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第一章:
リンデンブルクへと続く道④
しおりを挟む手ずからカーテンをめくってみせ、ここから見てくれと身振りで示したマックスに、やや警戒を解いた三人が倣う。
城は高台に建てられており、そこから見晴るかす王都――リンデンブルクの街並みは、遠目にも活気に満ちた華やかなものだった。とりどりの色合いを持った屋根が集う合間に、もこっとした緑色の梢が列をなしているのが見て取れる。街の名前の由来であり、国を象徴する樹木であるボダイジュの並木だ。
比較的大きな通りに沿って植えられている広葉樹は、初夏に良い香りのする花をつける。今はまさにその準備段階といったところで、てっぺんがうっすらと萌黄に染まっている木々があちこちにあった。
そしてそんな、季節を感じさせる風景の奥。郊外に堂々とそびえ立っている、ひと際目立つ建造物があった。
「……あれって神殿ですか? 形式的にはアストライア様かな」
「あの、見て分かるものなんですか。どの神様の神殿だ、って」
「東邦でもそうだが、祀る神々によって凡その形式が決まっていると聞く。かの女神は人の運命と、それを示す星々の運行を司る故、ああして高い塔を作ることが好まれるそうだが」
「その通り。あれぞ我が国のアストライア信仰、その本拠である大神殿だ。歴代王族の誕生や成人、華燭の典を寿ぎ、魂を弔ってきた場でもある」
弔い、と口に出したとき、常に快活な王太子の声がわずかに沈んだようだった。ぴこっ、と耳を動かしたスコールが眉を下げ、心配そうな様子で振り仰ぐ。それを受けたマックスはひとつ瞬きをして、いつもより柔らかな笑顔になると、空いている手で元気よく頭を撫でてやった。イブマリーもそうだが、このパーティの面子は本当に情が深い。
「あ、あわわわわ」
「うん、ありがとう。つい思い出してしまってな。……それで、だ。ディアス、あの塔の最上階に灯りが見えるだろうか?」
「ああ、はい。白い――いや、違うな? ものすごく質のいいオパールみたいな色してますけど、あれ」
「そうだ。あれは『星燐』といって、大神殿でのみ灯る。いわば神気の結晶ともいえる、虹色の焔だ」
この炎は水に触れても消えることはなく、むしろ四代元素を浄化してその力を高める。燃えるにあたって木も油も必要ないため、水晶などの鉱石、もしくは魔力強化したガラスで作った容器に入れて、各地の神殿に配ることも出来る。年に一回、大神殿からもたらされた新しい炎と取り換えるのが習わしだという。
そして何よりも重要なのは、この『星燐』は灯っているだけで周囲の瘴気を清め、魔物の侵入を防いでくれる、という点だ。
「つまり、滞りなく燃えていることが街、ひいては国全体の防衛につながる。三百年前に王都と定め、王城と同時に建造されて以来、一度として絶やされたことがないという。有り難いことだ。――俺を含め、リンデンブルクの民は皆そう思っていたんだが」
ぼ、ぼ、ぼ……
息をついた王太子が、一転して厳しい目つきになる。金の瞳が睨むように見つめる先、数多の色に瞬く炎が、息切れするように大きく揺らいだ。
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