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第六章:
レディ・グレイの肖像⑦
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一瞬後に我に返って手を伸ばしたけど、穴のフチはとっくの昔にリーチの外だった。なす術もなく自由落下する視界から、こっちに手を伸ばすみんなの姿があっという間に遠ざかる。やばい!
そう思った瞬間、何かがぱっと目の前をよぎった。それが大きく翻るマントの端だとわかったのとほぼ同時に、誰かが思いっきり身体を引き寄せて抱え込む。しゃっと鋭い音がして、
「『双翼秘刃』・風花!!」
――ゴオッ!!
暗闇に、凛とした声が響き渡った。巻き起こった冷たい風が、きらきらと銀色に輝きながら周囲を包む。
落下の勢いが徐々に遅くなり、しまいには周りを囲む石壁の目が数えられるくらいのスピードに落ち着いた。耳元で、肺が空っぽいになるような特大のため息が聞こえる。
「……は~~~~~、焦った。上手くいって良かった」
「りっくん!? うわ、ありがとう!!」
『ま~~!』
「はいはい、どういたしまして。このまま下まで行くから、ちょっとじっとしててね」
背後から相変わらず爽やかに言ってのけたのは、やっぱり優秀すぎる近衛騎士さんだった。わたしの後を追いかけて穴に飛び込んでくれたらしい。その片手には、鞘を払った細めのロングソードがしっかり握られて、さっきの風と同じ白銀の光を放っていた。
『双翼秘刃』はりっくんの生得魔法で、彼の得物を媒介にして発動する。基本は風属性の魔法なので、自分に使えば素早さが爆発的に上がったり、敵からの攻撃を吹き散らしたりと様々な使い方が出来る優れモノだ。
こうやってトラップに引っかかったときにも活用できて、罠そのものを壊すとか、高いところから落ちるダメージを軽減できたりとかいった効果を持つ。目配りが上手くて機転の利くこの人にぴったりだ。
「――ちょっとー!! あんたたち大丈夫でしょうね!? どっか打ったりしてないー!?!」
「りっくーん、イブキャッチできた~~~!?」
「だいじょーぶ! マンドラゴラさんも含めて無傷だから、安心してー!」
「ひと二人を一気に持ち上げるのは難しいから、ちょっと待っててもらえる!? その間に他のメンバーと連絡を取ってくれるとありがたいんだけど」
「りょーかーい! 全力でどーにかするから、気を付けて上がってきて!!」
もうすっかり遠くなった落とし穴の上から、女子二人の呼ぶ声がする。出来るだけ元気に返事をしてみると、ホッとした様子で請け合ってくれて一安心した。心配かけてごめんね、ホント。
「……よ、っと」
いつの間にか抱え直して、いわゆるお姫様抱っこの体勢になったりっくんが危なげなく着地する。
魔法の明かりに照らされて、石造りのトンネルが右手側に続いていた。上にあった通路と、材質はほぼ同じみたいだ。ここも脱出経路の一部ってことだろうか。
「こっちもダミー通路……じゃ、ないよね。この分だと」
「だね。本来はさっきの脱出口の方が囮だったんだろう」
あんなあからさまな出口っぽいものがあったら、絶対にそっちから出たと思うはずだ。その間に落とし穴から続くこっちの道を通って、もっと人目に付かないところから出るようになってるんだろう。
そっと下に降ろしてもらい、足音を立てないように静かに歩いていく。石造りの通路はすぐに途切れて、やや開けたところに出た、みたいだ。
なにせ暗いので、明かりが届かないところがよく見えない。転ばないように、そして今度こそ変なものを作動させないように、慎重に移動していると、
《――誰ぞ》
高くも低くもない声に突然呼びかけられて、うっかりつまづきそうになった。
そう思った瞬間、何かがぱっと目の前をよぎった。それが大きく翻るマントの端だとわかったのとほぼ同時に、誰かが思いっきり身体を引き寄せて抱え込む。しゃっと鋭い音がして、
「『双翼秘刃』・風花!!」
――ゴオッ!!
暗闇に、凛とした声が響き渡った。巻き起こった冷たい風が、きらきらと銀色に輝きながら周囲を包む。
落下の勢いが徐々に遅くなり、しまいには周りを囲む石壁の目が数えられるくらいのスピードに落ち着いた。耳元で、肺が空っぽいになるような特大のため息が聞こえる。
「……は~~~~~、焦った。上手くいって良かった」
「りっくん!? うわ、ありがとう!!」
『ま~~!』
「はいはい、どういたしまして。このまま下まで行くから、ちょっとじっとしててね」
背後から相変わらず爽やかに言ってのけたのは、やっぱり優秀すぎる近衛騎士さんだった。わたしの後を追いかけて穴に飛び込んでくれたらしい。その片手には、鞘を払った細めのロングソードがしっかり握られて、さっきの風と同じ白銀の光を放っていた。
『双翼秘刃』はりっくんの生得魔法で、彼の得物を媒介にして発動する。基本は風属性の魔法なので、自分に使えば素早さが爆発的に上がったり、敵からの攻撃を吹き散らしたりと様々な使い方が出来る優れモノだ。
こうやってトラップに引っかかったときにも活用できて、罠そのものを壊すとか、高いところから落ちるダメージを軽減できたりとかいった効果を持つ。目配りが上手くて機転の利くこの人にぴったりだ。
「――ちょっとー!! あんたたち大丈夫でしょうね!? どっか打ったりしてないー!?!」
「りっくーん、イブキャッチできた~~~!?」
「だいじょーぶ! マンドラゴラさんも含めて無傷だから、安心してー!」
「ひと二人を一気に持ち上げるのは難しいから、ちょっと待っててもらえる!? その間に他のメンバーと連絡を取ってくれるとありがたいんだけど」
「りょーかーい! 全力でどーにかするから、気を付けて上がってきて!!」
もうすっかり遠くなった落とし穴の上から、女子二人の呼ぶ声がする。出来るだけ元気に返事をしてみると、ホッとした様子で請け合ってくれて一安心した。心配かけてごめんね、ホント。
「……よ、っと」
いつの間にか抱え直して、いわゆるお姫様抱っこの体勢になったりっくんが危なげなく着地する。
魔法の明かりに照らされて、石造りのトンネルが右手側に続いていた。上にあった通路と、材質はほぼ同じみたいだ。ここも脱出経路の一部ってことだろうか。
「こっちもダミー通路……じゃ、ないよね。この分だと」
「だね。本来はさっきの脱出口の方が囮だったんだろう」
あんなあからさまな出口っぽいものがあったら、絶対にそっちから出たと思うはずだ。その間に落とし穴から続くこっちの道を通って、もっと人目に付かないところから出るようになってるんだろう。
そっと下に降ろしてもらい、足音を立てないように静かに歩いていく。石造りの通路はすぐに途切れて、やや開けたところに出た、みたいだ。
なにせ暗いので、明かりが届かないところがよく見えない。転ばないように、そして今度こそ変なものを作動させないように、慎重に移動していると、
《――誰ぞ》
高くも低くもない声に突然呼びかけられて、うっかりつまづきそうになった。
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