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第七章:

縁は異なもの転がるもの⑧

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 「気になること、って、何なのか聞いちゃまずい系統ですか。やっぱり」

 「そのようなことはありませんよ。ただ外れていた場合、少々恥ずかしいので保留とさせて下さい。……出来ればそちらの方が有り難いのですが」

 フィアメッタに聞かれて優しく答えてくれた詩人さんだけど、最後に付け加えた声はわりと深刻な感じだった。

 うーん、魔王復活うんぬんて辺りでだいぶ大事だと思っていたのに、それよりヤバい案件が降って湧いたら正直手に余る。時間指定設定が解除されて、一刻も早く設定資料集(仮)が見れるようになることを祈るしかないか。




 その後もこっちの皆の自己紹介とか、今まであったことの報告とかをしあっていたら、いつの間にか時間が過ぎていたらしい。ふと気がつくと、窓の外に見える空がすっかりオレンジ色に染まっていた。ちょうど晩餐の準備が整いました、と侍従さんが呼びに来てくれて、殿下も含めた全員で移動を開始する。

 海辺の街で晴れの日が多いヴァイスブルクは、朝日も夕日もくっきり見えてとってもきれいだ。二階の外回廊から夕焼け空を眺めながら、フィアメッタがはー、と感心と疲れたのが半々くらいのため息をついた。

 「……あー、もう夕方かぁ。なんかずっと話してたわね、あれから」

 「イブマリー嬢らは離ればなれになって久しかったのだ、致し方あるまい。――では、今宵も全員で寝ずの番ということで」

 「おう、ありがとな。ゆんべ船漕いでやがった愚弟はともかく、ちゃんと交代で寝ろよ」

 「あはは、アルバスさん厳しー!」

 『アニキがんばれー!』

 「お~、まあ適度になー」

 フォローしたりじゃれ合ったり、すっかり馴染んで賑やかに話している元パーティと『紫陽花』メンバーである。思えばここひと月くらい、ほんっとにいろんなことがあったけど、こうして出逢えた全員と仲良くなれたのってすごいことだよなーとつくづく思う。

 あとはどこかにいる黒幕の野望を食い止めて、寝込んでるリュシーさえ元気になってくれれば、一件落着だ。たぶん。

 「――アンリ、いや、イブマリー。少し良いか」

 「あ、はい。殿下」

 ふいに静かな声で呼び止められた。振り返ると、相変わらずきれいだが無表情気味のレオナールさんがぽつねんと立っている。軍服みたいな詰襟の服は、ゲームのスチルでも着ていた、ランヴィエルの王族の略式礼装だ。そのポケットから何か取り出しながら、

 「君に逢えたら、返そうと思っていた。受け取ってほしい」

 「返すって……あっ、これ」

 ベルベットらしき布で装丁してある小さな箱を開けると、中には一対のイヤリングが入っていた。淡い金色で、三日月と鳥の翼をモチーフにしたデザインになっていて、紫の宝石があしらわれた上品なものだ。

 実物は初めて見るけど、わたしも良く知っている。一か月間必死でやり込んだ『エトクロ』の画面で、ライバルことアンリエットがずっと身に着けていたものだ。設定上では婚約者から贈られた最初のプレゼントで、ものすごく大切にしてるってことだった。きっと殿下も見ていてよく分かったんだろうな。

 「持ち物はすべて、マグノーリア家に戻されたが。これは侯爵家の所蔵品ではないから、と言い張って、無理に引き取ったんだ。……他にも渡せればよかったのだが」

 「いいえ、これだけあれば十分です! とっても嬉しいです、ありがとうございます!!」

 「……そうか」

 中のひと本人じゃないのが申し訳ないけど、きっとライバルだって心の底から喜ぶに違いない。だって、一ファンに過ぎないわたしが現時点でこんだけ嬉しいからな! さすが殿下、普段ほわほわしてても大事なとこは絶対外さないって評判なだけある!!

 全開の笑顔なわたしと、表情はほぼ変化なしだけど雰囲気が柔らかい殿下。それを眺めるみんなは、まわりに飛び交うお花を目撃したとか、しないとか。

 「……なんかさぁ、あっちの王子様とイブって、元恋人とかって雰囲気じゃないよね? どっちかっていうと」

 「ああ、あの二人は前からあんなんだぞ。ほとんど生まれた時からの付き合いだったんで、逆にお互いをそーいう目で見れなかったんだと」

 「仲睦まじいのは間違いないのですが……」

 「全く……二人とも自分の感情には凄まじく鈍いから、そのまま結婚なんかしたら大事になってたよ。ほんっとお偉方ってデリカシーがないんだから」

 うん、ホントそれ。漏れ聞こえたりっくんのセリフに、心の中で力いっぱいうなずいた元オタクなわたしだった。
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