上 下
5 / 34
幼少期の章

邪魔をされるクソゲー

しおりを挟む
オーデルハイン家敷地内の森の中。



そんなところに荷物置き用の屋敷があるのだが、俺の現住居だ。

放任主義なのでね。こっちも好きにしてみた。まあ、数人の使用人も巻き込んでしまったけれど。

最初はここが荷物置き用の屋敷だと聞いたときは意味が分からなかったけれど。

なかなかこじんまりしているし、森の中の小さな屋敷というステータス的にもいいんじゃないかと思う。

それにしても屋敷、なんかゲームの中でも見たことあるなと思ったらジュタがヤンデレ化したときにヒロインを閉じ込める屋敷がここだった。荷物置き場にヒロインを閉じ込めるんじゃない。

どおりで兄上の反対が無かったなぁとか嫌なことを察してしまったから考えることをやめた。





そんな屋敷に訪れてくるのは兄上だけだったのに、最近暇人が来るようになった。邪魔である。兄上だけでも邪魔なのに。



「よぉ。今日はウォーキングか」

「Qちゃんの大好きなお兄ちゃんが来たよ」

「キーン様とお兄様……またいらっしゃったのですか」



ここ最近頻繁に遊びに来てしまうようになった暇人という名のキーンと、嬉々としてそれについて来た兄上。

幸い俺はいつも淑女の勉強のために女装を事欠かなかったからいまだに男の姿を見られてはいない。まあ、女装していなくても俺は十分すぎるほどに可愛いから問題なし。

そして今まではちょいちょい来られるたびに授業を中断して相手していたけれど、別に大した会話があるわけでもないので早々に中断することをやめた。

キーンはそれを気にする様子もなく、眺めていたり野次を飛ばしたりアドバイスをくれたり。本当に自由だ。

それにしたって護衛の一人もつけずに来るのはどうなんだと言ったら兄上を指さしていたので、兄上はご学友兼護衛らしい。

果たして主よりも俺を優先するであろう兄上を護衛としてカウントしていいのだろうかと思わなくはない。



さて、今まで邪魔しないならいいかと思って放置してきたけれど流石に存在が邪魔だ。

面倒だからさっさと話しを聞きだしてやるしかないのだろう。明らかにここ最近何かストレスを抱えているようだし。いや普段からこの人はストレスフルだけども。

「申し訳ないのだけれど、一度中断してくださる?」

「かしこまりました。それでは一時間後に再開いたしましょう。今Q様の紅茶を用意いたします」

ありがとうみんな。

キーン様と兄上の座っているソファに向かい、自然な流れで膝に乗せようとする兄上を避けて隣に座った。

「やめるのか?」

「休憩です」

お前のせいやで、とは言わないでおこう。

めげずに手を絡めて来ようとする兄上の手をするりと叩いて紅茶を飲む。あっつ。



「キーン様は暇を持て余していらっしゃるのですか?」

「暇なわけねぇだろ」

なら来るなと思うのは俺だけか?

こっちはお前の誕生日パーティーの為にお勉強中なんだぞ邪魔するんじゃない。

「確かにQの思う通りだし、そもそもお兄ちゃんとしてはキーンが此処に来ることを全くよく思っていないから早急にやめて欲しいところだけどキーンに同情しなくもないから止められなかったんだよ」

「これが建前」

「Qちゃんと休みでもない日に昼間から一緒に居られることの幸せがやみつきになった」

「こっちが本音」

どさくさに紛れてギュッと指を絡めて手をつながれてしまったので気色悪さが増してしまったのは誤算だ。



「お前ら兄弟は今まで何人から気持ちわるい兄弟だなって言われてたんだ?」

うちの使用人たちがそんなこと言うわけないだろ。美しき兄弟愛だ。きっとたぶん。



「兄という生き物にまともな人間はいないのか?」

「こんなのを世の中の兄属性に含めないでください。これは極めて特殊な例です」

「Qちゃんだけの特別なお兄ちゃんってことか」

「ジュタは今のセリフから何を読み取ったんだ。行間じゃなくて本文を読め。言葉通りに解釈しろ」

ね。特殊でしょ。



「そもそも、キーン様のお兄様こそまともと言えるでしょうに」

「あ?」

顔こわ。

え、何。顔こわ。

「それ以上怖い顔をするなら泣きますが?」

「緩やかな脅しをするんじゃねぇ。はぁ……隠しても無駄か。大したことじゃないんだが、」

「え、まさか悩みを相談する気ですか。そういうのはちょっと」

こっちをなんだと思っているんだこの人は。

俺TUEEEE転生者だと思ったら大間違いだ。どちらかと言えば俺KAWAEEEEだぞ?

