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第二章:

マイ・フェアリー・レディ④

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 そんなやり取りをしていると、周りのざわめきが少しだけ収まった気がした。参加した皆さんが上座の方に注目しているので、わたしも急いで身体ごと向き直る。

 案の定、大きな両開きの扉がさっと開いて、さっきの礼装姿で堂々と歩いてくる王様がいた。そのすぐ後ろには、やっぱり同じ格好でマントだけ替えたマックスさんが続いて、そのさらに後から侍従さんらしき人も付き従っている。

 二人と同じか、少しだけ小柄な男の人で、ランヴィエルの保護者組くらいの歳だろうか。長めの髪を肩の上で結んでいて……

 (……、あれっ?)
 《イブマリー? どうかしたの?》
 (うーんと……あの侍従さん、どこかで見たような気が)

 するんだけど、とアンリエットに返事するより、正面に来たアレクサンドルさんが話し始める方が、ちょっとだけ早かった。

 「皆、急な呼びかけにもかかわらず良くぞ集まってくれた。王家を代表して礼を言う。
 今宵は久方ぶりに来訪したベルンシュタイン公、およびその息女の歓迎ということで、ささやかな宴を催させてもらった。来たる正式な社交期の始まりに向けて、特に初めて王宮舞踏会に参加する予定の若い者らは、ぜひとも良い機会と捉えてほしい」
 「――とは言いつつ、毎年こうやって軽く練習の場を設けているんだけどね。兄上は」
 「あ、そうなんだ。優しいなぁ伯父さん」

 横からこっそり、本人が聞いたら絶対怒りそうな解説をしてくれるエルお父さんである。ついいつもの口調に戻ってしまいつつ相づちを打ったら、それはもう嬉しそうな顔でウインクが返ってきた。うんうん、仲良しでいいなぁ。

 「残念ながら王妃は公務で不在ゆえ、舞踏の一番手は王太子に任せるとしよう。わざわざ衣装替えまでして気合十分なのでな」
 「それは陛下、張り切らざるを得ませんでしょう! 我が従姉妹君をエスコートする大役となれば!!」
 「張り切るなとは言っておらん。分かりやすくて見ておって恥ずかしいわ、全く」
 「ははは、申し訳ありません! 正直な性分でありますので!!」

 相変わらず元気いっぱいなマックスさんに、やれやれと言わんばかりの調子で王様がツッコミを入れる。そのやり取りにあちこちから笑い声が上がって、大広間の雰囲気が一気に和やかになったのが分かった。

 きっといつもこういう会話をしていて、それがみんなに受け入れられているんだろうな、という感じだ。何かイイな、そういうの。

 自然に笑顔になったところで、こちらにまっすぐ歩いてくるマックスさんと目が合った。お父さんに一礼してから、わたしに向かってもう一度お辞儀をする。いつもみたいに明るくて、それでいてとっても優しい声で、

 「――私の社交デビューは、勿体なくも叔母上に付き添っていただいた。彼女の横を歩けて、誇らしくも頼もしかったことを覚えている。
 だから今宵、自分がその名誉を得たことが嬉しい。イブマリー、君にとっても良い時間になることを願う」
 「……はい! よろしくお願いします!」

 しっかりと応えて利き手を預けながら思う。ランヴィエルの殿下とは全然雰囲気が違うけど、この人もめちゃくちゃカッコいい王子様なんだなぁ、と。


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