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それは、山口 ハツさん(仮名)の葬式のために遺影を作るという話から始まった。
ハツさんは百歳近い高齢で、大往生。親族はもちろん悲しんでいたものの、それほど暗いムードではなかった。
葬式を行うには遺影を作らねばならない。そのためにはご遺族の手元にある写真をお借りしなければならないのだが、ハツさんのご遺族に手渡されたのは家族の集合写真だった。
「お一人か、もしくはご夫婦で写された写真は無いのですか?」
同行した写真の担当者は、少々困惑気味に同居していた娘さんに確認をした。
「すみませんねぇ。探したんですけど、これしか見当たらなくて.....」
人の良さそうな娘さんは、しきりに申し訳なさそうに言って、一枚ぽっきりの写真を撫でていたので、それ以上は要求しなかった。
しかし、誰かの法事の際に写したとかというその写真にはかなりの多人数が写っていた。
「ハツさんはどちらですか?」
なにぶんにも大人だけでも十名近い。更に女系なのか、年配の女性だけでも五、六人はいる。
「そうねぇ......確か......」
娘さんは、担当者に改めて確認をされて、老眼鏡を掛け直して、ハツさんの顔に付箋を貼ってくれた。
俺達は娘さんに丁寧に礼を言い、葬儀の段取りの打ち合わせをして、その写真を持ち帰った。
集合写真から遺影を作るには、一度写真を複写して伸ばして、大勢の中から、故人の写っている部分を更に拡大して、加工するのだ。
遺影の作成は担当者に任され、写真は彼の部署に渡した。
ハツさんは百歳近い高齢で、大往生。親族はもちろん悲しんでいたものの、それほど暗いムードではなかった。
葬式を行うには遺影を作らねばならない。そのためにはご遺族の手元にある写真をお借りしなければならないのだが、ハツさんのご遺族に手渡されたのは家族の集合写真だった。
「お一人か、もしくはご夫婦で写された写真は無いのですか?」
同行した写真の担当者は、少々困惑気味に同居していた娘さんに確認をした。
「すみませんねぇ。探したんですけど、これしか見当たらなくて.....」
人の良さそうな娘さんは、しきりに申し訳なさそうに言って、一枚ぽっきりの写真を撫でていたので、それ以上は要求しなかった。
しかし、誰かの法事の際に写したとかというその写真にはかなりの多人数が写っていた。
「ハツさんはどちらですか?」
なにぶんにも大人だけでも十名近い。更に女系なのか、年配の女性だけでも五、六人はいる。
「そうねぇ......確か......」
娘さんは、担当者に改めて確認をされて、老眼鏡を掛け直して、ハツさんの顔に付箋を貼ってくれた。
俺達は娘さんに丁寧に礼を言い、葬儀の段取りの打ち合わせをして、その写真を持ち帰った。
集合写真から遺影を作るには、一度写真を複写して伸ばして、大勢の中から、故人の写っている部分を更に拡大して、加工するのだ。
遺影の作成は担当者に任され、写真は彼の部署に渡した。
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