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第三章:
今そこにあるフラグ④
しおりを挟む『だからね、もしかしたらここから先のこと、ちょっとわかるんじゃないかなと思ったの。どうかなぁ』
「うーんと、少しだけど……」
「わかるんだ。早速すごいわね」
「いや、そんなでもないよ? ほんとに断片的だし」
今のところはヤバい予感しかしないし、というところは口をつぐませてもらうことにする。着実に巻き込まれてるのが恐ろしい。
――ええい、こうなったら頑張るしかないか。大体一番大きな死亡フラグをへし折り済みなんだし、何より追放前後と違ってひとりっきりじゃないし。多分きっと大丈夫!
さて、ひとまず覚悟を決めたところで、今わかっている情報を整理することにしよう。
「じゃあミツバチ失踪事件て、病気とかじゃないんだ」
「わたしが見た感じでは、だけどね。何か目的があって、誰かが誘拐してる雰囲気」
『やっぱハチミツとりたいのかなぁ』
「そーね、花によっては魔力を持ってるやつもあるし。……ただ、あちこちで大量にってことになるとよくわかんないわね。複数の群れがごっそりって話よ?」
わたしの膝の上にちょこんと座るティノくんと、左右に陣取ってその肉球をぷにぷにしている女子コンビが首をかしげている。まあそうなりますよね、はい。
突入したら死亡フラグ乱立待ったなしという、あまりにも過酷なシナリオのせいで私に避けられまくった『デスハニークエスト』。なんだけど、絶対やらないと決めてた分ストーリーだけは知っとこうと思って、友達に大雑把なあらすじを確認してあったのだ。
まず最初は知っての通り、ミツバチの失踪を調査するところから始まる。フィアメッタが言ったようにとにかく規模が大きいので、個人が出来心でちょろまかしたとは考えにくい。それは主人公たちもすぐに考えて、まず被害に遭った現場を回ってみることになるのだ。
そこでまた敵さんとの戦闘が始まるなり、新たな手掛かりが見つかるなりする――はず。たぶん。実際にプレイはしてないので、あくまでも予想でしかないけど。
「じゃあ、いちばん直近で被害が出たとこに行ってみるか。街からわりと近かったはずだぞ」
「では一旦ギルドへ戻って、態勢を整えてから向かうとしよう。
ご領主、折角のお招きを無碍にしてしまい、申し訳ありませぬ」
「いや、そもそもこちらが我儘を言ってのことだったからね。またいつでも遊びに来るといい。――そうだ、少しだけ待っていなさい。手土産を持ってこよう」
黙ってわたしたちの話し合いを見守ってくれてた公爵さん、ここでさっと立ち上がると、傍らのメイドさんから鋏を受け取って中庭に出ていく。ぱちんぱちんと景気のいい音がして、本当にすぐ戻ってきた手元にはたくさんのバラのつぼみがあった。
あれ? これって確か……
「これ星影花じゃないですか⁉」
「ああ。この花を持っていると、暗闇や霧の中でも迷うことがない。普段より夜目も利くようになる。ただし、花が開いてから散ってしまうまでの間だけだが」
「え、でも、エルフからもらった大事な花って……」
「うん、大切なものだよ。だからこそ、私の大切な後輩たちに持って行ってほしいんだ」
「う、は、はい……!!」
良い人だ! 一ミリの疑いもなく良い人だー!!
いやホント、わたし今すぐここのうちの子になりたい。世の中のえらい人たち、ぜひとも全員見習って‼
笑顔で大変快く、希少な花を分けてくださった公爵さん。心の感動メーターが振り切ったわたしが、脳内で叫びつつ涙目でお土産を受け取ったのは言うまでもない。
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