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第七章:
ごきげんよう、『六連星』①
しおりを挟む「――やれやれ、どうにかひと段落付いたと見えるな。面倒なことよ」
『ほっ!』
白亜の離宮が海を臨む商都から、時間にして数日の距離。
グローアライヒの中心となっているその場所で、オズヴァルドはほっと一息ついている最中だった。腰かけたひざの上には、今日も愛くるしい元幽鬼のホーリィがちょこん、と大人しく収まっている。
「昔の因縁に巻き込んでしまったな。我が取りこぼしたばかりに、あの子らにも迷惑をかける」
ヨナスのことは、ずっと懸案事項ではあったのだ。出来る限り早くに手を打っておこうと、現役時代にあれこれ準備もしていた。
が、それを本格的に動かすには、己には時間がなさ過ぎた。ああするしか方法がなかったとはいえ、数百の日々を離宮のダンジョンで過ごしてしまったのが悔やまれる。
先人は、未来に様々なものを残していくのが常だ。が、それが先送りにした問題ばかりでは、後の世を生きる者らに申し訳が立たない。孫とも子とも思う若人たちのために、自分に出来ることがまだあって良かった。
『ほー』
「……うん? どうした、客人か?」
『ほっ』
「――失礼いたします。オズヴァルド殿はご在室でしょうか」
袖を引いてこっくりうなずいたホーリィの声と、ほとんど同時に扉が叩かれる。次いで響いた静かな声には、すでにしっかりと覚えがあった。ここの家主が重用する部下のひとりだ。名は確か、
「おお、アーディス殿か。如何した」
「我が主より御言伝です。先日の件、詳しくお伺いしたき議があるゆえ、失礼ながら執務室までご足労願えまいか、と」
「相分かった、すぐに参ろう。なに、年寄りには適度な散歩も必要よ」
呼びつける程度気にするな、と言外に告げながら、窓辺の椅子から立ち上がって扉へ向かう。その後には当然のごとく、キグルミ姿の元幽鬼が続く。
背を向けた窓の外には、この建物――グローアライヒを象徴する建造物から望む、国一番の活気を誇る街並みが、抜けるような青空の元に広がっていた。
「――はいっ、出来た! ティノくんたち、準備オッケー?」
『オッケーでーす!』『ふぃー!』『こんこんっ』
「はーい、いい子。おかーさんとおとーさんはー?」
「私はいつでも。ユーリはどうかな」
「ちょ、ちょっと待ってね、いま深呼吸するから! ……よしっ、行くわよ!!」
気合十分で手をかざした先に、この前も見た光のドアが現れる。内側に向かって開いていった先は、静かな深い森の一本道に繋がっていた。数日ぶりに見る《妖精の路》だ。やっぱりきれいだなぁ。
「よーし大成功! それじゃアンナさん、行ってきますね」
「皆、留守の間をよろしく頼むよ」
「ええ、お任せくださいませ。さあみんな、旦那様と奥方様、そしてお嬢様のお出かけですよ~」
「「「「いってらっしゃいませー!!!」」」」
「はい、行ってきまーす!」
とっても嬉しそうなアンナさんの音頭に続けて、大勢――ほとんどお邸中が集まってるんじゃないか、という大人数がいっせいに挨拶してくれる。それがくすぐったくもありがたくて、わたしはついついにへっとマヌケな笑顔になってしまいつつ、声だけは元気よく返事をしてみせた。
――ヴァイスブルクから黒い帳が取り払われて、はや数日。とってもいい天気に恵まれた本日、わたしたちは初めて親子そろってのお出かけをすることになった。
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