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第一章:
リンデンブルクへと続く道⑤
しおりを挟む異変が起こったのは、本当にごく最近のことだったらしい。
「『星燐』の管理をするのは、大神殿でも高位の神官に限られる。いつどこの神殿に送り届けたか、どのような目的で用いたかを、逐一記録に残してくれている。俺たちは年に数回、定期報告としてその写しを受け取っているんだ。
つい数日前、記録の引き取りに使者が出向いたところ、神殿長から相談を受けた。水にも風にも消えないはずの焔が、時おり苦しそうに揺らぐ、と」
「それが今さっきのあれですか。確かに一瞬小さくなってたけど」
説明を受けて、再びディアスが目を凝らす。先ほど息切れのような動きを見せていた焔だが、すでに鎮まって静かに光を放っているようだ。普通の火ではないだけに、見たままの情報を鵜吞みにするのは危険だろうが。
「……記録を引き取りに、と申されたか? 神殿から王城へ使者が行く、のではなく」
「うむ。こうしたやり方は他国では珍しいというし、驚くのも無理はないか。話せば長くなるが、我が一族は大神殿に多大な恩を受けてきた。彼らの日々の役目を雑務で邪魔しないように、ということで、こちらから信頼のおける者を送るようになったと聞く」
「成程……その、直接相談を受けたという使者殿と、マックス殿は面識がおありなのですか」
「もちろんだとも。皆にも紹介しよう、いったん席についてくれ」
立ち話をさせて済まないな、と気持ち良く謝罪してくれたマックスに促され、そろって中央のテーブル周りの椅子に陣取る。着席したのとほぼ同時に、先ほど下がっていった侍従の青年が戻ってきた。一抱え以上はある銀のトレーに、大きな銀のポットと人数分のティーカップを載せて、危なげもなく静かに歩いてくる。
「お待たせいたしました、ただ今ご用意いたします」
「ありがとう、よろしく頼む。――実はな、その時の使者というのが彼なんだ」
「えっ!? そうだったんですか!?」
「あー、そっか。こういう場にいて大丈夫な人だし、ちょっと信頼してるんだろうなぁとは思った」
突然にこやかにカミングアウトされて、思いもよらなかったらしいスコールがぴゃっと耳を跳ね上げる。完璧な人払いを視ていたディアスの方は、ある程度の予想はしていたようだ。そしてショウはというと、
「――アーディス殿、と申されたか。直属の側近衆のお一人、といったところですかな」
「ご慧眼痛み入ります。王太子殿下の近侍を任されております、アーディス・モリオンと申します。どうぞお見知り置きを」
正面から目を見て話しかけると、あちらもまた同じように挨拶を返してくれた。間近で見れば、黒っぽい髪は薄っすらと緑がかっており、切れ長の瞳は銀灰色。すっきりと整った涼しい面差しで、黙って無表情を貫いていると少々冷たく感じるかもしれない。
が、今は淡いながらも穏やかな微笑みを浮かべていて、立場に相応しい落ち着いた物腰と相まって好印象だ。年下であろう自分たちにもきちんと対応する辺り、大切な役目を賜るに値する誠実な御仁と見える。
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