上 下
49 / 49

最後まで媚びることにした

しおりを挟む

「いい加減にしろ! じゃあ本当に置いて行くぞ!? いいんだな!?」
「ひぐうっ!?」

 この面倒くさい構ってちゃんめ!
 拗ね散らかして「そんなことないよ。一緒に逃げようよ」待ちとウッゼエエエエエエ!
 時間ないって言ってんだろうがよ!?
 千代花ちよかが出たことで別動隊がこっちに来る。多分!
 こいつの駄々っ子っぷりに構ってられない。
 こんなやつを「マッチョが怖くて泣いちゃうの可愛い」って言えるユーザーの仏のように広い心に感謝するべきではないかこいつ。

「行くぞ、真嶋ましま!」
「はい!」

 真嶋ましまの返事があまりにも快活。
 こいつもウジウジウザい墨野すみやに思うところがあったのかもしれないな。
 残りの剣を一本だけ持ち上げて、出口の階段へ向かう。
 本当にでかい出口だな。
 十メートルくらいの高さがある。

「ま——待ってくれ! お、俺も、行くよ!」
「はぁ……」

 足を怪我した真嶋ましまは俺の肩に手をかけて歩いていた。
 その分すっとろいので、墨野すみやは簡単に追いついてくる。

「なあ、高際たかぎわ、ここから先の道は、お前わかるんだよな?」
「さすがに攻略対象視点は知らないし、ここから先はムービーだったし省略されててわからないよ」
「そ、そんな……ど、どうすんだよ。大丈夫なのか?」
「うるせーなぁ。エンドロールのあとの語り部分に、『森の坂道をひたすら下りた』って言ってた気がするからひたすら下れば助かるんじゃねーの、多分」
「そんな曖昧な!」

「いたぞ!」

「「「!」」」

 階段を下りると見えてきた森。
 おそらくあれのことだろうと、そのまま森に入ろうとした時だ。
 複数の重々しい足音とガシャガシャという金属音。
 知らない男の声に右を向くと、やや丘になった方からマスクを被った男がこちらに銃を向けていた。
 まっずい! こっちは錆びた剣しか持っていない!
 千代花ちよかは——!?

「ぐあああっ!」
高際たかぎわさん! 銃です! これですか!?」
「ち、千代花ちよかちゃん!」

 さすがおっぱいのついたイケメン!
 兵士を蹴り飛ばして、銃だけ奪って駆け寄ってきてくれた。
 一度真嶋ましま墨野すみやに預けて銃を見せてもらう。
 ショットガン——ベネリ M3スパス12 M870。
 散弾銃タイプで連射速度が速く、日本国内の自衛隊でも採用されている優秀な銃だな。
 軽量で撃てる弾の種類が多くなく、固定化反動で壊れやすい。
 でも——

「ナイス、千代花ちよかちゃん」

 狙撃にも対応している銃だ。
 すでに撃てるようになっているあたり敵さんの殺意高すぎてドン引きなんだけど、丘の方へへと向ける。
 この銃は弾数三発のみ。
 千代花ちよかの後ろに現れた兵三名へ向けて、撃つ。

「ひゃわ!」
「ぐぁ!」
「うっ」」
「がっ!」

 千代花ちよかには驚かれたが。
 装填できないのは不安だが、安全装置だけしっかりしておこう。
 あと二発。

「よし、今のうちに行こう!」
「お、おおぅっ」
高際たかぎわさん、銃まで使えるんですかっ」
「ゲームで覚えた。撃ったのは初めて」
「「ゲーム!?」」

 千代花ちよかと共に後ろを気にしながら、森の中をとにかく下りていく。
 できるだけ木々を背にするように、真嶋ましま墨野すみやを先行させる。

「ストップ!」
「え!」
「どうしたんですか、高際たかぎわさん」

 クソ、想定しておけばよかった。
 先に進んでいた墨野すみやたちの前に、フェンスが見える。
 例の高圧電流のフェンスだろう。
 駐車場のやつより高い。
 この先に行くには銃は捨てて行った方がいい、けど——。

「あのフェンス!」
「うん……」

 千代花ちよかも気づいたのか。
 どうしたもんかな?
 ワンチャンに賭けて撃ってみるか?

