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第六章:

私を夜明けへ連れてって⑤

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 「かーさんただいま!! 大丈夫だった!? お店のみんなは――むぎゅ」

 「う゛わ゛あああんお嬢様ああああ!! お帰りなさいご無事でよ゛がっだ~~~~」

 「ちょっ、ルカさん、気持ちはありがたいけど落ち着いて……ぐふっ」

 「おばさーん、ただいまー! ケガとかしてない? 私治すよー」

 「はいはい、お帰り。ありがとね、幸いみんな無事だったから、気持ちだけ頂いとくよ。ライラもお疲れ様」

 『有り難き幸せにございます』

 街の上空で何度か爆音が轟いたのち、ようやく薄日が差し始めたヴァイスブルク。そんな中、店員一同が立てこもっていたグラディオーレ商会では、ちょっとした騒ぎが持ち上がっていた。原因は――もはや説明するまでもないが、店主の娘とその友人が無事に帰還したことだ。

 戻ってくるなり涙目、いやほぼ泣いているルカにしがみ付かれ、もがきつつ元気に呻いているフィアメッタである。その横からこれまたいつも通りの様子で挙手してくれたリラに、人工精霊ともどもねぎらいの言葉をかける女将だ。

 実はこちらも看板娘同様、心の底から安堵しているのだが、それを人前で露わにすることもなかろう。見た目も中身もだいぶ自分に似ている娘の性格からして、親に泣かれるなんて心臓に悪い以外の何でもないだろうし。

 「詩人さんとエラお嬢ちゃんも無事だね? 安心したよ。……で、そっちの兄さんはずいぶん早く帰って来たねぇ」

 「ご心配をおかけしました、女将。皆さんのお力添えあってこそです」

 『うん、ありがと。そういえばスガル、蜜蜂誘拐の情報元はどうだったの?』

 「いやーははは、それがですね? なんか思いの外あっさりと裏が取れちゃいまして」

 普段通り丁寧に受け答えるフェリクスと、その肩に落ち着いている妖精蜂。そして相変わらずの調子で頭をかいている忍びの青年は、最初に会った時のように濃い灰色の布で顔を隠していた。戻ってくる道すがら、余計な混乱を防ぐため、と女性陣に厳命されたのである。

 「正直、ここまですんなり行くとは思わなかったなー。まあ動かぬ証拠がいくつもあったし、お手伝いしてくれたひとたちもいたし」

 「え、誰か助っ人呼んできたの? 忍者ってこっちにそんなたくさんいるもん?」

 「いんや、ふつーのひと。――って言ったら悪いか、一応専門職だしな。ほら、離宮にいる王子様の部下のひと。ルークさんていったっけ」

 「はあ!? あのひとランヴィエルに行ったんじゃないっけ!?」

 「そうなんだけどさ。なんか、俺を雇ったひとに勘付かれたっぽい? らしくて、山ン中で地崩れ喰らわされたんだって。
 ツイてたのは、あのひとの生得魔法が空間移動系だったことかな」

 レオナール共々国外にありながら、幾度となく本国と行き来できた理由がこれだ。土砂に埋まりかけながらも、他の侍従共々かろうじて脱出した彼は、直前に目撃した諸々から犯人の目星をつけたらしい。

 その推理が正しいことを証明すべく、こちらも裏ルートから情報を得ようとグローアライヒに戻ってきたところで、偶然同じ相手に用があったスガルと出くわしたのである。そして、

 「俺に情報寄こしたのって、言ってた通り裏の住人なのね? いろいろ決まりがあるから屋号は伏せるけど、表向きはここの街でふつーに商売やってるひとだよ。そこそこ名前も通ってるタヌキ、いや古株だし、依頼人に関して口割らせるのはめんどい、もとい時間かかるだろうと思ってさ。
 しょっぱなでオズヴァルドさんの名前出したら、顔面ソーハクで一から十まで全っ部しゃべってくれたんだけど。あの人マジで何モンなのよ??」

 「そんなダイレクトに効くもんなの!?」

 「うわあ、またじいさま伝説が増えた……」

 納得いかない、と目元と声で主張するスガルの説明に、『紫陽花』女子コンビの悲鳴と呻きが続いた。その手の世界につながりがなくても、情報屋の口が貝みたいに堅いことは何となくわかる。ホントに何者だ、あの元霊導師。

 「とにかくそーいうわけなんで、ルークさんたちは速攻で離宮に戻ってったよ。俺はなんとなく公爵邸に行った方がいいかなーと思って、街の様子見ながらあの辺まで行ったとこで合流したんだけど」

 「とりあえず経緯はわかったよ。で、その取れた裏ってのは?」

 「ああはい、それがですね」

 『――ひっぽおおおおお!!!』

 『ままま~~~!!』

 「ひでぶぅっ!?」

 「きゃーっ!! だ、大丈夫ですか!?」

 「あっ、まんちゃんにドゥーさん!!」

 突如階段から転がり落ちてきたもふもふに、思いっきり直撃を食らったスガルが忍びらしからぬ悲鳴を上げて押しつぶされる。同じく焦りまくりのルカに手を借りて脱出を図る、その背中でじたばた訴えているのは、お眠を理由に留守番をしていたイブマリーのお供たちであった。

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