ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜

古森きり

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松田の後輩さん(1)

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「ふーん、センブリ茶、全部飲んだんだぁ?」
「うひっ! ……は、はい! もちろんですよ! 負けたからには約束は守ります!」
「ふーん。まあ、やらないなら強制的にやらせるまでだけどねぇ? これに懲りたら人様の企画を台無しにするようなこと、二度とするんじゃないよぉ? 次はお前らが事務所所属とか関係なく、マジで叩き潰すからねぇ?」
「ひっ! は、はい!」
 
 ようやく宇月のヤバさ――もとい怖さを理解したらしい石神。
 それだけセンブリ茶が不味かった、ということでもあるのだろうけれど、怯え方が魁星並みだ。
 
「ナッシー、アフターケアまでしてあげたのぉ? 親切すぎないぃ?」
「いいんですよ、アフターケアついでに泉お兄さんのお店の宣伝もたくさんしてもらいましたから」
「あー……あれなら星光騎士団の好感度も上がりそうだったしねぇ。まあ、いっかぁ」
 
 宇月からもお許し? が出たので、Walhallaヴァルハラ四人も安堵。
 これならお客さんからも筋を通したことをアピールできる。
 三大大手グループに喧嘩を売った落とし前もつけたし、彼らの当初の目的通り知名度アップにも十分貢献したはず。
 
「さて、あとは空き時間にステージでライブの練習しておいでぇ?」
「はぁーい」
「自分で提案しておいてなんだけどぉ、ナギーが僕を演じている・・・・・・・のはやっぱ違和感だよねぇ」
「えぇ~、でもぉ、宇月先輩を演じてると本当に緊張しなくってやりたいパフォーマンスができてる気がしますぅ♪」
「あ、そぉ」

 複雑そうな宇月。
 魁星が小声で「え? じゃあ来年の一年生、宇月先輩コピーの柳くんにしばかれるの……? 可哀想すぎない……?」と呟いてしまい、宇月に睨みつけられた。



「はあー、無事に五月の定期ライブも終わりました~」
「お疲れー」
「配信見てたよ。お疲れ様です。っていうか、あんなライブのあとにもレッスンって大変だね」
「はい。まあ、でも、Frenzyフレンジーの活動も大切なので」

 時間は午後五時半。
 場所は春日芸能事務所レッスン室。
 今日からMVの撮影練習。
 台本とMVコンテを読んで、撮影に移る。
 MV自体は来年の夏の陣でお披露目したあとに順次公開となるため、きっと公開時期には「なにやったんだっけ?」と忘れていそうである。
 そのくらい、色々なことを怒涛のようにやっていた。

「来年の準備も着々と進んでいる感じがして嬉しいです。何曲かはアニメーションなんですよね」
「そうそう、松田Vtuberがいるからな。おかげでMVはBlossomブロッサムよりは楽そう」

 Frenzyフレンジーは特殊なアイドルグループとしてデビューの予定だ。
 生身の人間――石動上総と音無淳。
 今話題の、そして次世代のエンターテイナーVtuberの松竹梅春。
 二次元と三次元のコラボユニット。
 それがFrenzyフレンジー
 どのような売り方ができるのか様々であり、一応、今淳と石動をモデルにした“ガワ”も製作中。
 まあ、なにかに使えるだろう、ということで。
 ちなみに夏の陣にもプロジェクションマッピング技術を駆使して、松竹梅春の3D姿でのライブ参戦が予定されている。
 そのあたりの技術は松田の就職先である紫電株式会社が担当。
 なんかその会社の一番偉い人が桁違いに頭のいい人で、技術者的にも『生まれてきた時代間違えてない?』ってレベルらしい。
 淳もまだ見たわけではないので、どんなふうになるのかはわからないが、そのあたりの新技術は来年の春までには完成するとのこと。
 現代技術の3Dは完成済みなので、もう少ししたらお披露目だという。
 その間に春日芸能事務所のVtuber部門から二十五人くらい、連続デビューの予定。
 そんなに!? と思ったが大きなVtuber事務所は百人くらい所属しているのが普通なんだとか。
 ただ、かなり入れ替わりが激しく、面接はなかなか難しかったと社長が唇を尖らせていた。
 社会不適合なレベルがゴロゴロしているので、その中から最低限『仕事』として務められそうな人間を拾い上げていたと聞く。
 ただVtuberにはそんな『社会不適合レベル』が『珍獣』としての価値が高いため、人気が出やすいというデータもあるそうな。
 怖い。
 もちろん、炎上はしたくないので“最低限”の見極めが重要。
 話に聞くだけで怖い。

「そういえば、梅春先輩にも後輩がデビューしていたんですよね? 俺、その辺はまったくチェックしてなかったんですけど」
「あ、ああ……うん……なんかすごいのデビューしてたね……」
「そんな遠い目になるほどやばい人がデビューしたんですか?」
「えっと……自称神様とカフェの店長さん」
「「……へ、へぇ……」」

 石動、聞いた瞬間ペットボトルから口を離す。
「自称神様って社長?」と聞きそうになってやめた。
「うん」って言われたらちょっとへこみそうだったので。

「あ、実際にそうってわけじゃないよ? えっと、Vtuberってそのー、設定が必須なんだよ」
「せ、設定?」
「そ、そう。ちょっと特殊な設定とか、現実にある職業とか……。たとえば俺はゲーム会社に勤めるゲーム大好きサラリーマン。平凡だけどゲームではあんまり負けたことない。他にも歌は嫌いじゃないから歌みたも積極的にやっていきたい……みたいな」
「あ、ああ……初配信の時に言ってましたね」

 Frenzyフレンジーの仲間なので、初配信は淳もチェックした。
 ただ他のVtuberなんて見たことがないので「へー」としか言えない。
 もっとチェックした方がいいのかなぁ、と思うが、これ以上ハマるものが増えるのはちょっと怖い。

「神様って……。顔は見たのか?」
「え? いや。直接は、ない、かな? 配信は見たけれど……登録者数、すでに抜かれたくらいには面白い人だったけれど」
「ふーん?」
「アレですかね?」
「アレだろうな」
「え? な、なに?」

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