「高圧電流のフェンスか!? お、おい、どうするんだ!?」
「本当に電流が流れているか調べる。下がっててくれ」
「なにをするんですか?」
「撃ってみる」

 安全装置を外してフェンスに向かって引き金を引く。
 散った弾丸がバチバチ音を立てて焦げた。
 うん、ちゃんと高圧電流、流れておられますね。

「ダメだな」
「うわああぁ、どうするんだよ!!」
高際たかぎわさん、後ろを頼みます」
「え? うん?」

 千代花ちよかに頼まれて銃口を後ろへ向ける。
 追ってきている兵が数名。
 向こうは重装備だ、俺たちほど軽快に動けない。
 とはいえ、すぐに追いつかれそうな距離だ。
 千代花ちよか真嶋ましま墨野すみやを脇に抱え、飛び上がった。
 フェンスの外に二人を置き、戻ってくる。

高際たかぎわさん!」
「うお!」

 後ろ向きの俺を抱えてジャンプする千代花ちよか
 銃口が向けられ、容赦なく撃ってくる兵士を空中で狙い撃つ。
 銃弾は千代花ちよかの回転による風圧でどこかへ飛んでいく。
 ちょっとその回転で俺の内臓がひっくり返った気がするんだが、気のせいということにしておこう。
 今はそれどころじゃない。

「行ってください! すぐ追いつきます!」
千代花ちよかちゃん!」

 俺を地面に転がすと、千代花ちよかがフェンスの中へと戻る。
 確かに、フェンス越しに銃弾のいくつかは届くだろう。
 坂の上からなら狙撃も届く。
 千代花ちよかが敵の注意を引いてくれる方が——俺たちの生存率は上がる。
 だが……いや。

「行くぞ!」
「は、はいっ」
「はあ、はあ! はあ! はあ!」

 墨野すみやと共に真嶋ましまを引きずるように……いや、もう転がり落ちるように山を下りる。
 すると、道が見えた。
 舗装された道だ。

「み、道……道だ!」
「あ?」

 その時、タイミングよく上から車が下ってきた。
 この道はキャンプ場に続く道だ。
 つまりあの車はキャンプ場から降りてきたということでは?
 しかもあの車、見たことがある。

「あ! マ、マネージャー!」
高際たかぎわさん!?」
「く、車!? 高際たかぎわの知り合い!? た、助かるのか!?」

 高際たかぎわのマネージャーだ。
 停車して窓から顔を出すマネージャーに、慌てて駆け寄る。

高際たかぎわさん、無事でしたか!? 朝から待ってたんですけど……」
「すまない、ありがとう! ついでにこの二人を病院に連れて行ってくれ!」
「た、高際たかぎわさん!?」
高際たかぎわさん、どこへ——!」

 真嶋ましまを後部座席に突っ込み、背を向ける。
 声をかけてきたマネージャーには、ちょっと申し訳ないな、と思う。
 でも——

「なんでもない。ちょっと惚れた女を迎えに行ってくるだけだ」
「え!」
「でも、あとでまた迎えにきてくれると嬉しい! 頼んだ!」
「た——高際たかぎわさん! スキャンダルは、困りますからねーーー!?」

 こんな時でも高際たかぎわ義樹よしきのキャリアを案じてくれるマネージャー、マジいい人。
 銃を持ったまま、坂道を登る。
 結構、かなり、限界まで体力、きてるな。
 ああ、でも朝から緊張状態だし……四階以降は歩きっぱなしだし……ゾンビと戦ったりラスボスにちょっかいかけたり……そりゃあ疲れるか。
 でもさ、あと少しだろ、俺。
 頑張れるよな? 俺。

「……ったく……本当、クソゲーだよなぁ」

 生き延びるために媚びると決めたんだから、最後まで媚びるさ。
 このクソゲー『終わらない金曜日』を終わらせられるのはヒロイン、鬼武おにたけ千代花ちよかだけなのだから。
 どんなに意味わからんオチでも、謎が解き明かされることがなくても、DLCプレイしないとわからなくってもまあ構わない。
 口元が自然に笑う。
 空耳かもしれないけど、彼女の声が聞こえた気がした。



 終
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

アレキサンドライトの憂鬱。

雪月海桜
ファンタジー
桜木愛、二十五歳。王道のトラック事故により転生した先は、剣と魔法のこれまた王道の異世界だった。 アレキサンドライト帝国の公爵令嬢ミア・モルガナイトとして生まれたわたしは、五歳にして自身の属性が限りなく悪役令嬢に近いことを悟ってしまう。 どうせ生まれ変わったなら、悪役令嬢にありがちな処刑や追放バッドエンドは回避したい! 更正生活を送る中、ただひとつ、王道から異なるのが……『悪役令嬢』のライバルポジション『光の聖女』は、わたしの前世のお母さんだった……!? これは双子の皇子や聖女と共に、皇帝陛下の憂鬱を晴らすべく、各地の異変を解決しに向かうことになったわたしたちの、いろんな形の家族や愛の物語。 ★表紙イラスト……rin.rin様より。

機械娘の機ぐるみを着せないで!

