36 / 49
地下へと進むために
しおりを挟むパワードスーツのパーツの残りは上半身胴体と下半身。
つまりあと二つだ。
確か上半身のパーツから、頭部パーツが出てきて頭を守ってくれるようになる。
上半身のパーツは最下層。
ボス部屋の直前だったはず。
パーツの部屋へ行くのに、研究員たちの異様な罠があったんだよな。
ああ、胸糞悪いやつな。
「全部で地下何階あるんですか?」
「えー、何階だったっけかな? 意外とそんなに深くなかった気がする……えーと……確か……あ、そうだ。地下五階だ!」
「え、あと二つですか?」
「そ、そらなら地下を目指した方がいい、か?」
地下四階に下半身パーツがあり、五階が最下層となる。
ボスを倒してボス部屋を抜けると山道のような場所に出て、そこから町が見えるのだ。
その町を攻略対象と見下ろすのが、エンディングスチルだった。
ここは三階なので、真嶋の言うとおりあと二つの階。
もちろん、ホラゲの二階層なんて危険と隣り合わせで安全性など一切保証できない。
なんなら『おわきん』は積極的に攻略対象を殺しに来るしね。
「時間をかけて、ゆっくり進みましょう。敵は無限に出てくるわけではないんですよね?」
「ああ、地上のゾンビはキャンプ場の客だっただろう? 地下も同じで、おそらくなにかの研究の犠牲者で、ゾンビ化した原因が進行しているから強いけど倒したあと灰のようになって消える」
「では、一層一層敵を殲滅してから真嶋さんと墨野さんを下ろしていきましょう。お三方には階段で待っていてもらい、私がその階層を探索して敵をすべて倒します」
「いや、でも」
「それが最善で、最速です。全部倒しちゃえばもう出てきませんし!」
超脳筋なんだが!?
「それでどうでしょうか」
「う……うーん……ま、まあ、とりあえずやるだけやってみよう」
「ありがとうございます、高際さん! 墨野さんと真嶋さんも、それでいいですか?」
「わ、わかりました」
「俺も……それなら……」
そもそもお前らは見捨てられても不思議じゃないんだけどな。
千代花の優しさに感謝しろと言いたい。
それなのに、嬉しそうな千代花が「では地下に進むことに決まりですね!」と言うから口を挟む気にもなれなかった。
俺は本当に、彼女が笑うならそれでいいと思うようになっているのだ。
「千代花ちゃん、頼みがある」
「は、はい。なんでしょうか」
「このパイプ椅子の脚を一本折ってくれ。武器がなにもないのは、やっぱり不安だ。他にもゾンビが持っている武器は、回収してきてほしい。多分使えるものが中にはあるはずだ」
「なるほど……! わかりました」
「どれもこれも錆びてはいるが、鈍器としては使えるだろ。千代花ちゃんと必要になったら容赦なく使えよ」
「はい」
と、いうわけでようやく俺も尖った鉄パイプという武器を手に入れた。
椅子の脚なので鉄パイプにしてはとても短いけれどな。
本当は銃がよかったけど、贅沢なこと言ってる場合じゃない。
あとはゾンビたちの持っている錆びた剣や斧。
生身でゾンビと近接戦闘なんざ絶対無理なんだが、それでもないよりはいい。
気休め程度にはなる。
「では、この階を探索してゾンビを殲滅してきます」
「気をつけてね」
「はい、高際さんも」
ほんの少しだけ照れた顔をされて、なんとも言えない気持ちになる。
まあまあ、うまいこと攻略されて、無事に生き延びれればそれでいい。
この『おわきん』はヒロインに攻略されないと生き延びられないのだから。
足をやられた真嶋の代わりに、右腕の動く墨野とバリケードを入り口に構築する。
殲滅までいかずとも、地下への階段までのルートにいる敵性クリーチャーどもを減らしてくれれば安全性は高まるからな。
「二人はとりあえず眠って体力を回復してくれ。寝てれば痛みもわからないだろう」
「す、すまねぇ」
「痛くて眠れそうにないです」
「目を閉じてじっとしているだけでもいい。傷薬はあちこちにあるはずだから、またすぐ手に入る」
「うう、わ、わかりました」
時折聞こえてくる化け物の呻き声や悲鳴、物音。
部屋の電気はついていないから真っ暗。
その代わり、バリケードの奥の廊下では点滅する蛍光灯。
怪我をした二人を隠すように横たえたテーブルに背中をつけて、鉄パイプを握りしめる、
なにかを引きずるような音とゾンビの足音。
息を殺してやり過ごすのを数回。
どれだけ待っていればいいのだろう。
やたらと長い時間こうしているような気がする。
『あぁう』
「——っ」
バリケード越しの廊下に、ボロ布を纏ったゾンビが一体立ち止まった。
気づかれたか?
鉄パイプを握り直し、ゾンビを睨みつける。
「たぁ!」
『ぎあ!』
ぐしゃ、とバリケードの隙間からでも千代花がゾンビの頭を蹴り潰すのが見えた。
もはや見慣れてしまったグロ映像。
血飛沫も瞬く間に黒い灰のようになって消えていく。
「千代花ちゃんっ」
「すみません、粗方始末したと思っていたんですが……」
「いや、助かったよ。君は大丈夫だった?」
「はい。比較的ゆっくりと探索できるようになっているはずです」
「そうか、わかった」
じゃあ、可哀想だけど墨野と真嶋を起こすか。
安堵の溜息を吐いて、立ち上がる。
やべえ、震えとる。
自分が思っていたよりも緊張していたことに気づく。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
機械娘の機ぐるみを着せないで!
