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第二章:

拾うは恥だが役に立つ⑤

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 当の激レアさんいわく、生まれたての子どもとかお年寄りは、ここからうんと離れた北の山に棲んでいるらしい。そんな彼がどうしてここまでやって来たか、というと、

 『えーとね、ニンゲンの時間で一月くらい前、だったかな? 急にあ、こっち来なきゃ、って思って、ひとりで飛んできたの』

 「え、いきなり? 誰かに言われたわけじゃなくて?」

 『うん、そう。なんでかはよくわかんない』

 重ねて聞くわたしに、当の本人がいちばん困った顔だ。しきりに首をかしげて不思議そうにしているので、本気で分からないらしい。動機が原因不明って、そんなことあるんだろうか。

 ともかくそうやってグローアライヒまで飛んできたものの、この辺は雷獣の力の源である落雷も、大好物のトウモロコシも少ない。まだ小さいティノくんでは体力がもたなくて、例の洞窟を見つけて入り込むと、自己防衛のために幻術をかぶってひたすら寝ていたんだそうな。

 「じゃあ、なんで今日になってあたしらに襲いかかったの? 恋重桜の匂いで起きたわけじゃないんでしょ、聞いた限り」

 『うん。みんながとうきび持ってるのがにおいでわかったから!』

 「やっぱりかっ! あんた本っと大好きね!?」

 『えへー。あ、あとはね、雷獣の本能なの。ぼくたちは地上に降りるときに、宿主を決めるためにバトルを仕掛けるしきたりがあるから』

 ……思わずどこかのロングヒットゲームを思い浮かべてしまったわたしは悪くないと思う。いや、だって雷獣だし! あの子はケチャップが好きだったけど!!

 『だいたいみんなと戦ったけど、最後にとどめ刺したから、おねえさんがぼくのご主人ね! これからよろしくー』

 「……ええっと、そういうことらしいんだけど」

 「まあ、見た目は耳の長い小型犬にしか見えないしな。自分から大声で吹聴して回らなきゃ大丈夫だろ」

 「そうね。ま、いざとなったら『錬金術で爆誕した不思議生物だ!』って言い張りましょ。なんせ実際に雷獣見た人なんてほとんどいないんだし」

 「かわいい子は大歓迎だよ~」

 レアな生き物を連れてることで迷惑が掛からないだろうか、と一瞬心配したんだけど、冒険者の皆さんはいたって気楽にそうアドバイスしてくれた。最後に目をやったショウさんが笑顔でうなずいたので、ほっとして雷獣さんと視線を合わせる。

 「そんじゃティノくん、明日からよろしくね!」 

 『はーいご主人!』

 元気よくあいさつしあって、お互いの手と前脚でぽんとハイタッチ。小さな肉球はぷにぷにしてて、思った以上に温かかった。

 小さい頃、よく仔犬や仔猫を拾って帰っては『元いた場所に返してきなさい』て叱られてこっそり泣いてたけど……思わず拾っちゃったのが吉と出ることだってある、はず! とにかくあと一日とちょっと、無事に町までたどり着けるようにがんばるぞ!

 心の中で気合いを入れ直す。木立の向こうに広がる空はすっかり暮れて、銀の砂をばら撒いたみたいな星がたくさん瞬いていた。
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