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第六章:
レディ・グレイの肖像⑤
しおりを挟む『まあま、ままま~』
訊かれた当のマンドラゴラ、何だかとっても難しい顔でぶんぶん、と全身を横に振ってみせた。あ、嫌な予感がする。
『あのね、来たときと道がちがうからわかんないって。ここはもうダンジョンのいちぶだから、入るたびに形がかわるんだよって』
「……あー!!そういやそんなこと言ってた!!」
律儀に翻訳してくれたイオンの言葉に、いっせいに顔を見合わせてしまった。マジですか。
もうずいぶん昔みたいに感じるけど、実際はほんの一週間ほど前のことだ。わたしと契約してくれそうな霊獣と会うために、フェリクスさんの案内で初挑戦した遺跡っぽいダンジョンがちょうどこの真下にあった。
その最奥部にいたのがカラドリウスのリーシュで、あの子を守るために全体が『入るたびに形が変わる』って仕様になっていたのだ。
「そういえばあそこ、守ってるもんを盗ろうとするヤツが来ると、性根を感知して余計複雑になるんだよね?良く考えなくても、脱出経路に組み込んだら無敵だわ」
「追っかけてる相手が知らなかったら、まず確実に追い付けないもんね。……でもなぁ」
「わかる。今に限っては一番厄介なオプションだよね、うん」
『まぁ~……』
「ああ、ごめんごめん。君のせいじゃないから」
口々に言ってたら、なんだかしょんぼりしてしまった激レアさんをよしよしと撫でてあげる。やれやれ、こうなったら二手に別れて進むしかないか……
『……あいえ?』
突然、わたしと一緒にマンドラゴラをナデナデしていたイオンがひょこっと顔を上げた。くんくん、としきりに鼻を鳴らして、なにかの匂いをたどっているような仕草をする。
「イオンちゃん? どしたの、なんか臭い?」
『くさくはないんさ~。あのね、海のにおいがするの』
「え、ホントに!?」
『あい。こっちから~』
ちっちゃいお手てで指し示したのは、向かって右側の洞窟だ。リックが真っ先に中に入って走っていき、しばらくしてさらに早足で戻ってくる。うってかわって明るい、驚きを隠せない表情で、
「いや、すごいね。魔法で補助したらほんの僅かだけど海鳴りがした。さすがは水の眷属だ」
「ってことはビンゴなんだ! イオンちゃんさっすがー」
『えへへへ、あい~』
「あの高台、海に向かってせり出してるとこがあるから、多分そっちに出るんじゃない? 下に船とかあったりしてね」
一回外に出られれば、そこから他の場所までの見当が付けられるかもしれない。嬉しそうにしているとかげさんとわたしを先頭にして、一同は右側の路を進み始めた。
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