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第一章:竜、北の空より来たる
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このロルベーアでは古の伝説にのっとって、王位を継ぐものは十六の年、各地から集められた竜族より、ひとりだけパートナーを選ぶことになっているのだ。それが撰竜の儀と呼ばれるもので、たいていは春の立志式と同じ日、騎士の任命に先がけて行われる。
このたびは先代の王太子――つまり現王であるロゼッタの父が、かれこれ二十年ほど前にやって以来となる、久々の式典だ。騎士団の若い面々も、華やかな式に出席できるとあって盛り上がっていた。主役のロゼッタが姫君らしい、清楚で可憐な容姿なのも大きな要因だろう。騎士たるもの、どうせ忠誠を誓うならば見目麗しい淑女のほうがうれしいというものだ。
しかし当の王女殿下といえば、テーブルにほおづえをついて浮かない顔だった。
「どーせ一生いっしょにいるんだったら、お膳立てしてもらって選ぶんじゃなくて、もっと運命的な出会いがしたいじゃない。うちのご先祖様みたいにさ」
「うん、わかるわかる。やっぱり出会いって大切だよ」
「だよね! リーゼなら分かってくれると信じてたっ」
心底嫌そうな物言いに頷くリーゼ。きっぱりと肯定してくれた友人に我が意を得たりとばかり、姫君が身を乗り出して満面の笑顔になる。
ロゼッタの言うご先祖とは、ロルベーアの始祖となった古の女王だ。かつて敵対していた竜と絆を結び、この地に平和をもたらしたという『聖女』エレオノーラの伝説は、国内はもちろん近隣諸国――彼女が結びつけ、竜と共に歩むことを約す同盟を結んだ国々で、知らないものはいない。
ちなみに言い伝えでは、エレオノーラがその半身たるドラゴンと出逢ったのは十六の春。今は王城の建っているまさにこの丘で、黄昏にリュートを奏でているときの事だったらしい。竜騎士が扱う楽器は何でもいいのだが、伝説に憧れて同じ楽器を選ぶ若者は多い。
「リーゼだって、今年どうしても受かりたいのはエレオノーラ様にあやかりたいからなんだもんね~。乙女だなぁ、このこのっ」
「ベタベタな理由だけどね。でも、前からずっと憧れだったから」
友人にひじでつっつかれて、照れくさそうに頬を染めながらも、リーゼの声はしっかりと意志を持ったものだった。
小さいときから幾度も耳にしてきた、竜と乙女が起こした奇跡の物語。それはどれほど時間がたっても色あせることなく、胸の奥で輝き続けている。
彼女たちみたいに、後世まで語り継がれる大きな業績はなくていい。ただひとりのパートナーと共に、大好きな家族と友人の住むこの国を守っていけるならば、こんなに素敵なことはないと思うのだ。
「……そ、それにね? 騎士団はやっぱり若いうちに入っといたほうがいいと思うんだ、うん。ほら、対外訓練とかいろいろ体力のいる仕事も多いし、慣れとかないと」
「うんうん」
言った後から妙に気恥ずかしくなってしまい、急いで付け加える。気心知れた相手でも、夢について真面目に語るのはやっぱり照れくさいのだ。ロゼッタはそんなようすを楽しそうに眺めてあいづちを打っていたが、不意にぽんと両手を打ち合わせた。
このたびは先代の王太子――つまり現王であるロゼッタの父が、かれこれ二十年ほど前にやって以来となる、久々の式典だ。騎士団の若い面々も、華やかな式に出席できるとあって盛り上がっていた。主役のロゼッタが姫君らしい、清楚で可憐な容姿なのも大きな要因だろう。騎士たるもの、どうせ忠誠を誓うならば見目麗しい淑女のほうがうれしいというものだ。
しかし当の王女殿下といえば、テーブルにほおづえをついて浮かない顔だった。
「どーせ一生いっしょにいるんだったら、お膳立てしてもらって選ぶんじゃなくて、もっと運命的な出会いがしたいじゃない。うちのご先祖様みたいにさ」
「うん、わかるわかる。やっぱり出会いって大切だよ」
「だよね! リーゼなら分かってくれると信じてたっ」
心底嫌そうな物言いに頷くリーゼ。きっぱりと肯定してくれた友人に我が意を得たりとばかり、姫君が身を乗り出して満面の笑顔になる。
ロゼッタの言うご先祖とは、ロルベーアの始祖となった古の女王だ。かつて敵対していた竜と絆を結び、この地に平和をもたらしたという『聖女』エレオノーラの伝説は、国内はもちろん近隣諸国――彼女が結びつけ、竜と共に歩むことを約す同盟を結んだ国々で、知らないものはいない。
ちなみに言い伝えでは、エレオノーラがその半身たるドラゴンと出逢ったのは十六の春。今は王城の建っているまさにこの丘で、黄昏にリュートを奏でているときの事だったらしい。竜騎士が扱う楽器は何でもいいのだが、伝説に憧れて同じ楽器を選ぶ若者は多い。
「リーゼだって、今年どうしても受かりたいのはエレオノーラ様にあやかりたいからなんだもんね~。乙女だなぁ、このこのっ」
「ベタベタな理由だけどね。でも、前からずっと憧れだったから」
友人にひじでつっつかれて、照れくさそうに頬を染めながらも、リーゼの声はしっかりと意志を持ったものだった。
小さいときから幾度も耳にしてきた、竜と乙女が起こした奇跡の物語。それはどれほど時間がたっても色あせることなく、胸の奥で輝き続けている。
彼女たちみたいに、後世まで語り継がれる大きな業績はなくていい。ただひとりのパートナーと共に、大好きな家族と友人の住むこの国を守っていけるならば、こんなに素敵なことはないと思うのだ。
「……そ、それにね? 騎士団はやっぱり若いうちに入っといたほうがいいと思うんだ、うん。ほら、対外訓練とかいろいろ体力のいる仕事も多いし、慣れとかないと」
「うんうん」
言った後から妙に気恥ずかしくなってしまい、急いで付け加える。気心知れた相手でも、夢について真面目に語るのはやっぱり照れくさいのだ。ロゼッタはそんなようすを楽しそうに眺めてあいづちを打っていたが、不意にぽんと両手を打ち合わせた。
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