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最低なクリスマス

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 アントーレ王子と主人公クリスのカップルはなかなか上手くいってるようでひと安心。外野があれこれ言ってますが、気にしない。
今年のクリスマスは楽しく過ごせそう。

と思ったら王宮から呼び出しが来ちゃったよ、おい。



 召集令状、じゃなかった招待状の送り主は、なんと皇太子ウィスタリア殿下。バックレる訳にもいかないんで、大人しく参上いたします。
 俺をドナドナしていくのは、殿下の御学友でもあるスゥエン兄さん。逃げられるわけないでしょ?

 一張羅の深紅のベルベットのスーツに身を包み......って一張羅なわけじゃないんだけど、スゥエン兄さんが大至急で仕立てさせたの。本当に弟思いなんだから。トホホ.....。


 宮殿について案内されたのは東の宮、早い話が皇太子ウィスタリア殿下のお住まい。当たり前のようだけど、こっちは殿下のいわばプライベートスペース。一般のお客は入れない、はず。まあスゥエン兄さんが一緒だからかな、とこの時は思った。

「まぁ掛けなさい」
 
 一人用のソファーから優雅に手招きするウィスタリア殿下。顔の造りはアントーレ王子と大差ないけど、圧が違う。破壊力満点のイケメンフェイスに低めのイケボ。こちらを見る眼差しの目力が半端ない。怖いよう。

 恐る恐るソファーに座る。隣にスゥエン兄さん。ちょっと安心かな。パンパン、と手を叩くと給仕が素早くお茶のセットを持って俺達の前に置く。

 殿下は一口、お茶で舌を湿らせるとおもむろに口を開いた。

「初めまして、かな。ラフィアン・サイラス。兄上からよく話は伺っているが、本当に美しい。おまけに武勇にも優れているんだって?」

「そんな......」

 恐縮する俺の隣でウィスタリア兄さんがにっこりと笑う。

「お褒めにあずかり光栄でございます。自慢の弟です」

「そうか」

 殿下もにっこり。なんだけど、おふたりの笑顔がなんか黒く見えるのは俺の気のせい?

「君はアントーレの婚約者だそうだが......」

 殿下はお顔の前で形の良い手を組んで言った。

「彼とはうまくいっているのかね?......最近、彼に他に想い人が出来たと聞いたんだが......」

「そ、それは......」

俺は心の中でガッツポーズを取りながら、俯いて答えた。小芝居、小芝居。演技力無いけど。

「仕方ないんです。僕に魅力が無いので......」

「そんなことはあるまい」

 殿下が椅子を立ってこちらに歩み寄ってきた。

.「君はとても魅力的だよ」

 じぃっと俺を目を見つめる。近い近い、高過ぎますって殿下。

「アントーレが嫌なら、私の側室にならないか?私は平等に愛せる男だよ」

 はあぁ?何言ってるのこの人。兄さんに助けを求めようとしたら、いない。え、なんで?兄さんどこ行ったの。

「どうだね?アントーレとの婚約など破棄して、私のところに来ないか?」

 長い指が俺の顔に触れる。あのこれ、顎くいっ、てやつですか?
 婚約破棄はしたいけど、そういう意味じゃな~い。

「殿下、失礼いたします」

 もう少しで顔がくっつきそうになった時、重々しいノックの音と侍従さんの声。

「なんだ?」
 
「アントーレ殿下がお見えです。至急にお目にかかりたいと......」

 ウィスタリア殿下は眉をしかめて俺から離れた。
 ナイス乱入。やるじゃん、ポンコツ。今だけはお前がストーカーで良かっと思うわ。今だけだけど。
 
 しぶしぶと扉の方に歩みつつ、イケメンフェイスがくるっと振り向いた。

「友達は選びなさい。ラフィアン・サイラス。君は皇妃になるかもしれないのだからね」
 何言ってんだコイツ?お前の愛人になんかならねーわ!
 フッと目を背けると、スゥエン兄さんが俺を見て頷いた。

ーそうか、わかった!ー

 マグリットとルートヴィヒを襲ったのは誰か、俺は察知した。

ーお前らかよ!ー

 俺の大事な友達を傷つけようとしたのは、ウィスタリア殿下。それとスゥエン兄さんだった。

ー信じらんねぇ!ー

 俺は殿下の部屋を飛び出し、一目散に外へ走った。

「ラフィアン!」

 誰かが呼び掛けてきたが、俺はショックで足を止められなかった。走って走って、宮殿の中庭まできて、芝生に倒れ込んだ。
 頭も心もぐちゃぐちゃだった。

「ラフィアン、大丈夫か?」

 顔を上げると、トニー兄さんが心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。

「兄さん?!」

 俺は兄にすがって泣いた。
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