ジャン・幸田
青春
 二十世紀末のOVA(オリジナルビデオアニメ)作品の「ガーディアンガールズ」に憧れていたアラフィフ親父はとんでもない事をしでかした! その作品に登場するパワードスーツを本当に開発してしまった!  そのスーツを娘ばかりでなく友人にも着せ始めた! そのとき、トラブルの幕が上がるのであった。

白紙の冒険譚 ~パーティーに裏切られた底辺冒険者は魔界から逃げてきた最弱魔王と共に成り上がる~

草乃葉オウル
ファンタジー
誰もが自分の魔法を記した魔本を持っている世界。 無能の証明である『白紙の魔本』を持つ冒険者エンデは、生活のため報酬の良い魔境調査のパーティーに参加するも、そこで捨て駒のように扱われ命の危機に晒される。 死の直前、彼を助けたのは今にも命が尽きようかという竜だった。 竜は残った命を魔力に変えてエンデの魔本に呪文を記す。 ただ一つ、『白紙の魔本』を持つ魔王の少女を守ることを条件に……。 エンデは竜の魔法と意思を受け継ぎ、覇権を争う他の魔王や迫りくる勇者に立ち向かう。 やがて二人のもとには仲間が集まり、世界にとって見逃せない存在へと成長していく。 これは種族は違えど不遇の人生を送ってきた二人の空白を埋める物語! ※完結済みの自作『PASTEL POISON ~パーティに毒の池に沈められた男、Sランクモンスターに転生し魔王少女とダンジョンで暮らす~』に多くの新要素を加えストーリーを再構成したフルリメイク作品です。本編は最初からすべて新規書き下ろしなので、前作を知ってる人も知らない人も楽しめます!

ロボリース物件の中の少女たち

ジャン・幸田
キャラ文芸
高度なメタリックのロボットを貸す会社の物件には女の子が入っています! 彼女たちを巡る物語。

短編集

流子
ライト文芸
1話でさっくり終わる小説をたくさん。 ●ボキ、と嫌な音がした。「社会人女性と折れたヒール」 ●俺は純粋無垢な庶民の美少女と付き合いたい!わたくしは顔も体も良い軍人と付き合いたい!私は玉の輿に乗りたい!僕は、アタシは、君は、 「みんな悪役!」 ●教室の自分の机に間違えて入れられた手紙は、気になっていたあの子からのもので…。「かわいい字」 ●前世日本人、今世魔法使い。これって多分、俺TUEEEE?!「チートなはずなのに!」 ●魔法学校に通うハナは『勇者戦争』に選ばれた一人で、学校の仲間たちと協力しながら戦うが…。「あなたに恋を」 ●オメガの俺がバイトを毎月ほぼ同じ時期に休んでるの、発情期だって皆にバレてるんだろうな。「番いたくない底辺オメガ」

異世界隠密冒険記

リュース
ファンタジー
ごく普通の人間だと自認している高校生の少年、御影黒斗。 人と違うところといえばほんの少し影が薄いことと、頭の回転が少し速いことくらい。 ある日、唐突に真っ白な空間に飛ばされる。そこにいた老人の管理者が言うには、この空間は世界の狭間であり、元の世界に戻るための路は、すでに閉じているとのこと。 黒斗は老人から色々説明を受けた後、現在開いている路から続いている世界へ旅立つことを決める。 その世界はステータスというものが存在しており、黒斗は自らのステータスを確認するのだが、そこには、とんでもない隠密系の才能が表示されており・・・。 冷静沈着で中性的な容姿を持つ主人公の、バトルあり、恋愛ありの、気ままな異世界隠密生活が、今、始まる。 現在、1日に2回は投稿します。それ以外の投稿は適当に。 改稿を始めました。 以前より読みやすくなっているはずです。 第一部完結しました。第二部完結しました。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

モニターに応募したら、系外惑星に来てしまった。~どうせ地球には帰れないし、ロボ娘と猫耳魔法少女を連れて、惑星侵略を企む帝国軍と戦います。

津嶋朋靖(つしまともやす)
SF
近未来、物体の原子レベルまでの三次元構造を読みとるスキャナーが開発された。 とある企業で、そのスキャナーを使って人間の三次元データを集めるプロジェクトがスタートする。 主人公、北村海斗は、高額の報酬につられてデータを取るモニターに応募した。 スキャナーの中に入れられた海斗は、いつの間にか眠ってしまう。 そして、目が覚めた時、彼は見知らぬ世界にいたのだ。 いったい、寝ている間に何が起きたのか? 彼の前に現れたメイド姿のアンドロイドから、驚愕の事実を聞かされる。 ここは、二百年後の太陽系外の地球類似惑星。 そして、海斗は海斗であって海斗ではない。 二百年前にスキャナーで読み取られたデータを元に、三次元プリンターで作られたコピー人間だったのだ。 この惑星で生きていかざるを得なくなった海斗は、次第にこの惑星での争いに巻き込まれていく。 (この作品は小説家になろうとマグネットにも投稿してます)

処理中です...