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第七章:
おめざめですか、イブマリー⑥
しおりを挟む「うちの国……ランヴィエルだったら、外から探しても見つけられないんですか?」
「というより、あの国は魔法の発動そのものに制限を課せられるんだ。基本的に外部から内部に向けた術は、国を守る結界によって効果を削られるから、精度が大きく落ちてしまう。それに加えて、ランヴィエルの精霊たちは人間と接したがらないし、指示に従おうとする気持ちも薄い」
「そ、そうですっけ!? でもあの、わたし」
「うん、全員がそうではないよ。特に君の場合、ユーリと直接の血縁関係にあるから、自覚し辛かったことと思う」
プレイ中の記憶をたどってみても、アンリエットが魔法を使えなくて困ったシーンはほとんど思い当たらない。ガワの人に話しかけてみようかと考えている間に、意味深なことを言った公爵さんの視線を受けて、またユーリさんが説明を引き受けていた。ため息交じりの重い口ぶりで、
「あんまり話したくないんだけどね……今のランヴィエルが出来るより前、ざっと千五百年くらい昔かな? あの辺を治めてた大きな国があってね、エルフとわりと仲が良かったの」
その頃は、まさにユーリさんとこの地元の森でも普通にエルフと交流していた時代だ。ひともものも自由な行き来があり、その国は魔法技術の発達によって大いに栄えていたらしい。エルフからは様々な支援を受けていたんだけど、中でも特別大切にされたプレゼントがある。
「ほら、星影花を見たでしょ? あんなふうに、仲良しの相手には大切な草花を贈り物にする習わしがあるの。そこの国にもやっぱり、友好を願って贈られた花があったそうなんだけど……」
ある時、長年大事に育ててきたはずの花が、一夜にしてすべて枯れてしまった。ユーリさんが言うには管理のせいじゃなくて、国に一大事が起こることを教えてくれようとした、らしいのだが、
「……そこの王族ね、エルフにバレたらマズいからって、専属でついてた園丁の世話が至らなかったに違いないって話も聞かずに追放して。で、その人は気に病んですぐ亡くなっちゃって」
「う、うわああ……後の展開が手に取るようにわかる……!!」
「そーね、貴女いいカンしてるわ。うん」
すでにイヤな予感しかしない。ティノくんたちを抱っこしてガクブルするわたしを、ユーリさんが褒めてくれつつ同情のまなざしを向けている。なんかすみません。
「まあざっくり言っとくと、後でその顛末を知った同族がそりゃもう怒ってね。あのたわけども、今後一切顔も見たくないって縁切りして、それが原因で国内の精霊からも根こそぎ反感買って。
そのあとで案の定、内乱が起こって国が荒れに荒れた時も、王家が滅びて魔物がはびこった時も、何一つ助けてあげなかったらしいから。……森に逃げ込んだ一般市民だけは保護したそうだけどね」
凄まじい昔話である。最後に付け加えたひとことにちょっとだけ安心したけど、それってつまりおバカやった張本人たちは誰一人助からなかった、ってことでは……詳しく考えるのは止めとこう。うん。
「その後に出来たランヴィエルはね、千年コツコツ地道にやってきたおかげで、みんなも『まああんな感じならいいかなぁ』って大目に見てくれてるの。だから、エルフ側が切ったとき一斉にそっぽ向いた精霊たちも、術師に応えてくれるようになったわけ。
それでもやっぱり影響は残ってて、魔法素材が取れにくかったり、光属性の術者が出にくかったり、私たちの出入りが難しかったりするんだけど」
「ああ、だからアイテム……ごほん、素材がやたらと高かったんだ。ユーリさんも《妖精の道》とかも使えなかったんですね? ドクターストップならぬエルフストップで」
「そういうことね。……って、全部言い訳にしかならないんだけど……」
盛りだくさんだった情報を整理してみたわたしに、ユーリさんはこっくりうなずいてから、また肩を落としてしまった。だからお二人だけのせいじゃないというのに。
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