上 下
25 / 50
二 通小町

巡り合いて......(二)

しおりを挟む
 転校生の深草くんは、俺の予想通り、入ってきて早々、毎日、休み時間ごとに女子に囲まれております。隣の教室からも越境してくる女子もチラホラ。

 物腰も柔らかく、紳士的に極めてにこやかに対応しておりますが、その様はさながら肉食獣に囲まれた草食獣。ちょいガクブルな眺めでございます。

 でも上手くあしらってるみたいで、男子とも気さくに喋ってるからクラスでの好感度は高め。
 俺はあんま喋ったことないけど。

 なんだろう。なんか近づきにくいっていうか、近づきたくないんだよね、気分的に。怖いんだ、なんとなく。
 それは水本もうっすら感じてるみたい。


「俺、あいつ好かない」

 ある日の昼休み。購買の焼きそばパンを頬張りながら、珍しく水本が眉根に皺を寄せて、ひそひそ俺に囁いた。
 人の好き嫌いを滅多に口にしない水本の発言に俺はお握りを落としそうになった。

「お前でも嫌いな奴いるの?」

 深草くんが女子にモテるからってらしくなくない?ファンは断然お前の方が多いと思うよ。 

「ちげーよ!」

  片手の牛乳パックを握り潰しながら、水本は一層俺に顔を寄せて囁いた。近い、近いよお前。

「あいつ、コマチのことずっと見てるんだぜ!?」

「はぁ?」
 
思わず変な声が出ちまった。しっ......っと唇に指をあてる水本。大丈夫、誰もこっちは見てないな。

「気のせいだろ?俺、なんもやってないぜ?」

「いや......絶対見てる。時々、俺と目が合うとすんげぇ睨まれるし、あいつ、コマチに気があるんじゃないか?」

「はあぁ?」

 コーヒー牛乳吹き出しそうになっちまったじゃないか。俺、男なんだけど。深草くんもそういう趣味はないと思うが?

「とにかく気をつけろよ」

 よく分からないけど、コクコク頷く俺。チラッと盗み見た深草くんは女子の間から俺じゃなくて水本を凍りつくような目で睨んでた。なんだろう?モテ男同士、なんか気に障るのかもな。

「まぁ何があっても、俺が守ってやる。コマチは俺の大事な.......だからな」

 うん、ありがとう。パンを口の中に入れたまんま喋るから、一部モゴモゴして聞こえなかったけど、まぁ夏休みの大冒険の秘密も共有してる、大事な相棒だもんな。頼りにしてるよ。
 
「そう言えば、日曜日、練習試合だろ?N高と」

「うん、応援きてくれるか?」

「もっちろん!」

 バスケ部のエース、S高の光源氏の活躍、楽しみにしてるよっ。

 で、後は午後の授業の間、まったりお昼寝をして、小野崎先生に小突かれました。
 お腹いっぱいになると眠くなるんだもん。先生がイケボ過ぎるのが悪い。


 どうせ、俺理系だから、ほどほどでいいの。牛頭さん達も教えてくれるし。
 牛頭さん、馬頭さんは相変わらずじいちゃん家に滞在中。
 帰りの遅いお袋の代わりに飯作ってくれて、加菜恵の家庭教師もしてくれるから、お袋も喜んでます。小野崎先生ごせんぞさまありがとう。

 ただね、#牛頭__赤__さん#馬頭さん達、なんか最近、過保護スイッチ入ってるみたいで、ひとりで帰るとすんごい心配そうに

『何もありませんでしたか?』

ってしつこく訊くんだよね。ウチの学校には不良とか特にいないし、俺、基本モブだから絡まれない。
 水本は目立つけど、礼儀正しいし、バスケ部の先輩にも可愛がられてるから、ワルは寄ってこない。実は喧嘩めっちゃ強いしね。



 そう言えば、この前、深草くんがヤバめな先輩達に囲まれてたけど、先生呼ぶ間もなく、あっさり教室に戻ってきてたな。

『部活に勧誘されてただけだよ』

って心配してた女子ににっこり答えてた。
 その後、例の先輩達の姿を見かけなくなったから、上手くかわせたんだろうな、うん。
 深草くんも見かけによらず喧嘩強いタイプかもしれない。

 


  
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

残念な女教師と笑わない僕

藍染惣右介兵衛
ミステリー
 【僕の先生はグラマーな和風美人。だけど、残念系!】  それは恋なのか、変なのか……  それは性なのか、聖なのか……  容姿端麗な新米女教師と笑わない少年が紡ぐ物語。  学内や学外で起こる様々な出来事を解決していく二人。 教師と生徒という立場を乗り越えて愛が芽生えるのかそれとも…… 「咲耶君……パンツを脱がせてほしいの」 「前からなら脱がせます」 「お尻より前が見たいの? エッチだなぁ」 「爆風に巻き込まれないための予防策ですよ」  僕は美咲先生のパンツをゆっくりと引きおろす……  そしてまた、今夜も夢の中でアイツが出てくる…… まるで僕の欲望を写し出す鏡のように。 【※一旦、完結させています】

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

虚像のゆりかご

新菜いに
ミステリー
フリーターの青年・八尾《やお》が気が付いた時、足元には死体が転がっていた。 見知らぬ場所、誰かも分からない死体――混乱しながらもどういう経緯でこうなったのか記憶を呼び起こそうとするが、気絶させられていたのか全く何も思い出せない。 しかも自分の手には大量の血を拭き取ったような跡があり、はたから見たら八尾自身が人を殺したのかと思われる状況。 誰かが自分を殺人犯に仕立て上げようとしている――そう気付いた時、怪しげな女が姿を現した。 意味の分からないことばかり自分に言ってくる女。 徐々に明らかになる死体の素性。 案の定八尾の元にやってきた警察。 無実の罪を着せられないためには、自分で真犯人を見つけるしかない。 八尾は行動を起こすことを決意するが、また新たな死体が見つかり…… ※動物が殺される描写があります。苦手な方はご注意ください。 ※登場する施設の中には架空のものもあります。 ※この作品はカクヨムでも掲載しています。 ©2022 新菜いに

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

駒込の七不思議

中村音音(なかむらねおん)
ミステリー
地元のSNSで気になったこと・モノをエッセイふうに書いている。そんな流れの中で、駒込の七不思議を書いてみない? というご提案をいただいた。 7話で完結する駒込のミステリー。

処理中です...