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第六章:
ファイター・イン・ザ・ダーク⑨
しおりを挟む別行動を取る際に言っていたとおり、妖精蜂にもまた『先導』のスキルがある。例えば先日のイブマリーたちのように、濃霧で視界が遮られて身動きが取れないときでも、労せずして正しい道がわかるのだ。今のような状況で、これほど頼もしい能力はない。
ただし妖精、もしくはその眷属は強い光属性を持っているため、リラたちの二の舞になる可能性はかなり高い。絶対に低いところを飛ばない、と約束した上で斥候に立ってもらったのだが……
少し先の角から、小さな光るものが飛び出してきた。そのまま高速でこちらへ向かって空を翔けてくるうち、光の中で思い切り涙目になっているエラの姿が見えてくる。よかった、どうにか無事だったらしい。
『ああっ、いたー!! すぐ見つかってよかった~~~』
「どしたのエラちゃん、すっごい泣いてるよ!? なんかあった!?」
『あったっていうか、いたの!! すぐ逃げて、もうそこまで来てるわ!!』
「来てるって何が!?」
基本的に会ってからずっとにこにこしていたエラだ、この様子だとかなりマズい状況であることは間違いない。詳しいことを訊きたいのは山々だったのだが、残念ながら『あちら』がやって来る方が早かった。
……ずしゃあ。
辺りを徘徊している不死者たちは、大抵が裸足だ。大勢が石畳の道を歩いているので、足を引きずるような音が絶え間なく耳につく。それを押しのけて響いたのは、もっとずっと重くて湿った大きなものだった。ほぼ同時に、先ほどの角からのっそりと現れたのは、
「……げ、蜘蛛っ」
「うわあああでっかいしなんか気色悪い~~~!!」
『鬼淵蜘蛛っていうの! 多分アンデッドと一緒に呼ばれちゃったんだと思う!!』
「これはまた、珍しいクリーチャーですね……」
そろって声を引きつらせる女性陣を庇う位置に移動しつつ、フェリクスの表情も険しくなる。何てことだ、ここに来て更なる厄介事が出来してしまった。
すでに全身が露わになっているその『蜘蛛』は、異形というのが相応しい見てくれをしていた。優に二階建ての家ほどはあるだろう巨体は半透明で、禍々しい紫色のあちこちに紅く光る核のようなものがある。
鋭い爪先が石畳を掻く後ろから、白い糸のようなものをずるずる引きずっているのが分かった。これだけは通常通りの数である金色の複眼が、ぎょろぎょろと方々を睨めつけている。
この世界の幽世に棲むというクリーチャーだ。毒水が凝って出来た胴体と脚、己で紡ぎだした氷の糸を周りに展開している。池や沼地など、澱んだ水があるところに出没し、身体の各所でちらちら光っている複数の紅い核は、幽世をうろうろしていた亡者の魂で、浮かばれない彼らが現世に戻りたいと無理やり体を作った結果がこの蜘蛛なのだとか。
なるほど、エラが泣いて戻ってくるはずだ。彼らは妖精蜂や月光蝶など、翅のある生き物たちの天敵だという。さらに発生由来のおかげで闇属性も併せ持つから、近づくだけで澱んだ瘴気にやられてしまうだろう。よくぞ逃げ切った、無事でよかったと褒めちぎってあげたいくらいだが……
「……あのさーフェリクスさん、あの紅いの、全部潰さなきゃダメ……?」
「はい、おそらくそういうことになるかと……魂の集合体であるなら、それぞれの核を別個として数えねばならないでしょうし……」
「無理ー!! 私の生得魔法じゃ間に合わないよ、数多すぎるっ」
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