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第一章:
独白①
しおりを挟むこわい。
おそらく、こんなに身に迫って感じたのは、生まれてこの方初めてだ。それはきっと、自分のような生業を選んだ者にとって、とても幸いなことだったろう。
(だって、いつもお前がいたから)
明かりひとつない無明の闇。徒人であれば歩くことも侭ならないだろうそこを、能う限りの速さで駆け抜ける。追いかけてくるものを振り切るように。
――本当にそうできたなら、どれほど良かったか。
(大丈夫、分かっていてやったことだ。多分、……きっと分かってる。ちゃんと)
己の選択がどれだけ重大な影響を及ぼすか。当事者のみならず、その周辺にどれほどの辛苦を強いるか。聞いて、見て、考えて、その上で決めた。後悔など一欠片もない。
でも。
(怒る、だろうなぁ。あいつはやさしいから)
鳥の羽根が毟られるように。魚の尾びれが裂かれるように。命のように大事なものが、この身から剥がれ落ちていく。今の自分が、刻一刻と死んでいく。
そのことが、それが為に大切な半身を傷付けることが、こわい。
行く手にちら、と光が見えた。隧道の終わりが近い。ここを抜けた瞬間から、己は己でなくなるだろう。
疾駆してきた足を刹那止めて、振り返る。精一杯、笑みを作る。
「行ってくるよ、――」
役目を果たしに行くとき、口癖のように言ってきたことを、もう一度だけ繰り返して。絡み付く未練と不穏な気配の全てを断ち切り、身ひとつで出口へと飛び込んだ。
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