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ダンジョン攻略の3 見えない敵
しおりを挟むマジックバッグからランタンを取り出し、灯りを点す。
新しい魔物の襲来の気配は無い。
ポーションと回復魔法でとりあえず正気に戻った兵隊のお兄さん達にも食糧を分配。
でも、みんなで『いただきます』をする直前、エメルさんから鋭い声が飛んだ。
「食うんじゃない!」
って、もうお腹ぺこぺこなんですけど。
「解毒魔法をかけてからにしろ」
ーまさか......ー
とは思ったけど、食糧に解毒魔法を施す。.......と、黒い煙のようなものがシュウシュウと立ち昇った。
「やはり、な......」
え、どういうこと?辺境伯が、ケヴィンの父上が、俺達を殺そうとしたってこと?
ふと見るとアントーレが今まで見たことも無いような苦しげな表情で、じっと並べられた食糧を見つめていた。
「ラフィまで殺そうとするなんて....」
ギリギリと唇を噛み締めるアントーレの肩を、エメルさんが慰めるように叩いた。
「死ぬほどの毒じゃない。そうだろう、先生?」
レイトン先生が眉をしかめて手元に残っていた未浄化の食糧をスキャンして、頷いた。
「そう......ですね。痺れ薬のような、身体の機能を低下させる薬物が混入されている」
「それだって、こんなところで動けなくなったら......」
スライムや淫魔だけでなく、触手やらゴブリンだって何処に潜んでいるかわからないのに......。
俺は悪寒に身を震わせた。
「化け物どもに襲われたらどうするんだ!」
マグリットが憤慨する。その傍らでじっと何かを凝視していたルードヴィヒが重い口を開いた。
「それが狙いかもしれません。化け物に襲われて正気を喪った人間ならどうとでもできる」
「どうとでもって、誰が一体そんな......」
言い掛けて俺は、はっと口をつぐんだ。
ー俺のせいだ.......きっとー
出発の日のスゥエン兄さんの思惑を含んだ笑みが蘇る。
ー辺境伯に指図したのは、きっと兄さんだー
だが、何のために?
ふと、あの方の冷たい微笑みが脳裏を過った。
ーだけど実の弟に害意を持つなんて......ー
あの方とアントーレは実の兄弟だ。母親も同じ。いさかいを起こす理由なんて何も無いはずだ。
俺は膝を抱えて俯くより無かった。憶測でいい加減なことを口にすれば、アントーレが傷つく。
俺には沈黙するより他に術は無かった。
その肩にエメルさんの手がそっと触れた。
「犯人の追及は魔王を倒してからだ。まずは全ての食糧を浄化して食えるようにするのが先だ」
エメルさんの言葉に俺は黙って頷いた。
腹の底からふつふつと沸き上がる怒りをやっとの思いで鎮めて、冷えたパンを食いちぎった。
翌朝......。
石造りの分厚い壁の隙間からわずかに陽光が差し込み始めた。
俺達は、身支度を整え、上の階を目指すことにした。
正気に返った兵隊さん達には一刻も早くダンジョンの外に戻ることを勧めた。
回復魔法を施したとは言え、完璧な体調な訳がない。
俺の推測が正しければ、この上にいるのはおそらく......大ミミズだ。
人数は多いに越したことはないけど、回復魔法はかなり体力を消耗する。ポーションも数に限りがある。
と、レイトン先生が俺の背中を叩いた。
「大丈夫だ。リヴァロがニコルやサマリアと一緒にポーションを作って、私のマジックバッグに転送してくれている。心配するな」
そして先生は前世から見慣れたあの笑顔で、にっと笑って親指を立てた。
「俺のフォローはいつだって万全だ。そうだろう?須藤」
俺は大きく頷いた。俺達のチームはまだ健在だ。たとえ二人きりだとしても。
そんな俺達を片目で見て、エメルさんがにっこり笑った。
「さぁ、行くぞ!」
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