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第四章:

森の迷宮(メイズ)にご用心⑫

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 開いた壁の向こう側は、今までいたところよりさらに気温が低かった。一面が水に満たされて地底湖のようになった真ん中に、小さな島がある。小ぶりな岩が飛び石みたいに島まで続いていた。

 滑らないように気を付けながら、みんなで岩を渡っていく。暗いとこが苦手なフェリクスさんには、フィアメッタが自分からついて視界を確保してくれていた。よく気がついてえらいなぁ。

 「フィア、ありがとうね」

 「ん? 別にいーわよ。なんか妙にエルドがなついちゃったし」

 「ああ、うん。そのことなんだけど」

 「――さて、着いたぞ。イブマリーとやら、これへ」

 軽く解説しとこうかと、本人にアイコンタクトを取ろうとしたとこで声がかかった。先導してくれてた元・霊導師に手招きされて、急いで寄っていってみると、

 「……うわあ」

 とりあえず、第一声はそれに尽きた。

 小さな島の中央には、大人が四、五人で手を繋いでやっと囲めるくらいの岩の塊がある。そのあちこちから透き通った水晶らしき石が顔を覗かせていて、投げ掛けられる明かりに淡く輝いていた。

 中でもすごかったのは、ちょうど真正面に生えていたものだ。単に大きいだけでなく、薄い結晶がいくつも重なりあって形を作っていて、バラとかボタンとかの花が咲いたみたいに見える。

 きらきら輝くその中心は少しくぼんでいて、なにかふわふわしたものがうずくまっていた。あ、これはもしや……

 「もしかしなくても霊獣さん……?」

 「うむ。ほれ起きんか、お主に客人ぞ」

 『……ふぃ?』

 長い指でそっとつつかれて、ひょこんと顔をあげたのは小さな鳥だ。

 大きさはわたしの手のひらにすっぽり収まるくらいで、全身真っ白の羽根。首からお守りみたいな小さい袋をリボンで下げている。つぶらな瞳をしぱしぱさせながらこっちを見上げて、

 『ふぃっ!』

 「はい、お久しぶりですね。お元気で何よりです」

 『ふぃ~』

 ふつーに会話を成立させてにっこりした詩人さんに飛びついて、とってもうれしそうにひと鳴きする。

 ぱたぱたさせている翼はあんまり大きくなくて、全体的にもふもふでぽっちゃりした体型みたいだ。小鳥というか、パッと見た印象はむしろペンギンに近い。すっごく可愛いから何も問題ないんだけども。

 「いつか外を見てみたいと言っていたでしょう? 今日はあなたのために、私の友人を紹介しますね。はい」

 「え!? え、ええええっとその、イブマリーです! はじめまして!」

 『ふぃ?』

 鳥さんを乗せた手をこちらに差し出しつつ話を振られて、思いっきり挙動不審になってしまった。あわてて名乗ってお辞儀して、おそるおそる両手を出してみる。すると、

 『ふぃっ♪』

 ぴょいん、とジャンプした鳥さん、わたしの手のひらに着地してすちゃっと片方の翼を上げてみせる。ええと、見た感じは人間がやる『よろしくねー』って手振りにそっくりだけど……てことは、つまり。

 「ああ、よかった。どうやら合格だったようですね」

 「ほ、ほんと!?」

 『ふぃーふぃ、ふぃ』

 『あのね、ご主人からとっても優しいにおいがして好きーっていってるよ。これからよろしくねって!』

 「だーっよかったー! ここまできてヤダって言われたらシャレになんなかったわ!」

 「はは、イブマリーと気が合いそうで良かったな。なつっこくて可愛いし」

 「うんうん、ぬいぐるみみたいだね! フェリクスさん、この子なんて種族なの?」

 「はい、実は――、イブマリー嬢?」

 ふとこっちに向いた詩人さんの目が丸くなる。そりゃそうだ、目の前でペンギンさんを抱えたわたしがふらふらしてるんだから。

 「い、如何なされた!? よもやどこか具合でも……!」

 「や、そーじゃないんだけど……なんかその、いきなりものすごーく眠くなって……」

 しっかり支えて聞いてくれるショウさんの声がやけに遠く感じる。それになんとか返事しつつ、思い当たったことがあった。

 生得魔法は特別なゲージを消費することで発動する。これを貯めるにはいろいろ条件があるんだけど、実は貯まってなくても他のもの――いわゆるMP、もしくはHPを代わりに使って出せるのだ。ただしその場合、ちょっとビックリする分量を削られることになる。

 気付いてなかっただけで、連日遠慮なくぶっ放していたわたしの体力ゲージはもうゼロに近かったってことだろう。もしかしたら魂を切り離して云々、て魔法の解除に凄まじく取られたのかも。名前からして難しそうだもんなあ。

 今にも吹っ飛びそうな意識の片隅でつらつら考えていると、そっと頭をなでてくれた人がいる。物柔らかな詩人さんの声が、やさしく褒めてくれた。

 「本当にお疲れさまでした、よく頑張りましたね。まだ外は明るいでしょうから、私が皆さんを送り届けましょう。どうぞお任せを」

 「え、フェリクスさんて移動魔法使えたんだ?」

 「いえ、実はですね――」

 (あああっ、ちょっと待って! そのネタバレよりにもよってこのタイミングでしますか詩人さんー!?)

 『ご主人、いい子いい子~』

 『ふぃふぃ~』

 あれはぜひ目の前で見たかったのに! と、心で叫ぶも睡魔には敵わず。ティノくんとペンギンさんがほっぺをもふもふ撫でてくれてるのを感じながら、わたしは呆気なく寝オチしたのだった。
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