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第六章:
竜(+α)は無慈悲な夜の女王⑤
しおりを挟む「まあ、その辺は嫌でも分かるだろ。もうすぐみたいだし」
あ、ホントだ。
こちらもひそひそ声のディアスさんが指差した先では、例の人影が通路を左に折れたところだった。足音と気配を殺してそっと覗き込んだショウさん、振り返って軽くうなずいて見せる。
「やはり下手人に間違いないようですな。あれを」
『わー、でっかい袋~』
普段よりうんと小さい声のティノくんが言った通り、フードの人はどこからともなく取り出した巨大な麻袋を広げているところだった。今はぺたんこだけど、小柄な人ならすっぽり収まってしまいそうだ――と、
「よ……っと」
ひっそり声をかけながら、袋の中に片手を突っ込んでものを掴むような仕草をした。次の瞬間、突然ぼこっと布地が膨らんだかと思うと、布と縄でぐるぐる巻きになった何かの動物が現れる。端っこを持って吊り下げられていて、見るからに苦しそうにじたばたもがいていた。
「……なるほど、ああやって運んでたんだ。どおりで見つからないわけね」
「袋の中の空間を圧縮、もしくは別の場所に繋げて収納性を底上げする魔法具です。大抵は行商人など、旅に多くの荷を持って行く者が用いるのですが」
「悪用すれば完全犯罪も夢じゃない、ってことですか」
「如何にも」
嫌な話だ。みんなが便利に使えるようにって、作ってくれた人が泣くぞ、まったく。
あまり騒ぐわけにはいかないので、文句は心の中だけにとどめておく。そうこうしているうちに、犯人らしき人影は近くの壁にさっきの鍵を突き刺して、また即席のドアを作っていた。その中に獲物を放り込んで、後も見ずにどんどん通路を進んでいく。
「リーシュ行って!」
『ふぃっ!』
こっそり呼びかけると、肩に止まっていた小鳥さんが元気よく飛び出す。さっきのティノくんと同じ要領で、締まる寸前のドアの間に滑り込んで支えてくれた。そこへ駆け寄って、床に転がされていた動物を無事に運び出すことができた。よし、お手柄!
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