ。今は執事兼恋人と二人きり。サブレをサーブして下がろうとした彼の手を掴んで引き止める。「坊ちゃん?」「今は名前で」うっそりと笑った彼は身を屈め、俺の耳元で、俺の名前を甘く呼んだ。
7月18日 滴る タイムリミット 写真
写真に写っている青い花から蜜が取れるのは一年に一度、一番月が大きく見える満月の夜のみ。その滴る蜜はどんな病でも癒すという。青い花が咲くという山に入って既に二週間。方々探したのに見つからない。タイムリミットはあと半日。早く探さなければ。これを逃せばあの人が天使に連れ去られてしまう。
7月21日 壁 仕草 ベルト
「危機感ないねぇ」変な雰囲気に後退り。壁に押し付けられて逃げ場はない。ベルトは抜き取られどこかへ飛んでいった。「俺の噂、知らないの?」「知らな…」「だよね。じゃなきゃここに来てない」舌舐めずりする目の前の獣の仕草に胸が高鳴った。逃げなきゃいけないのに、俺はその身を差し出した。
7月22日 強張る 絵画 削る
1 奴はいつもキャンバスに向き合っていた。ほんの出来心でキャンバスにかかった布を取ると俺の顔は強張った。何度もやり直ししたのか所々削った箇所がある。描かれていたのは俺だ。「あーあ、見ちゃった?」奴の声がすぐ後ろで聞こえた。「逃さないよ」逃げを打つ俺の体は瞬時に床に引き倒された。
2 薄暗い部屋に足を踏み入れると聞き慣れない音が聞こえて体が強張った。拳を握りしめて電気を点けるとキャンパスを削っている同居人がいた。「電気くらい点けろ」「いいのが描けそうなんだ。だから夢中で」彼は楽しそうに次の絵の準備している。きっと本当に鮮やかで美しい絵画が出来上がるだろう。
7月24日 もうおやすみ 穴 触れないで
1 貴方が僕に生きろと言ったから、冷たい体には触れないでおく。触れれば貴方の後を追いたくなるから。深い穴の底で眠りについた貴方を想いながら枕を濡らす。「もうおやすみ」貴方と同じ声が降ってきて頭を撫でた。
2 今日もせっせと穴を掘って汗を流した。日焼けした肌には誰にも触れないで欲しかった、のに。「おらじっとしてろって」「痛いんだってば!」「薬塗ったらもうおやすみできるんだぜ。我慢しろ」容赦なく軟膏を塗ってくる雇い主に今日も甲斐甲斐しく肌のケアをされる。夏の入江に俺の悲鳴が木霊した。
7月25日 印 指 足元
1 椅子に腰掛けた僕の足元に這いつくばり、奴は裸足の左足の甲にキスをした。「そこじゃないだろ」足先で生意気にも睨み付けてくる奴の顎を掬うと、無言で差し出された僕の親指を思い切り噛んで印を残した。「この駄犬が」蹴り上げられて床に転がっても尚、奴は挑むような目をして口元に笑みを浮かべた。
2 命令に従って彼の足元にぺたりと座り込みんだ。指先で耳を擽られるけど、声を出してはいけない。彼の長くて伸びた指は、やがて首元にある彼のものだという印をなぞった。「ちゃんと命令を聞けて偉いね。いい子」甘いグレアが放たれて、俺は彼の脚にもたれ掛かって揺らめく波に身を任せた。
7月27日 突き放す 壁 カクテル
1 まさか自分が遊び相手だとは思わなかった。突き放されて自暴自棄になり、界隈では有名なバーに来たが勝手が分からず壁の花になるしかなかった。「一杯どう?」イケメンが差し出されたのは琥珀色の酒が入ったグラス。「どうも」その酒言葉の意味も知らないまま、一気にそれを煽ったのが運の尽きだった。
2 「ごめん。俺は友達のままでいたい」長年の親友の想いを苦渋の決断で突き放す。申し訳なくて顔が見れない。視線を下に向けると、いきなり壁に押し付けられた。「何を⁉︎」「無理なら思い出だけくれよ」重なる唇から伝わったのは、直前まで飲んでいた苦味のあるカクテルの味だった。
7月29日 嗤う マニキュア 靴音
1 俺の姿を嗤う奴は嗤えばいい。派手なメイクに奇抜な髪型。体のラインを強調したラバースーツにストーンが散りばめてマニキュアを塗った爪。地味で根暗な普段とは違う、本性を曝け出せる姿が大好きだ。今夜も靴音を高らかに鳴らして光が乱反射するステージに立つ。まさかそこに同僚がいるとも知らずに。
2 逃げ切れると思ったのに、奴はとうとう本気を出してきた。響く靴音は逃げても無駄だと告げ、それは嘘ではなかった。毒々しい色のマニキュアを塗り、俺の襟首掴んで壁に押し付ける宿敵は暗く嗤っていた。「アタシのモノになる覚悟はできたかしら?」「冗談」鼻で笑った瞬間、奴は俺の耳に噛みついた。
7月31日 おかしい 指切り 首輪
1 おかしい。体が動かない。そこは窓のない部屋だった。手足は拘束され、長い鎖が繋がった首輪も嵌められている。「目が覚めた?」そこにいたのは近所に住んでいる年の離れた弟分。「僕のお嫁さんになるって指切りしたでしょ?約束は守らないとね」可愛らしくにこりと笑ったその瞳には狂気が宿っていた。
2 彼は俺のモノだという証の首輪をつけているのに支配されているのは俺だ。おかしい。だが望んだのは俺だ。「指切りしたの覚えてる?」「パートナーになったら俺を抱くってやつか」「そう。だから早く命令して」俺は乾いた舌を舐めて潤すと、恍惚とした表情を浮かべる彼に向かってコマンドを放った。
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