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愛してる(2)

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 愛して、いたから?
 愛してしまった、というのは……ええと。
 
「どういうことでしょうか?」
「え? ……あー……まあ、自分の気持ちを抑えられなかった、ってことじゃない。欲の先に情があって、上の先に愛があったんじゃない? 順番間違っているけどね」
「情……」
 
 そういえば、最近文字の読み書きの延長でちゃんとした物語を読む力、物語を読んで流行り廃りを学ぶ、という授業でロマンス小説を読むように言われたっけ。
 シニッカさんオススメの小説は男女の恋愛もの。
 ――あ、そうだ。
 あの小説の中の男女が触れ合うと、緊張して触れられると熱くなる。
 それって、まるで私がソラウ様に触れられた時みたい。
 あれ? あれ? じゃあ、私……ソラウ様が好きなの!?
 
「浮気相手に本気になったってことね。で、彼女に言われた通りに腕輪を持って城に来た、と」
「そ、そうだ。だから私は、彼女の助言に従い城と国王陛下をお守りするためにここに来たのだ。決して聖女の里や国王陛下に楯突いたり、害なそうとしたわけではない! 本当だ! 信じてくれ! そ、それにルビアナとの不貞行為は……き、貴族なら誰でもするものだろう! 貴殿の父君も若い頃より浮き名を流した色男ではないか!」
「んーーー……アレでも一応俺の母のことを『最後の女』って言ってるし、いまだに俺に惚気を言うから若い頃の話は知らないなー。財産の話とかも兄たちが成人した時にまとめて処理していたから、今から不貞の子が現れても切り捨てるしー。っていうか、貴族なら誰でも、みたいな言い方はよくないんじゃない? 少なくとも俺はあんたたちみたいに結婚相手を裏切るようなことはしないしぃー」
 
 と完全に侯爵様を馬鹿にしたように見下ろす。
 確かに私も旦那様のお屋敷に行った時、食事中ものすごくソラウ様の今は亡きお母様への惚気をたくさん聞かされたなぁ。
 聞いてないのに馴れ初めから二回目のデートまで。
 なぜ二回目のデートまでなのかというと、大変細かく教えてくれたので結婚式まで話が進まなかったのだ。
 まあ、随分詳しく覚えているんだなぁ、と感心した。
 そうか、それも“愛してる”からなのか。
 今はもう、お亡くなりになっていても――旦那様にとっては本当に“愛妻”なんだ。
 ソラウ様は、愛された夫婦の子ども。
 
「…………」
 
 手のひらの中の光の神の宝具。
 なぜかずっと手を繋いでいてくれたから、ソラウ様の魔力が私の中に溜まっている。
 これだけあれば、光の神の宝具の腕釧わんせんを聖魔力で満たせると思う。
 
「ソラウ様、聖魔力ありがとうございます。やってみます」
「ああ、そう? じゃあお願い」
「はい」
 
 腕輪を持ち直し、離してもらった手で聖魔力を使ってまだら模様の溝を埋めていく。
 ふんわりと浮かぶイメージ。
 やはり大きい。
 一メートルくらいの大きな腕輪の姿。
 これが光の神の宝具、腕釧わんせんの真の姿なんだ。
 イメージを反映すると、ソラウ様がすぐに光の箱を作り出し、封じ込めてまた空間に封印する。
 それを見た侯爵様が狼狽えながら「な、なぜ」と呟く。
 
「光の神の宝具は、空の大光と同じです。いや、光の神が身につけるものだからこそもっと強い効果を持つ。制御する聖女がいなければ、宝具そのものが光り輝き、生まれる影はもれなく影樹になるんですよ。侯爵が気を失っていたのは、影樹に呑まれていたからです」
「は、は……!? わ、私が影樹を生み出したということか……!? そ、そんなバカな! ルビアナには法具を用いて城に強力な結界を張って真の災いから守ってと――」
「真の災いってなんですか? そもそも」
 
 集まってきた騎士様、魔法師様たちのおかげで倒れていた人たちを保護していく。
 それを確認したソラウ様が[リー・サンクチュアリ]を解除した。
 ソラウ様が侯爵様に「真の災い」について聞くと、息を呑む侯爵様。
 
「え、影樹が国中、世界中に生えてくる。空の大光が強くなり、次の光の季節にあらゆる影から影樹が発生し魔物に埋め尽くされるのだと……」
「そうならないために、聖女の里の聖女たちが光の神の宝具を通して聖魔力を何千年の間封じ込め、吸収し続けているんですよ? その元となる光の神の宝具を持ち出され、今日の事件ですよ。結局、光の神の光を正しく御せる者以外が持つべきではありません。この宝具はしっかり封じて聖女の里へお返しします。そして、この宝具を持ち出した者へ厳重な罰を与えなければならない」
 
 それは決定事項ですよ、と告げるソラウ様の表情、見たこともないほど冷たい。
 なんとなく、軽蔑の意味も含まれていそう。
 そうだよね、浮気はよくないよね、奥さんがいるのに。
 自分の気持ちばかり優先して、奥さんや子どものことを裏切ってはダメだよね。
 私には、そういう“普通の家族”はいなかったけれど、それでも私を家族として扱ってくれたお姉様がいた。
 ルビアナお養母様は、そんなお姉様のことも裏切っていたのか。
 後妻という話は今初めて知ったけれど、それでもハルジェ伯爵家に嫁いできて、お姉様のお継母様になったのなら……そんなことしないでほしかった。
 そもそも、侯爵様をそれほど愛していたのならどうして侯爵様の第二夫人にならなかったのだろう?
 愛しているくらいなら不義の道など選ばず、ちゃんとした手順を踏んで結ばれればよかったのに……。
 
「聖女ルビアナはどこにいますか? 死んだなんて嘘でしょう?」
 
 顔を上げる。
 あ、そうか。セエラ様も侯爵様も“ルビアナは死んだ”前提で彼女の遺志を果たすべく動いていた。
 私に連絡がないだけで、お養母様がお亡くなりになっているのかもしれない。


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