上 下
25 / 38

呪い前線異常アリ⑦

しおりを挟む

 「さっ、さささ佐倉理咲です!! あのっ初めまして、ごあいさつが遅くなってもっ、ももも申し訳ありません!!!」
 「まあまあ。良いのよ、わたくしもずうっと休んでいたから。……ほらね、真面目な子はこうなるんだってば」
 「いやぁ、前フリして連れてくると余計に緊張しそうだったんだもん。ね、イイ子でしょ? 小鳥ちゃん」
 「それはそうだけど……」
 どもりまくりながら大急ぎでお辞儀とあいさつを返す理咲に、陛下もといオパールの方はいたってのほほんとしたものだった。仲良しらしき魔導師殿とのやり取りは楽しそうだったが、今はちょっとそれを鑑賞するどころじゃない。
 (やっぱり聞き間違いじゃなかった!! そういや殿下が王弟だ、って言ってたな!? ていうか女王様だったんだ、カッコいいな!?!)
 自慢じゃないが佐倉家、由緒正しき庶民の家系である。そもそも現代社会で王侯貴族に謁見する、なんて機会はそうない。辛うじて要人、というのであれば、理咲が中学校の頃に超レアな毒キノコを見つけて通報して、それがきっかけで知事に表彰された祖母くらいなものだ。突然国王陛下の御前に放り込まれるとか、心臓に悪いを通り越して今すぐ止まりそうなんですが!
 見よう見まねで頭を下げたまま冷や汗をかいていると、後ろからやって来た誰かがそっと背中をさすってくれた。大きな手と優しい触れ方は、まず間違いようがなくノルベルトのものだ。そろっと顔を上げて見上げたら、支えるように側に立つ姿があってホッとする。
 「ラウラ殿。お気持ちは有り難いが、リサ殿の心的負担も鑑みていただきたい。――陛下、お久しゅうございます。お身体は大事ございませんか」
 「ええ、ありがとう。『鷹』さんも元気そうで良かったわ、燐火蟹ルビークラブを誘導してくれたんでしょう? 今さっき『視た』けれど、みんなとても褒めていてよ」
 「恐悦至極に存じます。が、その功績はこちらの賢者殿のものゆえ」
 (その呼び方引っ張らないでノルベルトさーん!!)
 「あら、まあ」
 礼儀正しい挨拶からの、流れるが如き褒め殺しに心の中で悲鳴を上げる。だからそんなことないんですってば!! と頭を抱えているうちに、軽く首を傾げて目を瞬いているようだった陛下がぽん、と手を打った。相変わらずのんびりした調子で、
 「ああ、やっぱり。召喚されてきた方なのね、知らない気配がするなぁって思っていたの」
 「……見て分かるものなんですか? そういうの」
 「うん、わたくしはね。ちょっと他人より目が良くて、いろいろと『視える』ことが多いの。ある程度なら自分で制御できるんだけど、――うーん、でも召喚の儀が行われたってことは、わたくしいよいよマズいのかしら」
 「まずい? って、そういえばお具合が悪いんですか? さっき身体の調子がどうとか」
 「身体そのものじゃないんだけどね……うん、ちょっと見ててもらえる?」
 少しの間、腕を組んで考えるそぶりをしていたオパールだったが、ひとつかぶりを振るとそう提案してきた。こちらが頷いたのを確認して、大きく息を吸って瞳を閉じる。

 ――ふわあ……

 その直後だった。彼女の周りから、本人の雰囲気同様に柔らかな光の波動が沸き起こったのは。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

猫カフェを異世界で開くことにした

茜カナコ
ファンタジー
猫カフェを異世界で開くことにしたシンジ。猫様達のため、今日も奮闘中です。

年代記『中つ国の四つの宝玉にまつわる物語』

天愚巽五
ファンタジー
一つの太陽と二つの月がある星で、大きな内海に流れる二つの大河と七つの山脈に挟まれた『中つ国』に興り滅んでいった諸民族と四つの宝玉(クリスタル)にまつわる長い長い物語。

ビアンカ嬢の波瀾万丈異世界生活っ!!

葵里
ファンタジー
公爵家令嬢のビアンカは窓ガラスに映る自分の顔を見て前世の記憶を思い出す。 そしてこの世界が乙女ゲームの世界であることを思い出し… えっ?私、悪役令嬢じゃない!?バッドエンドになったら私死んじゃうの!? なんてことは考えず、新しい人生を堅実にどう生きていこうか、前世の自分のような死に方はしたくないと思いながらも何故か色々な騒動に巻き込まれて様々な苦難を乗り越えて行く。 恋愛も勿論していきますっ❤️

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

異世界坊主の成り上がり

峯松めだか(旧かぐつち)
ファンタジー
山歩き中の似非坊主が気が付いたら異世界に居た、放っておいても生き残る程度の生存能力の山男、どうやら坊主扱いで布教せよということらしい、そんなこと言うと坊主は皆死んだら異世界か?名前だけで和尚(おしょう)にされた山男の明日はどっちだ? 矢鱈と生物学的に細かいゴブリンの生態がウリです? 本編の方は無事完結したので、後はひたすら番外で肉付けしています。 タイトル変えてみました、 旧題異世界坊主のハーレム話 旧旧題ようこそ異世界 迷い混んだのは坊主でした 「坊主が死んだら異世界でした 仏の威光は異世界でも通用しますか? それはそうとして、ゴブリンの生態が色々エグいのですが…」 迷子な坊主のサバイバル生活 異世界で念仏は使えますか?「旧題・異世界坊主」 ヒロイン其の2のエリスのイメージが有る程度固まったので画像にしてみました、灯に関しては未だしっくり来ていないので・・未公開 因みに、新作も一応準備済みです、良かったら見てやって下さい。 少女は石と旅に出る https://kakuyomu.jp/works/1177354054893967766 SF風味なファンタジー、一応この異世界坊主とパラレル的にリンクします 少女は其れでも生き足掻く https://kakuyomu.jp/works/1177354054893670055 中世ヨーロッパファンタジー、独立してます

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話。

処理中です...