The change, is unlike

葛城 惶

文字の大きさ
上 下
16 / 36
第二章 さらば愛しき日々

第16話 我愛香港~到着~

しおりを挟む
 ヤツの自家用ジェットで降り立った時、香港は夜だった。宝石を散りばめたような夜景はとてつもなく美しく懐かしく、俺は涙が出そうになった。ヤツの黒塗りの車で乗り付けた5つ星のホテルのスイートから見下ろすそれは、俺の知ってる香港の夜よりも数倍も美しく懐かしく輝いていた。
 大きな窓ガラスに貼り付くようにして、外をじっと見つめる。懐かしい愛しい者達の住む街はこんなにも生き生きと脈動して輝いている。

「香港は初めてか?」

 ミハイルがシャンパンのグラスを片手に傍らに立っていた。俺は思わず涙ぐんでいるのを悟られないように、黙って頷いた。

「来なさい」

 ミハイルは俺の背に軽く手を当て、テーブルに引き戻した。

「たまには君も飲むといい」

 もうひとつのグラスにシャンパンを注いで俺の手に握らせる。ピンクのドンペリだ。とんでもない高級品に思わずすくんでしまう。

「俺は未成年だから.....」

と押し返そうとすると、ヤツがおかしそうに笑った。

「この前、成人しただろう」

 俺は、はっ......と思い出した。この身体の持ち主は二週間前に誕生日を迎えていた。
 そして...俺はふとアイツを思い出した。



 以前の、入れ替わる前『俺』の二十歳の誕生日。アイツとたったふたりで、でもアイツは心から祝ってくれた。
 ケーキ屋が閉まる直前で、品物も無くて、ふたりでひとつのサヴァランを分け合って食べた。アイツは物凄く済まなそうな顔をしていたが、俺は生まれて初めて誕生日を祝って貰って、それだけでとても嬉しかった。乞われてカタギの奴にたった一度、背中の刺青を見せたのも、あの日だった……。




「祝ってやれなくて悪かったな」

「いいえ......」

 俺は頭を振った。そしてミハイルの口づけを受け止めた。ヤツは俺の髪を撫でて言った。

「明日はパーティーを用意している。いい子でいたご褒美だ」

「本当に....?」

 俺は、くい.....とシャンパンを干し、ミハイルを慌てさせた。一気に酔いが回り、視界がぼやける。俺の潤んだ眼がミハイルを見つめる。感情の読めないブルーグレーの目が僅かに細められていた。俺は試しに訊いてみた。

「煙草は?」

「キスが不味くなるからダメだ」

 思わず苦笑いをした。コイーバのタリズマン、キューバ産の超高級品の葉巻の匂いを漂わせて言われても説得力がない。が、俺の部屋で燻らすことは無かったし、この部屋に用意されたオリバの葉巻に手をつけることもない。
 おそらくこいつにとってシガーを手に取る時は特別な時なのだろう。
 そう、俺に鉛玉を撃ち込んだ時のように....。

「おいで......」

 ミハイルは俺の背に大きな手を回し、深く口付けてくる。そして俺はキングサイズのベッドに押し倒され、シャツを剥ぎ取られる。
 ヤツは俺の胸に指を這わせながら囁いた。

「白くて滑らかで綺麗な肌だ。......タトゥーを入れるのは勿体ないな」

「入れるつもりか?」

「怖いのか?」

「怖くはない」

 前の俺の身体には、鷲の刺青があった。俺の背中で大きく翼を拡げ、どこまでも飛翔していくはずだった。
 こいつに追い詰められ、鉛玉を撃ち込まれて墜落するまでは.....。

「いずれ私の所有の証を刻まねばなるまい。.....お前は予想以上にやんちゃな質のようだからな......」

 言って、ヤツは俺の膝を大きく割り開いた。

「まずは、ここにしっかりと刻んでおくか.....」

 ヤツの凶悪な逸物が押し当てられ、情け容赦なく押し入ってくる。

「散々、やってるじゃないか......あっ...あぁっ」

 俺は大きく背を仰け反らせ、シーツを鷲掴む。ヤツはその手を引き剥がし、自分の背に回させた。 

「私の容を完璧に覚えさせねばならないからな。他の男に気安く脚を開いたりしないようにな......」

「だれが......そん.....な、恥ずかしい.....こと、する......かよ!......あ.......あんっ.....」

 男に犯られるなんざ、こいつだけで充分だ。出来るなら、こいつにだって犯られたくは無い。神に誓って。
 ヤツは口の端を歪めて小さく笑いながら、言った。

「お前がイヤでも、お前を欲しがる奴はごまんといる......他の男に尻尾を振らないように入念に躾けておかないとな......」

「なんだ、それ?......あっ.....あぁっ.....あひっ!」

 さんざめく地上の星空の中で俺はヤツに貫かれ、追い上げられて気を失った。数えきれないネオンの瞬きが俺を嘲笑っているような気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら俺は悪役令息らしい🤔

osero
BL
俺は第2王子のことが好きで、嫉妬から編入生をいじめている悪役令息らしい。 でもぶっちゃけ俺、第2王子のこと知らないんだよなー

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

処理中です...