ジャン・幸田
青春
二十世紀末のOVA(オリジナルビデオアニメ)作品の「ガーディアンガールズ」に憧れていたアラフィフ親父はとんでもない事をしでかした! その作品に登場するパワードスーツを本当に開発してしまった!
そのスーツを娘ばかりでなく友人にも着せ始めた! そのとき、トラブルの幕が上がるのであった。
白紙の冒険譚 ~パーティーに裏切られた底辺冒険者は魔界から逃げてきた最弱魔王と共に成り上がる~
草乃葉オウル
ファンタジー
誰もが自分の魔法を記した魔本を持っている世界。
無能の証明である『白紙の魔本』を持つ冒険者エンデは、生活のため報酬の良い魔境調査のパーティーに参加するも、そこで捨て駒のように扱われ命の危機に晒される。
死の直前、彼を助けたのは今にも命が尽きようかという竜だった。
竜は残った命を魔力に変えてエンデの魔本に呪文を記す。
ただ一つ、『白紙の魔本』を持つ魔王の少女を守ることを条件に……。
エンデは竜の魔法と意思を受け継ぎ、覇権を争う他の魔王や迫りくる勇者に立ち向かう。
やがて二人のもとには仲間が集まり、世界にとって見逃せない存在へと成長していく。
これは種族は違えど不遇の人生を送ってきた二人の空白を埋める物語!
※完結済みの自作『PASTEL POISON ~パーティに毒の池に沈められた男、Sランクモンスターに転生し魔王少女とダンジョンで暮らす~』に多くの新要素を加えストーリーを再構成したフルリメイク作品です。本編は最初からすべて新規書き下ろしなので、前作を知ってる人も知らない人も楽しめます!
短編集
流子
ライト文芸
1話でさっくり終わる小説をたくさん。 ●ボキ、と嫌な音がした。「社会人女性と折れたヒール」 ●俺は純粋無垢な庶民の美少女と付き合いたい!わたくしは顔も体も良い軍人と付き合いたい!私は玉の輿に乗りたい!僕は、アタシは、君は、 「みんな悪役!」 ●教室の自分の机に間違えて入れられた手紙は、気になっていたあの子からのもので…。「かわいい字」 ●前世日本人、今世魔法使い。これって多分、俺TUEEEE?!「チートなはずなのに!」 ●魔法学校に通うハナは『勇者戦争』に選ばれた一人で、学校の仲間たちと協力しながら戦うが…。「あなたに恋を」 ●オメガの俺がバイトを毎月ほぼ同じ時期に休んでるの、発情期だって皆にバレてるんだろうな。「番いたくない底辺オメガ」
異世界隠密冒険記
リュース
ファンタジー
ごく普通の人間だと自認している高校生の少年、御影黒斗。
人と違うところといえばほんの少し影が薄いことと、頭の回転が少し速いことくらい。
ある日、唐突に真っ白な空間に飛ばされる。そこにいた老人の管理者が言うには、この空間は世界の狭間であり、元の世界に戻るための路は、すでに閉じているとのこと。
黒斗は老人から色々説明を受けた後、現在開いている路から続いている世界へ旅立つことを決める。
その世界はステータスというものが存在しており、黒斗は自らのステータスを確認するのだが、そこには、とんでもない隠密系の才能が表示されており・・・。
冷静沈着で中性的な容姿を持つ主人公の、バトルあり、恋愛ありの、気ままな異世界隠密生活が、今、始まる。
現在、1日に2回は投稿します。それ以外の投稿は適当に。
改稿を始めました。
以前より読みやすくなっているはずです。
第一部完結しました。第二部完結しました。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
モニターに応募したら、系外惑星に来てしまった。~どうせ地球には帰れないし、ロボ娘と猫耳魔法少女を連れて、惑星侵略を企む帝国軍と戦います。
津嶋朋靖(つしまともやす)
SF
近未来、物体の原子レベルまでの三次元構造を読みとるスキャナーが開発された。
とある企業で、そのスキャナーを使って人間の三次元データを集めるプロジェクトがスタートする。
主人公、北村海斗は、高額の報酬につられてデータを取るモニターに応募した。
スキャナーの中に入れられた海斗は、いつの間にか眠ってしまう。
そして、目が覚めた時、彼は見知らぬ世界にいたのだ。
いったい、寝ている間に何が起きたのか?
彼の前に現れたメイド姿のアンドロイドから、驚愕の事実を聞かされる。
ここは、二百年後の太陽系外の地球類似惑星。
そして、海斗は海斗であって海斗ではない。
二百年前にスキャナーで読み取られたデータを元に、三次元プリンターで作られたコピー人間だったのだ。
この惑星で生きていかざるを得なくなった海斗は、次第にこの惑星での争いに巻き込まれていく。
(この作品は小説家になろうとマグネットにも投稿してます)
目覚めた世界は異世界化? ~目が覚めたら十年後でした~
白い彗星
ファンタジー
十年という年月が、彼の中から奪われた。
目覚めた少年、達志が目にしたのは、自分が今までに見たことのない世界。見知らぬ景色、人ならざる者……まるで、ファンタジーの中の異世界のような世界が、あった。
今流行りの『異世界召喚』!? そう予想するが、衝撃の真実が明かされる!
なんと達志は十年もの間眠り続け、その間に世界は魔法ありきのファンタジー世界になっていた!?
非日常が日常となった世界で、現実を生きていくことに。
大人になった幼なじみ、新しい仲間、そして……
十年もの時間が流れた世界で、世界に取り残された達志。しかし彼は、それでも動き出した時間を手に、己の足を進めていく。
エブリスタで投稿していたものを、中身を手直しして投稿しなおしていきます!
エブリスタ、小説家になろう、ノベルピア、カクヨムでも、投稿してます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる