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光の季節のお茶会で(1)
しおりを挟む「指名依頼ですか!?」
「そう。最近君が作った祝石の装飾品が、王都内の装飾品店や冒険者協会内売店で販売されるようになったの。卸したものが客の手元に届くようになってるってことね、で、製作者の君のことを知りたがる人も増えた。増えた人の中に君に直接指名で『こういうのを作って欲しい』って依頼が来てるの。これ全部それね」
「わ、わあ……」
どさ、とソラウ様が置いた紙の束。
仕様依頼書というらしい。
喜ばしいことだ。
私のこれまでの努力が、認められたのだ。
嬉しい……だって私、実家では役立たずの無能の学なし無駄飯くらいと罵られて生きてきたのだから。
けれど、ソラウ様が私を[祝福]細工師にしてくれた。
人に認められて、信頼して依頼したいと思われるくらい……。
たった二つ季で、私の人生は一変してしまったのだ。
でも、ソラウ様とオラヴェさんが微妙な顔を見合わせている。
「あの……どうかされましたか?」
「いやー……俺、明日から影樹伐採作戦で遠征に行くんだけど……一人で大丈夫? 急ぎのものはないからもっと練習してからの方がいいと思うんだけど」
「ええ、それに……淑女教育の方も滞っております。元々の予定ですと、ソラウ様が光の季節の間不在中、細工師のお仕事をお休みして淑女教育の方に注力していただく予定だったのです。まさかこんなに早く指名依頼が来るなんて」
「そうなんだよね」
「そ、そうだったんですか」
一応、私の教育予定というものがちゃんと組まれていたらしい。
そうか。
それじゃあ……どうするべきなのかな?
指名依頼はなにか特別な事情がない限り、一年以内に作ってくださいってことらしい。
急ぎの依頼は三ヶ季以内。
だから光の季節の一ヵ季くらい、休んでも大丈夫?
「あの、でしたら光の季節中は細工師をお休みします。淑女教育も、あの、ありがたいので」
「よろしいのですか?」
「はい。ソラウ様もその方がいいと思うんですよね?」
「そーねー。指名依頼のくる細工師は、名前を売るのに夏の中期まで貴族主催のパーティーに招待されることも増えるから、今のうちに最低限の所作とマナーは身に着けておいた方が身のためなんじゃない?」
「パーティー……!?」
私が!?
驚いているとオラヴィさんが「ソラウ様の弟子としても、見られることが増えると思いますので。実際パーティーの招待状も届き始めております」と言われる。
そういう立場なのか。
ますますちゃんとした教養を身につけなければいけないのか!
「わ、わかりました。がんばります」
「うん。頑張りなー。幼少期から学ぶ内容を一気に詰め込むんだから、そんなに期待はしないけどー」
「リーディエ様に来ているパーティーの招待状についてはいかがしますか?」
「まだどこにも出せないでしょ。自分で招待状にお断りを入れるのもやらせて。最初に行かせるのはジェシー様とハンナ様のところにするといいんじゃない? ほら、なんか毎季お茶会してたじゃん」
「かしこまりました。では、奥様方へのお願いのお手紙もリーディエ様にお願いいたしましょうか」
「そうだねー。それがいいんじゃない? 頑張ってね」
「え? あ、は、はい。……え?」
なに? なんとなく怖い。
ソラウ様は遠征の準備もあるらしくて、今日から王宮の方に行くそうだ。
出発は明日なので、私はオラヴィさんとシニッカさんとお見送り。
そのあと私の部屋にオラヴィさんとシニッカさんが一緒にやってきた。
「本日から実際に手紙を書いてみましょうね。まずすでに来ているパーティーの招待状へのお断り。次にジェシー様とハンナ様へのお茶会のお願いのお手紙を書いてみましょう」
「あ、あの、そのジェシー様とハンナ様というのは……?」
「あ……ああ……お話したことがなかったですか? ジェシー様とハンナ様は旦那様の第一夫人と第二夫人でらっしゃいますよ」
「ふ……」
つまり、旦那様の新しい結婚相手としてティフォリオ公爵家に来た私からすると――先輩の奥様方!
「あ……え? でも、あの、私、お会いしてもいいのでしょうか……? あれ? でも、私、旦那様と籍は入れていないし……ええと……?」
「ええ、旦那様とリーディエ様は正式にご夫婦にはなっておりませんよ。世間的には旦那様と婚約中にソラウ様の祝石細工師としてのお弟子さん――という肩書でしょうか」
「婚約中!?」
「家の外から見れば、の話しです。ですが奥様達はリーディエ様の事情はもうご存じですよ。ご子息様とお暮しになっておりますので、滅多にこちらのお屋敷には来られませんが……。今は社交界シーズンで王都の別邸にいらしております。リーディエ様の事情もご存じですから、奥様方にリーディエ様の実技におつき合いをお願いしてはいかがでしょう?」
「え?」
なにをおっしゃっておられます?
旦那様の第一夫人と第二夫人に実技を見ていただく、ということ?
「え、え、え? え? え?」
「奥様方は侯爵家のご令嬢ですから、ちゃんと指導していただきましょう。さあ、さっそくお手紙を書きましょうね」
「え? え? え? え? ほ、本当に!? は、はい! わかりました!?」
旦那様の奥様方。
確かに、ちゃんとご挨拶しなければいけないですもんね!?
書きます!
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