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第一章:
ヴァイスブルクの休日④
しおりを挟む(……うわあ)
とっさに顔をあげた先にいた人を見て、思わず心でつぶやいてしまった。うっかり口に出すのだけはこらえた自分をほめてあげたい。
「……どうした、やはりどこか痛むか? なら座れるところまで移動を」
「わああっ大丈夫、大丈夫ですから! 抱っこして運ぶのは勘弁してくださいっ」
「そ、そうか、すまん」
親切にも自分からお姫様抱っこの体勢に入ろうとしてわたしに全力拒否され、目をぱちぱちさせているその人。
赤みがかった金髪、つまり真新しい銅みたいな色合いの髪を襟足だけ伸ばしてくくっていて、意思の強そうな大きめの瞳は琥珀みたいな黄褐色だ。鮮やかな色彩に負けない、目鼻立ちのくっきりしたイケメンさんだった。
ついでに付け加えるなら、ものすごくよく響くきれいな声をしている。今すぐオペラかミュージカルの舞台に立っても通用しそうだ。……なんだけど、
(なんかこの声、どこかで聞いたことがあるような……)
妙にデジャブる感じを覚えつつ、すぐさま適当に距離を取ってぺこり、と頭を下げる。心配して言ってくれてるんだってよく分かるけど、こんなたくさん人がいる前で初対面の相手に横抱きされるとか恥ずかしすぎる。いや知り合いでも困るけど。
「ぶつかってすみませんでした。どこも何ともないので平気です、ご心配なく。じゃあこれで」
「ああいや、待ってくれ」
「はい?」
「先ほどからこの小動物が離れてくれないんだが、もしかしなくとも君の知り合いではないか? そちらから飛び移ってきたように思う」
『ふにゃ~~~~』
「あっホントだ! なにやってんのティノくんー!!」
いつの間にか移動して、お兄さんの背中でくつろぎまくってた雷獣さんをあわてて引き剥がした。なんかさっきから左肩が軽いなぁと思ったら!
「もうっ、初対面のひとにべたべたくっついちゃダメでしょ。迷惑だってば」
『えー、だってこのおにーさん、かみなりの気配がしてひっついてるときもちいいんだもん~』
「はい? 気配って?」
「おお。俺の属性を自力で読み取るだけでなく、人語まで解するとは素晴らしいな。よほど高位の精霊とみた」
『えへへへ、そーなの。ありがと~』
大きな手で優しく撫でてもらっているティノくん、とってもリラックスしていて気持ち良さそうだ。この子は人懐っこいけど野性動物の本能なのか、いつもは会ったばかりのひとに自分から触られにいったりはしない。よっぽどその気配がお気に召したらしい。
「では君は、精霊使いか幻獣使いだろうか。良いな、俺も一応はギルドに籍を置いているが、家業があって専念出来ないから羨ましい」
「あ、そうなんですか。じゃあわたしはついさっき登録したばかりなので、お兄さんのがだいぶ先輩ですね。えーっと」
そうだった、そういえば名前を知らないんだった。今更の事実に思い至って、聞いていいですかーというつもりで首をかしげてみせる。それを見た相手は何がそんなに嬉しかったのか、にこーっととってもまぶしい笑顔になると、大変気持ち良く答えて下さったのである。
「マックスという。良ければ、俺にも君の名前を教えてもらえないだろうか」
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