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夏は短し戦(バト)れよ乙女③
しおりを挟むいきなり人のところに押しかけてきておいて、理由も教えず同行しろとは、もしかしなくても大分失礼なのでは。そんな感想を抱いて見やったところ、左右に立っていた友人たちはそろって首を縦に振ってくれた。こちらの世界のひとからしても、なかなかの非常識であるらしい。
「やっぱりまずいですか、これ」
「マズいなんてもんじゃないよー。自分ちの中でひとを探すのとは全然違うんだよ?」
「そうそう。王族の持ち家なんだから、好き勝手に人員を動かして良いわけないでしょ。……さてと、どうする? 小鳥ちゃんがイヤなら、いったん追っ払っとこうか」
親切に言い添えてくれるラウラに、もらったばかりの精油を抱えて考える。
確かに今日来るとは思っていなかったが、近々こうなるだろうという予想はしていた。いつ来ても良いように、いるものの準備と手伝ってくれる皆への根回しはしっかりしてある。ならば、これは逆にチャンスかもしれない。
「――いえ、行きます。ポーちゃん、ラウラさん、あとのことお願いしますね」
「うん! 任せといてっ」
「ええ、良いお返事ね。頑張りましょう」
「はいっ!」
快く送り出してくれる二人にうなずいて、理咲は気合十分で儀仗兵の元に歩き出した。
ここのところは用心して、王城の中をほとんど歩き回っていなかった。必要最低限の通路しか知らないので、単に呼び出されたのではなく、迎えを寄こしてくれたのは正直有り難い。星蘭の性格を考えたら、突然ひとりでどこそこまで来い、とか言い出しかねないので。
そんなわけだから、儀仗兵のリーダーに先に立ってもらい、移動していった先が見知った場所――正確には最初の日、召喚の儀で降り立った場所だ、ということに、たどり着くまで気づかなかった。
「ああ、ここって城内なんだ。自分ちにカテドラルがあるなんて豪勢ですねー」
「いえ、まあ、王家の居城は大体こういった作りでして――」
「――遅いッ!! 何をぐずぐずしているの、さっさと入りなさい!!」
のん気な感想に、リーダーが律儀に答えかけたのを、かっ飛んで来た怒鳴り声が遮った。こんなヒステリックなキンキン声、見なくたって誰のものかすぐわかる。
「……あのー、そこはお仕事ご苦労様、下がって良いわよ、とかじゃない? 金生さん」
「私に指図しないでちょうだい! 自分の立場が分かってるの、礼儀をわきまえなさい!! 殿下と宰相方が揃って下さっているのよ!?」
「うんまあ、それは見たらわかるけど」
半月前は儀式の主導者側が居並んでいた、数段高くなった壇上。今日も今日とてイブニングドレスにしか見えない派手な出で立ちで、金切り声を浴びせてくる星蘭の側には、すでに顔見知りとなった王太子殿下が並んでいた。こちらはいたって落ち着いた風情で、軽く会釈などしてくれるのが粋である。
そして、そんな彼らのすぐ目の前。壇を降りた先に集まっているのは、これまた見覚えのある面々だった。着ているものは一様にヨーロッパの貴族っぽい、仕立てのいい上着にズボンに靴。年代はバラバラだが、一様に偉ぶった雰囲気を醸し出している。なるほど、この人たちが国の中枢にいる面子か。
(どこの世界でも偉い人、って、だいたい似た雰囲気なんだなぁ)
急に呼び出されたのだろう。戸惑っていたり怒っていたり、何故か冷たい目で理咲の方を睨んでいたりと、リアクションは様々だ。大方『聖女』の肩書で通常の仕事を後回しにさせてかき集めたのだろう要人たちを前に、星蘭は悪びれもせず意気揚々と言い放った。
「いいこと、良くお聞きなさい! あなたの所業はすでに、臣下の皆さんが知る所よ!! 大人しく自分の罪を認めるのね、佐倉理咲!!!」
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