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第六章:
レディ・グレイの肖像④
しおりを挟む道は階段が終わると、壁と同じような石畳に変わったみたいだ。明かりを弾いている様子からして、こっちもかなり湿ってるらしい。まだまだ気の抜けない道のりが続きそうだ。
「二人とも大丈夫? 足下確かめながらゆっくり行こう」
「へーきよ、暗いのは別に苦手じゃないから。……フェリクスさんがいなくて良かったわね、これ」
「うん、ホント。滑りやすい上に良く見えないんじゃ怖いよね」
「……あれ、彼もう鳥目なのバレたんだ? 意外だな」
「え、どゆこと? りっくん」
きょとんとした顔でリラが聞き返す。ちなみに一緒に行動することになった際、真っ先にあだ名で呼んでいいー? と直談判したので、りっくん呼びについては何の問題もない。さすがはうちのムードメーカー、人懐っこさは天下一品だ。
そんな神官さんに訊ねられて、リックは軽く肩をすくめてみせた。これまた嫌味なくらいに良く似合っててカッコいい。
「彼の職業を考えてみなよ。吟遊詩人といえば冒険者の中でも花形、なるためには音楽の才能に加えて文才も教養も必須で、おまけに美男美女の代名詞だ。雰囲気にしたって、昼間より夜の方が似合うだろ? みなさんの持っておられる夢を壊すようなことは避けたいので、って言ってたよ」
「ああ、なるほど……」
いかにもあの、優しすぎるくらい優しいお兄さんが言いそうなことだ。理由が自分じゃなくて周りのため、っていうのもフェリクスさんらしい。
「……って、じゃああたしとんでもなく失礼なことしたんじゃない!? 自分から弱点当てに行ったんだけどっ」
「いや、それは気にしなくていいと思うよ? なんか嬉しそうだったし」
「そ、そう!? ホントに!?」
『くわあ』
『フィアねーねー、エルドくんがだいじょーぶだよっていってるさ~』
「ね? 悪気があって弄ったとかじゃないんだから平気だよ」
「は~~~、焦ったぁ……」
ここのところずっと一緒に行動していたから、気が付かないうちにやらかしたんじゃないかって慌てるのも無理はない。わたしたちが重ねてフォローすると、ようやく納得して落ち着いたフィアメッタが思いっきりため息をついた。真面目だよなぁ、この子も。
『まあ、まあ』
「あ、ごめんごめん。ちゃんと進むからね、ちょっと待って」
『まーま、まあ!』
つい話し込んでしまったわたしの肩で、マンドラゴラの子がぴょこんと跳ねた。急いで謝るとそうじゃない、というように全身を横に振って、小さな腕で前の方をぴっと指し示す。明かりを持ってる人たちがそっちの方を照らすと、
「あ。分かれ道」
「まああるわよね、ここが避難経路だったら」
つまり、どっちかは追っ手を撒くためのダミー通路ってことか。間違ったら奥に罠が仕掛けてあったり……は、多分ないと思いたいけど、迷った分だけ時間が損だ。
「んじゃマンドラゴラさんに聞いてみよう! ねえ、どっちから来たか覚えてるー?」
うん、だよね。あっさり推理を放棄して、実際に歩いてきただろう希少植物さんにインタビューしたリラは賢いと思う。
……ただし、ここが普通の通路なら、の話だったんだけど。
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