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第一章:
目覚めたら負け犬令嬢⑦
しおりを挟むしかしいくら親切な人たちとはいえ、ライバルの人柄もこちらの事情もほとんど知らない。そんな状況では、やっぱりこの子が犯人じゃないって信じてもらえないだろうな。今だって迷惑かけてるし、元気になるまでお世話になるのも心苦しいな……。
一度そう思ったらどんどん考え込んで、顔が俯いていってしまう。何て言えばいいか迷っていたら、誰かがベッドのわきに屈んだのが見えた。
「何故そのようなことになったか、お尋ねしてもよろしいでしょうか。少なくとも我々には、貴女が私利私欲で他人を手にかけるような御仁には見えませなんだ」
こっちよりも視線が低くなるように片膝をついて、穏やかな表情で話しかけたのは、若旦那改めショウさんだ。
落ち着いた声でそう言ってもらうと、不安で沈みかけた気持ちが少し前向きになる。頭から疑っているんじゃないよ、と伝えてくれて、言葉を発する勇気が湧いてきた。
(しっかりしろ、わたし。いま推しキャラの名誉を守ってやれるのは、この場にわたししかいないんだぞ!)
心の中でハッパをかけて、ピンと背筋を伸ばした。その拍子にあちこちがビリビリ痛んだけど、奥歯を食いしばって我慢する。
たとえ中身が本人でないにしろ、これだけお世話になったのだ。ちゃんと自分で事情を説明しなくちゃいけない。そんな大事な話をするのに、猫背のままじゃあんまり格好悪いじゃないか。
「――王宮でやったお茶会で、リュシーの紅茶に毒のあるお花が浮いてたんです。庭園の中でもかなり離れたところに咲いているので、誰かが入れたとしか思えない状況で。それで、直前にカップのそばにいたわたしが怪しいってことになって」
あとで調べてみたところ、その花は見た目こそ可愛いけど、うっかり口にすると呼吸困難などを引き起こして最悪死に至る、というなかなか凶悪なものだった。
現実でもたまにだが、間違って飲んだり食べたりして中毒症状を起こす事件が発生しているらしい。そんな強い毒性を知っていたのなら、入れたっておかしくない状況ではあったろう。
でも、それはあり得ないのだ。絶対に。
「わたしの婚約者があの子に惹かれているのは、見ていたら分かりました。リュシーは良い子です、親同士が許婚に決めたわたしなんかより、好き合った相手と結ばれた方が間違いなく幸せになれると思います。
それに、どうしても納得がいかなければ、正面切って決闘するなり、腹を割ってとことん話し合うなり、そういう決着の付け方をします」
もしこの場に本人がいたら、こう言っていたと思う。ゲームの映像を見る限り、ストーリー終盤のアンリエットはずっと一緒に戦ってきた主人公の実力と人柄を認めて、正当に評価していた。
プライドは高いけど、威張りくさった嫌なお嬢様ではない。そんな誇り高い彼女が、毒を盛るなんて卑怯な真似をするはずがない。
はっきりした証拠はないので、あくまでも憶測だが――
「あの子はいまや、押しも押されもしない救国の英雄です。求心力があって、なおかつ平民で上流階級に面倒なしがらみもない。彼女を王家に嫁がせて利用したい誰かが、そのために邪魔になるわたしをはめたんだと思います」
それがわたしの、というか、わたしを含めた原作ファンの推理である。
続編なりアップデート版なりが発売されれば、その辺りももうちょっと詳しく描かれていたはずだけど……少なくとも、この子は負けた側ではあっても、それを恨んで仕返しするようなタイプのライバルじゃない。ここ一ヶ月シナリオを繰り返し見てきた身として、それだけは断言できる!
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