正直言って顔が良いということ以外何も無いんだぞこっちは。相談されても困る。そもそも相談されたくない。

「……大したことじゃないんだが、」

「あっダメだこれ相談されてしまうやつですわ」



「最近第一王子が俺の周りをうろちょろしてるんだ」



……で?



え、終わり?

ぱちぱちと瞬きをしてキーンを見つめるけれど、悲壮感を漂わせて頭を抱えているだけ。うん。次の言葉はないらしい。

……いやいやいやいや、それだけ?

これは中々に小規模過ぎる。

オブラートに包まずに言ってしまえば、心の底からどうでもいい。



「……気のせいではありませんこと?」

「気のせいじゃねぇ」

「鈴でも付けとけばいいんじゃないですか?」

「Qちゃん、第一王子は熊じゃないからね」

じゃあ水の入ったペットボトルを置いておくとか、CDでも吊るして置けばいいんじゃないかな……この世界にペットボトルもCDもないけど。

というか死ぬほどどうでもいい。

うろちょろしてるって無視すればいいだけの話では?

しらーっとしてる俺に兄上は

ぽん、と肩に手を置いて首を振った。

わあ、悲壮感。

「Qちゃんは見た事がないから言えるんだよ。私に対してでは無いからまだ耐えられるけれど……」

「あの人の顔を見るのは3日に1回でも充分過ぎるのに……最近は3時間に1回はあの人の存在感を感じている気がするぞ。俺は一体どんな罪を犯したんだ?」

そんな見ただけでSAN値が減少するみたいに言わないであげて。

仮にも相手は第一王子なんですけど。



それにしても第一王子ねぇ。

今世の俺は顔すら見た事ないけど。クソゲーの記憶を引っ張り出しても、正直全く分からない。

ただ、第一王子が何故ここまで苦手に思われているのかについては心当たりがある。



第一王子は言葉が足りなくて、無表情で物静かで何を考えているか分からない。

そして強引なのかといえばそうでも無く、王族ムーブかますのかと思えばそうでもない。ゆるいのだ。

誤解されやすく。嫌われやすい。

そういう設定だ。



そう、設定。

つまり、このクソゲーのクソ雑強制力が働いている可能性が高い。

だから世界の強制力により『何となく苦手』に思ってしまうのではないのだろうかと思う。

確か、メインキャラの中で第一王子に好感を持っているのはヒロインと悪役令嬢のみ。後はみんな苦手だったり近寄り難かったり様々だが要はマイナスの感情を向けていたはず。

これはあながちSAN値減少も間違っていないかもしれない。



更に言えば、前世での第一王子のあだ名は『情緒不安定王子』だ。

理由は簡単。

第一王子のみ好感度が勝手に変わるバグが起きるからだ。

MAXからゼロになるなんてザラで、個別ルートに入ろうものならランダムで必ず一度好感度が勝手にゼロになる。

攻略するのに運が必要なのだ。何のゲームをしているのか分からなくなった。ちなみに個別ルート中にセーブしたら立ち絵が消える。

その場合諦めて最初から始めるか、どこいくねーん!どこで話しとんねーん!なツッコミを入れながら虚無との恋愛をするしかない。

だから、割とみんなネタとしては第一王子が好きなのだが何を考えてるのか全く分からない。深い考察を出されても製作者そこまで考えてる気が全くしないし。

他の攻略キャラと違って、第一王子に関してはみんな本当にヒロインが好きなのだろうかと必ず1度は思ってしまう。そんなところなので本当に会ってみないとなんとも言えないし。



はあ、なんとも可哀想な話だ。

もう面倒くさいからクソゲー世界くんは黙って俺の可愛さに敗北してくれ。





「話しかけてみれば良いのではないですか?」

「ぜってー無理」

「Qちゃんはお兄ちゃんのことが嫌いなのかな?」

「嫌いじゃないから泣かないで兄上」





こうして、立ったフラグは当然のように回収される訳で。

キーンの誕生日パーティで俺は初めて第一王子と出会うことになる。



このクソゲーの悪役令嬢が一目惚れした第一王子に。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら、ラスボス様が俺の婚約者だった!!

