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お久しぶりです。ラフィアンです

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 俺、ラフィアン・サイラス、17歳かな?今は。  
 八歳で階段から転げおちて、前世を思い出した転生者だ。

 転生前は日本のブラック企業のサラリーマン。名前は須藤裕一、二十五歳で事故死。なぜか自分が開発中のBLゲーム、『奇跡の青薔薇』の世界に転生してしまった可哀想なオトコ。
 何が可哀想って?
 
 女の子いないんだよ、この世界。BL恋愛ゲームだから......俺、ストレートなのに、泣く。

 しかも俺、ラフィアン・サイラスは悪役令息だった。断罪されるのも男と結婚するのも嫌だから、なんとかバックレようと頑張ってたら、いきなりダンジョンが出来て、魔王退治に行くことになった。

 何故かと言えば、前世の後輩プログラマー、二宮が仕込んでいた隠しプログラムが開放されてしまったからだ。

 俺が何をした?断罪イヤだし、根っから小市民だから、普通に地道に生きようとしただけなのに......。そりゃ大幅にシナリオ無視してたけどさ。
 俺、前世の子ども時代に苛められっ子だったから、誰かを苛めるなんて無理。トラウマきついんだから、悪役令息なんて無理。

 で、悪役やらずに地道に真面目にやってたのに、いきなり別ゲームに突入って何なの?俺、そんなに不幸体質だったの?

 でも、まぁいいよ、ダンジョン攻略、魔王退治。後輩のミスというかやらかしを回収するのも先輩の役目だから。

 しかも魔王は『青薔薇』のシナリオを書いたBL 作家の腐女子先生らしい。
 前世の会社に乱入して転落死。一緒に窓から転落した課長道連れにこちらの世界にやってきた......らしい。裏ゲームの魔王として。

 いいよ、ダンジョン攻略、魔王退治。
 冒険の旅に出れば、断罪ルートも回避できるし、婚約者のポンコツ王子との結婚からもバックレられるし....と思ったんだよね。

 正直、腐女子魔王は怖いけどさ、色んな意味で。

 ところが......ところが、だ。






「疲れたよ。少し休もうよ、ラフィ」

 俺の後ろで泣き入れてるのは、無駄に顔面偏差値の高いイケメン、アントーレ・マーラー。俺の元婚約者。
 そう、冒険の旅に出てバックレるはずが、ついてきてしまいました、ポンコツ王子。
 はっきり言って押し付けられたんです、皇帝陛下に。おまえ、どんだけ持て余されてたのよ。ま、わかるけど......。

「ダメ!町まであと少しなんだから、我慢しろよ!」

 振り返って溜め息混じりに怒鳴るのは、案内役のケヴィン・ターナー。
 今回、ダンジョンが出来た辺境を治める辺境伯爵の息子。
 他に俺の親友で幼なじみで騎士のマグリットと魔法術師のルードヴィヒ、  
 それに大陸一の大店、シュタットの息子、ニコル。
 ケヴィンとニコルは王立学園の同級生で、やっぱり親友。

 王子様相手に平気で怒鳴ってるのは、今回の旅の最大の条件が、

ーみんな友達、みんな平等。身分一切関係無し!ー

 だから。だって不要な気を使うの、いやじゃん?おまけなんだからさ、王子は。

 初めはブースカ言ってたポンコツ王子だけど、今はすっかり慣れてる。意外に順応性高かった。想定外。

 
 そして......

「え~、でも少しだけ休憩しようよ~」

「君は勝手に付いてきたんだろ!」

 ケヴィンに叱られてる、ちょっと膨れっ面なピンクブロンドは、クリスチャン・ファンタジア改めクリスチャン・ネヴィル......そう、付いてきちゃったんです、元主人公ヒロイン

「だって、ラフィ様は僕のお婿さんになるんだから、悪い虫がついたら大変だもの」

「ラフィは私の妻になるんだ!......お前なんかにやらない!」

......て、すぐ本人無視でいらん喧嘩初めるんだよね。
 はい、そこ止め!止めないと置いてくよ!

 
「俺は誰の嫁にも婿にもならないよ」

 俺は可愛い女の子が好きなの。主人公クリスちゃん、可愛くても君は男だからパス!

 

「しょうがないな。少しだけだ休憩しよう。少しだけだよ」

 ルードヴィヒが皆を宥めるように言った。ちょっとした木陰で休息を取る。


「ラフィは大丈夫?疲れてない?」

「大丈夫だよ、マグ。僕は平気」

 マグリットは優しい。いつも俺を一番に気遣ってくれる。親友よりちょっと上の恋人未満。だって俺もマグも男だから。

「そう言えばさ......」

 マジックパックから取り出した疲労回復ポーションをみんなに配りながら、俺はふと聞いてみた。

「なんでみんなダンジョン知ってるの。今まで出現したことあったの?」

「無いよ。地下迷宮のことだろう?我が国の記録には無い」

 アントーレが答える。
 そうだよね、乙女ゲームだもん。恋愛ゲームだもん。ダンジョンなんてあるはずがない。本当なら。

「そう言えば、ケヴィンは冒険者になりたかたって言ってたよね。この世界にいるの?冒険者」

 居るはずないんだよね。俺が見たシナリオには少なくともいなかった。

「リアルでは会ったこと無いけど、でも知ってる。みんなの為に魔物を討伐して、勇者になるんだよね?」

 ケヴィンがマジックパックから一冊の本を取り出した。

「この本に書いてあった。ダンジョン攻略して魔王倒すと、英雄になれるんだろ?」

 ケヴィンが見せてくれたのは......いわゆるラノベみたいな小説だった。ラノベあるんだ、この世界......ちょっとビックリ。

「子どもの頃はあると思ってた。少ししてお伽噺だって気付いたんだけど、本当にあったんだね。俺、感動しちゃった」

 い、いやケヴィン、アクシデントだから......無いはずなんだ、本当なら。

 けど出来ちゃったんだよ。

 オタクパワーと腐女子パワーの融合が産み出した『在るはずの無いもの』なんだ。

 俺は溜め息まじりに空を見上げた。
 空はやはり青かった。

.








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