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第七章:

地獄(ゲヘナ)より愛をこめて⑦

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 ほっそりしたきれいな手の上で、静かに輝いているのはガラス製らしき小瓶だった。

 十センチちょっとくらいの大きさで、透明に淡いピンクがグラデーションで入っていて、所々に金粉でアクセントがしてあるという可愛らしいデザインだ。これもガラスとおぼしき蓋はユリみたいな花の形になっていて、本体共々うっすらと内側から光っていた。

 見るからに女子が好きそうな一品だけど、こんな焼け野原みたいになった場所には心の底から似つかわしくない。 そんな内心が顔にも出ていたみたいで、グレイさんはおかしそうにちょっと笑ってから説明してくれた。

 『先程部屋に入ってきたとき、隅の方で光っているのを見つけたんだ。あの爆発でヒビひとつ入っていないとは畏れ入るけれど……どうも中身が入っているようでね、開けてみてくれないかい?』

 「え、わたしが開けちゃっていいんですか?」

 『勿論。むしろ君が解放すれば喜ぶと思うよ』

 なんだか意味深なセリフだけど、危ないものではなさそうだ。素直に受け取って蓋のユリに手をかけ、えいっと一気に引っこ抜く。すると、

 ぶわあっ!!

 「ひゃあ!?」
 真昼の太陽でも召喚したみたいな閃光が走った。瓶の口から出てきたそれは、わたしの目の前の床に落ちる、というか集まって、何かの形を作ったかと思うと、現れたときと同様にぱっと消えてしまう。そのあとに残っていたのは、

 「リュシー!?」

 「……え? あれ、私……?」

 お行儀よく横座りの体勢で、きょときょとと辺りを見渡しているのは、さっきまでさんざん人様に迷惑をかけていた黒幕さんにそっくりな人物だった。

 ただし顔つきは同じでも表情がすごく優しいし、仕草もおしとやかだし、何故か右側の髪がバッサリ切れてて気の毒なことになってる、って辺りが違う。

 驚いて思わず叫んだら、ぱっと勢いよく振り返った相手と真正面から目が合う。とりあえず声をかけようとした、んだけど、

 「うわあ!? ちょっ、なんで泣くのー!?」

 「……っ、ふぇ、アンリさん……!!」

 美少女が目の前で突然ぶわあっ、と大粒の涙をこぼし始めたら誰でもあせると思う。わたわたしてる間にこれまたいきなり抱き付かれてしまい、思わずぐえっといいかけて何とかこらえた。偉いぞわたし。

 「わ、私達、早く何とかしなきゃって……! でもなんにも出来なくて、結局ひどいことしただけになって、どんなに謝ったって足りません……!!」

 「う、うん、それは大体わかってるから。大丈夫、リュシーも殿下も悪くないよ」

 「でもっ」

 「はいはい、もう泣かないの。せっかくまた会えたんだから、もっと喜んでほしいなぁ。リュシーは笑顔の方が似合うと思うんだけどな、わたしは」

 「……っ、はい……!」

 代理である中のひと的に、罪悪感が全くないといったらウソになる。けど、よしよしと頭をなでてあげたヒロインが、やっとのことで泣き笑いみたいな表情になってくれたので、プラマイゼロってことにしていただきたい。

 アンリエット本人だったら絶対こう言うだろうと思うし……いいよね、うん。
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