ミクリ21
BL
前世で、プレイしたことのあるRPGによく似た世界に転生したジオルド。 ゲームだったとしたら、ジオルドは所謂モブである。 ジオルドの婚約者は、このゲームのラスボスのシルビアだ。 笑顔で迫るヤンデレラスボスに、いろんな意味でドキドキしているよ。 「ジオルド、浮気したら………相手を拷問してから殺しちゃうぞ☆」

【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした

エウラ
BL
どうしてこうなったのか。 僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。 なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい? 孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。 僕、頑張って大きくなって恩返しするからね! 天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。 突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。 不定期投稿です。 本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。

モブに転生したはずが、推しに熱烈に愛されています

奈織
BL
腐男子だった僕は、大好きだったBLゲームの世界に転生した。 生まれ変わったのは『王子ルートの悪役令嬢の取り巻き、の婚約者』 ゲームでは名前すら登場しない、明らかなモブである。 顔も地味な僕が主人公たちに関わることはないだろうと思ってたのに、なぜか推しだった公爵子息から熱烈に愛されてしまって…? 自分は地味モブだと思い込んでる上品お色気お兄さん(攻)×クーデレで隠れМな武闘派後輩(受)のお話。 ※エロは後半です ※ムーンライトノベルにも掲載しています

風紀“副”委員長はギリギリモブです

柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。 俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。 そう、“副”だ。あくまでも“副”。 だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに! BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。

悪役令息・オブ・ジ・エンド

田原摩耶
BL
――悪役令息?ゲームのキャラ? ――この記憶はなんだ? ――じゃあ、この俺は一体何者なんだ? 金持ち学園に通う死亡確定悪役令息のリシェスは、死亡フラグを回避するために原作BLゲームの主人公兼転生者である『アンリ』と同じ行動を取り、婚約者であり運命の番である幼馴染のアンフェールのスチルイベント回収しようとした結果、深刻なエラーが発生してしまうお話。 婚約者に甘い硬派な幼馴染α婚約者×死に戻る度に記憶が増えていく悪役令息ポジションΩ受けメインの総受け ※主人公が可哀想な目に遭いがちなので、なんでも許せる方向け

悪役令息に憑依したけど、別に処刑されても構いません

ちあ
BL
元受験生の俺は、「愛と光の魔法」というBLゲームの悪役令息シアン・シュドレーに憑依(?)してしまう。彼は、主人公殺人未遂で処刑される運命。 俺はそんな運命に立ち向かうでもなく、なるようになる精神で死を待つことを決める。 舞台は、魔法学園。 悪役としての務めを放棄し静かに余生を過ごしたい俺だが、謎の隣国の特待生イブリン・ヴァレントに気に入られる。 なんだかんだでゲームのシナリオに巻き込まれる俺は何度もイブリンに救われ…? ※旧タイトル『愛と死ね』

ぼくは男なのにイケメンの獣人から愛されてヤバい!!【完結】

ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。

BLゲームのモブとして転生したはずが、推し王子からの溺愛が止まらない~俺、壁になりたいって言いましたよね!~

志波咲良
BL
主人公――子爵家三男ノエル・フィニアンは、不慮の事故をきっかけに生前大好きだったBLゲームの世界に転生してしまう。 舞台は、高等学園。夢だった、美男子らの恋愛模様を壁となって見つめる日々。 そんなある日、推し――エヴァン第二王子の破局シーンに立ち会う。 次々に展開される名シーンに感極まっていたノエルだったが、偶然推しの裏の顔を知ってしまい――? 「さて。知ってしまったからには、俺に協力してもらおう」 ずっと壁(モブ)でいたかったノエルは、突然ゲーム内で勃発する色恋沙汰に巻き込まれてしまう!? □ ・感想があると作者が喜びやすいです ・お気に入り登録お願いします!

処理中です...