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ゲームスタート 2

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「ひ、ひぃーーー!」
「おい! なにしてんだ!」
「す、すまない! 瓶を割ってしまった」
「ったく……」

 墨野すみやの大声でビビり散らかす。
 まあ、ここが最後だし、これ以上なにもないのはゲームで知っているし、一階の二人と合流していいかもしれないな。

「あ、おい、ここのロッカーは見たのか?」
「え? いや、まだだけど……」

 ビビリのくせに責任感だけは一丁前の墨野すみやが、部屋の隅にあるロッカーに手をかける。
 どうせ鍵がかかってるだろう、と思っていたのだが、頭の片隅になにか引っかかった。

「あれ」

 そもそも、あそこにフラスコって置いてあったっけ?
『おわきん』はホラー要素が強いゲームで、ビビる彼女の代わりに何周かプレイするうちに引き継ぎしすぎて物足りなくなり、難易度をイージーからノーマルに上げていったのだ。
 そして、イージーからノーマルモードにした時、イージーモードでは安全だったこのビルにゾンビが出現するようになった——ような。

「やめろ!」
「え?」
「ぎゃあああああぁぉぉぉぉお!」
「うわぁぁぁぁぁ!」

 ロッカーの中からゾンビが飛び出してきた!
 テーブルを回り込み、割れたフラスコを拾い、ゾンビの手からなんとか逃れた墨野すみやを突き飛ばしてフラスコを思い切りゾンビの頭に突き刺した。
 自分でも驚くほどスムーズに動いたものである。
 まるで、ゲームをしていた時みたいな感覚だ。

「ガァぁァァァッ!」
「ひっ、ひぃ……ひぃ……」
「はぁ、はぁ、はぁ!」

 びくんびくんと痙攣しながら、ゾンビが動かなくなる。
 序盤のゾンビは、攻略対象でも倒せる強さで助かった。
 いや、っていうか……今更ガタガタすごい震えてきたぞ。
 フラスコを持っていた手が定まらないほどに。

「あ、あ、な、なんでロッカーにゾンビが……」
「さ、さあな……はぁ……そ、それより、一階の二人と合流するぞ……! ビルの中も、安全じゃない!」
「あ、ああ! そうだな!」

 と、言って尻餅をついていた墨野すみやは脱兎のこどく俺を置いて部屋から出て行きやがった。
 あいつ本当最低だな!
 お礼ぐらい言っていけよ!

「………………」

 俺はまだ震えが止まらない。
 振り返ると、頭にフラスコを突き刺されたゾンビから血が溢れて床に広がっていた。
 死んだんだ。
 俺が、殺したんだ。
 ——俺が。

「……っ……」

 だからなんだ。
 これはゲームだ。
 ゲームの世界で、敵キャラを倒しただけだ。
『おんきん』にグロ版なんてものはなかったけど、ゲーム自体がR17G+だった。
 流血表現と残酷描写があるって、注意書きにもしっかり書いてある。
 俺はそれをわかった上で、当時の彼女の代わりにプレイしたんだ。
 ホラーゲームは、好きだったし。
 そうだよ、だから……こんなこと、これからだってやっていける。
 やらなきゃ死ぬんだから、やるんだ。

「ク、クソ……」

 問題は普通のゾンビホラーゲームみたいに、ハンドガンだのマシンガンだのが存在しない点だろうか。
『おわきん』はヒロインだけがゾンビに対抗する術を持つ。
 多分、今頃ヒロインの千代花ちよかはビルの入り口付近の部屋でパワードスーツを手に入れている頃だ。
 俺たち攻略対象は、ヒロインの邪魔にならないように影でコソコソ隠れながら、彼女に守られ媚びていくしかない。
 でも、クソ……精神的に、こんなにキツいとは思わなかった……!

墨野すみやのやつ、どこまで行ったんだよ……」

 完全に俺のことを置いていきやがって……!
 自分の呼吸音が、やたらとでかく感じる。

「ぁ……あ……ァ……」
「……お、おい、嘘だろ……?」

 ひた、ひた、ひた、と——足音が近づいてくる。
 暗い廊下でひどく反響する化け物の声も。
 いち、に、さん、よん……!?

「あぁぁぁ!」
「うぁががう!」
「嘘だろーーー!」

 幸い、初期のゾンビは走れない。
 大きい声で威嚇して、時には互いに喰らい合う。
 四体ものゾンビ、放っておいて走って逃げれば問題はない。
 だが、それとは別に——怖いもんは怖い!
 クソクソクソクソ! 墨野すみやの野郎一人で逃げやがって絶対許さねぇー!
 廊下を走り、階段を数段抜き飛ばしながら駆け降り、一階で人の声が聞こえる方へと向かう。

「ヴァアアァ!」
「うわあああああ!」

 一階の開け放たれた扉から、ゾンビが飛び出してきた。
 くそ! あと少しってところで——。

「!」

 後ろからも、階段からゾンビが転げ落ちてきた!?
 三階にいたやつの一体か!?
 俺を追ってきていたのか!?
 ふっざけやがって!
 っていうか、挟まれた!

「ああぁぁぁ……」
「ゥァァァァァァァアァァァッ」
「はぁ、はぁ、はぁっ!」

 まずい、まずいまずいまずい!
 廊下はそんなに広くはない。
 だが、どちらかといえば千代花ちよかたちがいる方向を塞ぐゾンビの方が壁寄りだろうか?
 イケるか?
 いや、いくんだ!

「っ——!」
「ゥァァァッ……!」

 ゾンビが手を上げた瞬間を狙い、身を屈めて抜ける。
 ゾンビはお互いに抱き合ったと思ったら、お互いを喰らい始めた。
 セ、セーフ!
 思ったよりも動けるな、高際たかぎわ義樹よしきの体……!

「はぁ、はぁ、はぁ……もう出てこないよな」

 め、めちゃくちゃ怖えぇ……!
 死ぬかと思った。
 体の震えがとまらねぇよ!
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