デッドエンド済み負け犬令嬢、隣国で冒険者にジョブチェンジします

第二章：

春ウサギに訊いてみろ②

　半分以上涙目になったうちの子を、むぎゅっと押しつぶしているのは、一見うさぎのような動物だった。

　ただし全身が淡いピンク色で、大きな耳がもふもふした翼みたいな形になっていて、ついでに尾も長い。そんなふさふさのしっぽを元気よく振りながら、うちのマンドラゴラさんの紫の花に顔を近づけて、はぐっと一口――ってちょっと待て!!

　「わああっ、だめだめだめお腹壊しちゃうから!!　まんちゃんこっちおいで!!」

　『まーっっ』

　『きゅう』

　とっさに割って入って、食べる寸前で首の後ろを持って引き離す。間に合って良かった！

　まんちゃんことマンドラゴラの一族は、魔法薬の材料としてとっても有名だ。月の明るい夜になると歩き回るため、全身に浴びた月光によって強い浄化や解毒の作用を持ち、呪いや毒を解除するための薬には必ずと言っていいほど使われる……んだけど。

　うちの子は育つ途中で日光に当たっちゃったから、そういう特性が本来のものと全部変わってしまっているのだ。何がどう変わったかは現在進行形で調べてもらっているので、契約者のわたしですらよくわからないという闇鍋みたいなスキル持ちなのだった。うっかり口にしたらどんなことになるのか、想像するのも恐ろしい。

　飛びついてきた被害者（たぶん）をよしよしとあやしてあげている間、うさぎっぽい子は特に暴れるでもなくきょとんとしている。こうやっていると本当に、ちょっと細かいところが違うだけの小動物にしか見えないんだけど……

　「おーい、イブマリー、見つかったかー？」

　「まんちゃんどうしたの？　井戸か何かに落ちちゃった？」

　「はい、わりとすぐ。この子が花をかじりかけてたみたいで」

　後ろからやって来たみんなと合流して、ひとまず軽く状況を説明しつつうさぎさん（仮）を持ち上げてみせる。案の定、リラがぱあっと目を輝かせた。

　「わあっ、かわいい！　これうさぎ？　じゃないのかな、ちょっと耳とか違うね」

　「んー、ちょっと待ってな。とりあえずマンドラはこれ飲んでて」

　『まあっ』

　ダッシュでわたしのフードに避難した激レアさんに、いつもおやつにあげてるポーション（液肥）の小瓶を渡して、ディアスさんが生得魔法を発動させる。エメラルドグリーンの目でうさぎさんを眺めて、ちょっと感心したような表情と口調で教えてくれた。

　「――ああ、確かにうさぎじゃないな。この子はもっと妖精とか精霊に近いやつだ、ひとんちの庭に出るなんてめずらしいぞ」