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地下三階探索
しおりを挟む地下三階。
俺たちが初めてこの建物に入った時、地上一階だった場所だ。
上の階より薄気味が悪く、生暖かい空気がまとわりつく。
明かりがさらに落とされ、薄暗さまで増していやがる。
その上、明らかになにかいる。
あぁ、とか、ウゥ……とか、廊下に響いているのだ。
二階までは会話もあったが、地下三階の空気に当てられて全員が黙りこくる。
それがより一層、地下三階の気味の悪さを引き立てるのだ。
千代花まで緊張感が増して、最初の部屋をスルーしそうになる。
「部屋を探索しよう」
「ひっ」
「あ、あぁ、そうだな」
俺が声をかけると真嶋がわかりやすく肩を跳ね上げる。
ビビらせたのは申し訳ないが、部屋をスルーして探索を疎かにはできない。
地下三階といえば、上の階よりアイテムが豊富だったはずだ。
「ァァァァァア!」
「皆さん! 後ろに!」
「うわー!」
出入り口に差しかかった瞬間、長剣が振り下ろされた。
寸前で千代花が腕で受け止め、薙ぎ払う。
すぐさま頭を潰して倒してくれたが、真嶋が尻餅をついて墨野が俺にしがみついてきやがる。
「うっぜぇ。放せ」
「怖い怖い怖い」
ムキムキマッチョが男にしがみつきながら「怖い怖い怖い」って呟いて泣いてる方がよほど怖いわ、ざけんな。
真嶋も全身震わせながら、部屋の中に入った千代花に歩み寄る。
「も、もういませんか?」
「はい。大丈夫だと思います」
「手分けして部屋の中を探そう。おい、墨野離れろ。動けない」
「こ、怖ぇよぉ。もう上に戻ろうぜぇ」
「あ、携帯食糧がありましたよっ!」
「マジか!」
真嶋が携帯食糧を見つけるやいなや、墨野が俺から剥がれる。
真嶋よくやった、と思うが、墨野は俺に一発殴られても文句言えないと思う。
「こちらには水のペットボトルがありました。市販のものと同じパッケージです」
「本当だ。コンビニにも売ってる水だな。これは安全そうだ。全員今どれだけ水を持ってる?」
「俺はもうない」
「僕も……」
「わ、私も」
「俺も墨野に渡しちまったし、それじゃあ千代花だな」
「「えっ」」
当たり前だろう、お前ら戦わないんだし。
物資は全部千代花優先である。
文句なかろう?と睨むと、真嶋も墨野も渋々「そうだな」「そうですね」と頷く。
「携帯食糧は墨野と真嶋で分けて食べるといい。千代花もまだお腹空いてたら一本もらえ」
「え、でも高際さん……」
「俺はまだ我慢できるから大丈夫。これだけ見つかるってことは、他の部屋も期待できそうだしな。探索はしっかり行おう」
「わあ、ありがとうございます、高際さん!」
三本入りの携帯食糧一本でこんなに感謝されるとは。
真嶋は本当はいい子なんだな。
不満そうな墨野は見習え。マジで。
すると千代花も「私はさっき食べたので、お二人で分けてください」と残りの一本を二人に譲った。
女神か?
「中途半端だからさらに腹減ってきたなぁ」
「文句言うな。他の部屋にまだあるかもしれないだろ」
「白米が食いてえ」
やはり墨野は殴ってもゆるされるのでは?
「ぎぃいいいいぃ……!」
「ゥァァぁォ」
「出たぁ!」
「部屋に戻ってください!」
携帯食糧に気を取られていると、真嶋の後ろからまたも武器を持ったゾンビが現れる。
今度は三体同時。
敵の数が一気に増え出した。
そして、倒した瞬間黒い水のようになって崩れていく。
地上のゾンビと消え方が違う……?
「なんだか、地上のゾンビより、強い……?」
千代花も違和感を覚えたのか、消えたゾンビを見下ろしながら呟く。
やはりそうか。
「消え方も違うし、もしかして地下のゾンビはキャンプ場の客じゃないのかもしれない」
「え? ど、どういうことですか?」
「考えてもみてくれ。地上で千代花ちゃんは三日も戦い続けてたんだ。キャンプ場の客が三百人いたとしても、地上で倒した数を考えるとゆうにそのくらいは倒している。怪物も客を襲っていたし、ゾンビを食べてた。地下にいるのはキャンプ場でゾンビになった客たちじゃなく、その前からこの施設にいたゾンビなんじゃないか?」
「……っ!」
しかしゾンビに種類があったなんて、俺も初めて気づいた。
ゲームでは戦闘画面と移動画面は2Dで、アイテムはちゃんとアイコンが出て探しやすかったし。
どうしよう。
めちゃくちゃ嫌な感じがする。
このまま進んでいって大丈夫だろうか?
っていうかハンドガンの一つも置いておけよ~!
ヒロインにだけ戦わせる乙女ゲームって本当おかしいだろ~!
これだからクソゲーって言われるんだよ『おんきん』~!
そりゃ、ゲームの中の攻略対象どもに武器を持たせたらクソみたいなオチしか思い浮かばんけれども。
特にナンバーワンやらかし野郎高際。
つまり俺。
銃とか持たせたら100%ろくなことに使わない。
そう、シナリオとキャラクターの性格をしっかり理解している運営、攻略対象に武器を持たせないのは実に賢明な判断。
間違いない。
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