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第三章:
独白①
しおりを挟む仄めく光が舞っている。蛍火よりも淡く、月影よりも清い、やさしい灯が。
その光に励まされて一歩、また一歩と、どうにか足を進めていく。深い森の険しい山道、あちこちで岩が転がり太い根が隆起している。少しでも気を抜いたが最後、あっという間に転げ落ちそうだ。
去年の今頃はこうではなかった。どんなに起伏が激しい悪路でも、平地のように難なく行き来できた。ずっと憧れていた名誉ある役目に選んでもらえて、天にも昇る心持ちだった。
……それから一年、いや、役目に就いてからは半年ばかりだったろうか。責務を果たす前にこんなことになるとは、誰が予想しただろう。
(しっかりしろ、おれ。まだ倒れる訳にはいかないぞ)
立ち止まり、樹にすがって呼吸を整える。精神を集中し、周りの静謐な空気を取り込む様子を思い描く。
微かに、しかし確実に風が動いた。山河草木の持つ澄んだ気が、五体を通り抜けていく。痛みと倦怠感が遠のき、ほんの少しだが身体が軽くなった。
「……よし。まだ動ける」
自分に言い聞かせるように呟き、再び山道を進み始める。周りを漂う仄明かりが、気遣うように明滅しながら寄り添ってきた。思わず笑みがこぼれる。
「心配かけてごめんな。大丈夫、おれはまだ戦える。天狼族の名に懸けて」
お前たちを空に還すまで、倒れはしない。絶対に。
幾度となく繰り返した誓いが厳かに響く。木々の狭間から覗く満天の星々が、地上を見守っていた。
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