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案内所

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 そして仕事は真面目と言ってはいるが、マネージャーに本日のスケジュールを伝えている理由は、休みの日に女——グラビアアイドルの家に赴いたところを写真に撮られたことがあるからだ。
 しかも、そのグラドル五股もしており、高際たかぎわはそのうちの一人。
 週刊誌の記者はそのグラドルの五股疑惑を取材中、まんまと高際たかぎわが釣れてしまったという状況。
 マネージャーも所属事務所も高際たかぎわが狙われたわけではないから、多めに見てはもらったけれど、それ以来休みの日の予定は必ずマネージャーに報告することになっているのだ。
 ……ちょっと可哀想ではあるね。
 しかし、本当に情けない男だなぁ、高際たかぎわ義樹よしき

「でも、助けが来るのって早くても明日の夜だ。安全地帯を探した方がいいだろう」
「安全地帯なんてあるんですか……?」
「さぁな。とりあえず——」

 俺がここのイベントで、どうしても手に入れたかったもの。
 駐車場の側にあるものといえば、ショップなどの入った案内所と炊事場、トイレ。
 このキャンプ場は駐車場から完全予約制で、予約日時に歩いて案内所に入り料金を支払うなどの受付を済ませる。
 そのあとは自分が予約を入れたスペースでキャンプを楽しむ。
 そしてここのキャンプ場は案内所と管理棟が別にある。
 ここで手に入る重要なグッズはなんと三つ。

「これは役に立つはずだ」
「そ、それは!」

 案内所は幸いにも、鍵がかかっていない。
 そこにあるのは客の予約表とレジ。
 そして、キャンプ場の地図だ。
 だがこれだけじゃない。
 カウンターの内側には管理棟の鍵の束がある。
 これを手に入れているのといないのじゃあ、ストーリーの進み方が変わるぞ。
 そして最後の一つが懐中電灯だ!
 懐中電灯は使い所こそ難しいが、ゾンビのいない場所で使えばその効果は絶大。
 ぶっちゃけ感動する。
 スマホの充電節約にもなるしな。

「おお! こりゃいいな!」
「さすがに売上金には手をつけないけど、このぐらいなら借りていってもいいだろう。管理棟に行けば食糧や水もあるはずだ」
「そ、そうですよ! なんで忘れていたんでしょう! 管理棟にはショップも入っていますから、フェンスを登れる道具も揃えられるかもしれません!」
「なるほど! 高際たかぎわさん、すごいです!」

 めっちゃ褒められるが、ゲームだとこれらを見つけるのは千代花ちよかなのだ。
 なので千代花ちよかの功績を、俺が横取りした形。
 いかん、これはいかんぞ。
 千代花ちよかに媚び諂わなければいけないのに。

「いやいや、すごくないんかない。こんなの誰でも思いつくよ」

 と、謙遜しておくぜ。
 俺は死にたくないからな。

「そんなことありませんよ。高際たかぎわさんが気づかなかったら、私たち誰も気づきませんでした」
「いやいや、いやいや。そんなことないよ」
「よし! 次の行き先も決まったし、管理棟に立て篭って助けを待とう!」
「そうですね!」

 墨野すみや真嶋ましまはガッツポーズでやる気を出しているが、当然この『おわきん』はそんなに簡単ではない。
 だが、とりあえず行くべき場所は管理棟。
 実際、あそこで食糧は得られないが水は得られた。
 待ち構えるゾンビの群れのことを考えなければ、喉の渇きを癒すことを最優先に考えることができる。

「行こう!」
「あんまり大声出すなよ」
「わかってるさ!」

 墨野すみやに注意しつつ、外へ出る。
 まあ、けど……タダで管理棟に行けるわけはない。
 ウキウキして案内所の表へ出た墨野すみやは、「うわああぁっ!」と一瞬で様相を一変させる。

『グォァアアアアアァ!』
「ひいいい! な、なんですか、あれぇ!」
「ば、化け物ぉ!」
「っ!」

 暗い闇の中から、大気が震えるような咆哮。
 明らかになにかおかしなものがいる。
 最初のボス、蜘蛛女。
 蜘蛛のような八つの細い脚を持つ、黒い長い髪の女型ゾンビである。
 なお、細い脚は前の二本以外すべて人間の脚のような形をしているのでマジ気持ち悪い。

『ァァァァァアァァァァァア!』
「わ、私が、戦います!」
「頼む!」
「頑張ってください!」

 こ、この……。
 墨野すみや真嶋ましまが速攻で案内所の中に戻ってくる。
 か、かっこわりぃ。
 でも、千代花ちよかにしか頼めないのも事実。

「見た目が蜘蛛みたいなやつだ……尻から糸を出すかもしれない! 気をつけろ!」
「! はい!」
「フェンスを利用しよう! 高圧電流はこういう怪物を外に出さないためにあるんだ! 自分がぶつからないように!」
「そうか! わかりました!」

 これは俺が覚えている、『おわきん』最初のボス蜘蛛女の攻略方法である。
 蜘蛛女は八つの手足で主人公を踏み潰そうとしてくるので、それを回避しながら高圧電流の流れるフェンスに叩きつけて大ダメージを負わす。
 背中に回り込むと尻から糸を出してくるので、背後には回り込まないように気をつけるのがコツだ。

「今だ! 右側を殴れ!」
「はい!」

 俺が合図すると、千代花ちよかが言われた通りに右側を殴り飛ばす。
 パワードスーツの威力は抜群で、蜘蛛女はフェンスに突撃した。

『ギャアアアアアァァアァァァアア!』

 悲痛な悲鳴が上がる。
 だが、恐るべきはあの巨体がぶち当たってもびくともしないフェンスの方だ。
 蜘蛛女が炎を纏いながら倒れ込むのを見ながら、息を吐く千代花ちよか
 すぐに俺の方を振り返る。

高際たかぎわさん、ありがとうございます! 高際たかぎわさんの指示のおかげで勝てました!」
「え、い、いや、俺は口を出しただけだよ。頑張ったのは千代花ちよかちゃんだろ? 初めてなのに、よくあんな怪物と戦えたと思うよ。怖かっただろうに、よく頑張ったね」
「っ! い、いいえ。でも、はい。ありがとうございます!」

 よかった、嬉しそうだ。

「お、終わったか?」
「もういません?」
「…………」

 それに比べて案内所に隠れてるこの使えねぇ雑魚どもは。

「はあ。……少し休むかい?」
「いえ、早く管理棟へ行きましょう! あの火の灯りでゾンビが寄ってくるかもしれませんから」
「そうだな、行こう」


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