297 / 372
第六章:
私を夜明けへ連れてって⑤
しおりを挟む「かーさんただいま!! 大丈夫だった!? お店のみんなは――むぎゅ」
「う゛わ゛あああんお嬢様ああああ!! お帰りなさいご無事でよ゛がっだ~~~~」
「ちょっ、ルカさん、気持ちはありがたいけど落ち着いて……ぐふっ」
「おばさーん、ただいまー! ケガとかしてない? 私治すよー」
「はいはい、お帰り。ありがとね、幸いみんな無事だったから、気持ちだけ頂いとくよ。ライラもお疲れ様」
『有り難き幸せにございます』
街の上空で何度か爆音が轟いたのち、ようやく薄日が差し始めたヴァイスブルク。そんな中、店員一同が立てこもっていたグラディオーレ商会では、ちょっとした騒ぎが持ち上がっていた。原因は――もはや説明するまでもないが、店主の娘とその友人が無事に帰還したことだ。
戻ってくるなり涙目、いやほぼ泣いているルカにしがみ付かれ、もがきつつ元気に呻いているフィアメッタである。その横からこれまたいつも通りの様子で挙手してくれたリラに、人工精霊ともどもねぎらいの言葉をかける女将だ。
実はこちらも看板娘同様、心の底から安堵しているのだが、それを人前で露わにすることもなかろう。見た目も中身もだいぶ自分に似ている娘の性格からして、親に泣かれるなんて心臓に悪い以外の何でもないだろうし。
「詩人さんとエラお嬢ちゃんも無事だね? 安心したよ。……で、そっちの兄さんはずいぶん早く帰って来たねぇ」
「ご心配をおかけしました、女将。皆さんのお力添えあってこそです」
『うん、ありがと。そういえばスガル、蜜蜂誘拐の情報元はどうだったの?』
「いやーははは、それがですね? なんか思いの外あっさりと裏が取れちゃいまして」
普段通り丁寧に受け答えるフェリクスと、その肩に落ち着いている妖精蜂。そして相変わらずの調子で頭をかいている忍びの青年は、最初に会った時のように濃い灰色の布で顔を隠していた。戻ってくる道すがら、余計な混乱を防ぐため、と女性陣に厳命されたのである。
「正直、ここまですんなり行くとは思わなかったなー。まあ動かぬ証拠がいくつもあったし、お手伝いしてくれたひとたちもいたし」
「え、誰か助っ人呼んできたの? 忍者ってこっちにそんなたくさんいるもん?」
「いんや、ふつーのひと。――って言ったら悪いか、一応専門職だしな。ほら、離宮にいる王子様の部下のひと。ルークさんていったっけ」
「はあ!? あのひとランヴィエルに行ったんじゃないっけ!?」
「そうなんだけどさ。なんか、俺を雇ったひとに勘付かれたっぽい? らしくて、山ン中で地崩れ喰らわされたんだって。
ツイてたのは、あのひとの生得魔法が空間移動系だったことかな」
レオナール共々国外にありながら、幾度となく本国と行き来できた理由がこれだ。土砂に埋まりかけながらも、他の侍従共々かろうじて脱出した彼は、直前に目撃した諸々から犯人の目星をつけたらしい。
その推理が正しいことを証明すべく、こちらも裏ルートから情報を得ようとグローアライヒに戻ってきたところで、偶然同じ相手に用があったスガルと出くわしたのである。そして、
「俺に情報寄こしたのって、言ってた通り裏の住人なのね? いろいろ決まりがあるから屋号は伏せるけど、表向きはここの街でふつーに商売やってるひとだよ。そこそこ名前も通ってるタヌキ、いや古株だし、依頼人に関して口割らせるのはめんどい、もとい時間かかるだろうと思ってさ。
しょっぱなでオズヴァルドさんの名前出したら、顔面ソーハクで一から十まで全っ部しゃべってくれたんだけど。あの人マジで何モンなのよ??」
「そんなダイレクトに効くもんなの!?」
「うわあ、またじいさま伝説が増えた……」
納得いかない、と目元と声で主張するスガルの説明に、『紫陽花』女子コンビの悲鳴と呻きが続いた。その手の世界につながりがなくても、情報屋の口が貝みたいに堅いことは何となくわかる。ホントに何者だ、あの元霊導師。
「とにかくそーいうわけなんで、ルークさんたちは速攻で離宮に戻ってったよ。俺はなんとなく公爵邸に行った方がいいかなーと思って、街の様子見ながらあの辺まで行ったとこで合流したんだけど」
「とりあえず経緯はわかったよ。で、その取れた裏ってのは?」
「ああはい、それがですね」
『――ひっぽおおおおお!!!』
『ままま~~~!!』
「ひでぶぅっ!?」
「きゃーっ!! だ、大丈夫ですか!?」
「あっ、まんちゃんにドゥーさん!!」
突如階段から転がり落ちてきたもふもふに、思いっきり直撃を食らったスガルが忍びらしからぬ悲鳴を上げて押しつぶされる。同じく焦りまくりのルカに手を借りて脱出を図る、その背中でじたばた訴えているのは、お眠を理由に留守番をしていたイブマリーのお供たちであった。
0
お気に入りに追加
230
あなたにおすすめの小説
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる