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第七章:

おめざめですか、イブマリー④

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 いつの間にドアから入って来たのか、ユーリさんの背後にいたのはもちろん公爵さんだった。今日もお休みらしく、タイなしでシャツにベストだけ合わせた気楽な格好だ。さっきティノくんたちが言ってたことを併せると、もしかしたら強制的にお休みさせられてるのかもしれないけど。

 なんて思ってたら、案の定、

 「エル、ちゃんと休んでるの? ヴィクトルさんに付いてもらってたのにいないし」

 「彼にはちょっと頼まれてもらっているんだ。女将のところに届け物があってね。ほら、お客人がいるだろう?」

 「……あー、はいはい。現役時代からホント仲が良いよね~二人とも」

 「はは、ずいぶんご無沙汰だったからね。でも、君が邸にいてくれるのだって久しぶりだ。私はいつまでも愛しい妻を放っておいたりはしないよ? 勿論のこと」

 「…………もー、貴方ってホントに昔っから……」

 (う、うわあああああ)

 突如始まったやり取りに、どんなリアクションをすればいいのかわからなくてパニックになった。こ、これはティノくんが言ってたの、冗談でも何でもないな!? 現にわたし、一応身内のはずだけど、その目の前ですっごいこと言ってるもんな!? いや文化圏的にはこれがフツーなのか!? 教えてガワの人ぉ!!

 《普通なわけないでしょう……あら、でも、リックのご両親もよくよく考えたらこういう感じだった、かも……?》

 (ほらあ! やっぱりー!!)

 脳内でそんなやり取りをしていると、ひとしきり甘ーい会話をし終わったらしき公爵さんが再び話しかけてくる。

 「さて、迷惑云々は置いておくとして」

 「置いとかないでよ……」

 「いや本当に。今となってはむしろいい思い出だからね、私たち全員の」

 「……あ、はい、そーですか」

 「とにかくだ、ユーリの体質というか、これまでの生い立ちについてはもうわかったと思う。我々が出会った経緯も」

 「はい。大丈夫だと思います」

 「よし。それでは、その後の話をしようか。おそらく、今君が最も気になっていることだと思うが」

 ここで説明は公爵さんにバトンタッチされて、穏やかな声で分かりやすく教えてもらったところによると、だ。

 王家の伝統にのっとって身分を隠し、ユーリさんを含めた五人の仲間と一緒に冒険者活動をしてた公爵さん。楽しくて充実した日々はあっという間に過ぎていったんだけれど、正式にここの領主を継ぐのが決まって、きちんと引退することにした。別に在籍したままでもいいらしいが、本人曰くけじめを付けたかったんだそうだ。

 その時、思い切ってずっと好きだったユーリさんにプロポーズ。無事OKをもらい、その年の初夏に結婚することが出来た。そしてちょうど一年後に生まれたのが、何を隠そうわたし――というかガワの人・アンリエットだったわけだ。

 「ユーリそっくりの銀の髪で、泣く数の倍は笑う子でね。私も妹がいて、ごく小さな頃から面倒を見ていたから、子供には慣れていると思っていたんだが、……我が子はこんなにも可愛いのか、抱くとこんなに幸せなのかと、驚いたものだ」

 「……何だか毎回涙目になってるような気がしたけど、そんなこと考えてたの、貴方」

 「うん、実はね。でもユーリも同じだったはずだけどな」

 「ほっといてちょうだい! 暖炉の前で揺り椅子揺らしてあやしながら泣いたりなんてしてないんだからっ」

 「はいはい、分かっているよ」

 (――あっ、あの夢ってそういうことか!)

 いつだったか、起きる寸前にそんな光景を見た気がする。どうりで視界が狭くて視線が低いと思った、あれって赤ちゃん視点だったのか!

 それにやり取りは冗談交じりだけど、それをしている二人は本当に懐かしそうで、うんと優しい目をしている。何だかじんとしてしまった。……ガワの人、大丈夫かな。わたしが先に泣くのはなんか違う気がするし。

 とにかくお二人の様子で、目いっぱい可愛がってもらってたことは伝わってくる。となると、やっぱり問題は――

 「……ええと、そんなに大事にされてたのに、なんでいなくなったんですか? わたし」

 別に責めたいわけじゃないのは、アンリエットも私も同じはずだ。だから出来るだけ静かに聞いてみたんだけど、それでもふっと息を詰めた気配があった。何だか申し訳なくて、内心で縮こまったときだ。

 「……攫われてしまったんだ。信じ難いことだが、おそらくはユーリの――妖精の側に近い存在によって」

 わずかに声を低めた公爵さんの口から、出し抜けにとんでもない爆弾発言が飛び出したのは。

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