331 / 430
鏡音の復帰ライブ(1)
しおりを挟む「可哀想だなぁ」
「可哀想ですね」
「本当に……」
五月三十一日の、五月の定期ライブ。
ゴールデンウイークの東雲芸能科GPで、定期ライブは平日なのでお客さんは少ないかな、と思われていたのにゴールデンウイークよりも増えている。
恐らく、みんな喧嘩祭見たさだろうな、と思って星光騎士団二年生たちは目を細めた。
『Walhalla』と三大大手グループとの『決闘』を見に来たんだろう。
また、今日から鏡音が復帰。
淳が思っていたよりも鏡音の推しうちわを持っている人が多い。
というか、星光騎士団箱推しのファンがほぼ鏡音の推しうちわ装備しているような?
「ああああああ、緊張するよぉぉぉぉ」
「柳くん、そんなこと言っていると――」
「柳くんはまだ緊張癖が抜けていないのですね。では、『決闘』以降の空きステージの確保をしておきますね。第二部隊の二人は『決闘』には出す予定はありませんでしたが、二人も出演できるように宇月先輩に頼んでおきますから」
「うえええええええ!?」
「ああ……言わんこっちゃない……」
緊張でガクブルしていた柳、まんまと周にステージに引っ張り出されてしまった。
しかもそのあとも空きステージでライブしろ、と笑顔で言い放たれる。
大丈夫ですよ、我々も一緒に出ますからね、と微笑まれて柳の顔色が悪くなったような。
なんというか、周、宇月の刺々しさを抜きつつやっていることが宇月よりもえぐい気がする。
すぐに宇月にスマホで電話して報告。
宇月から『え? あの子らも? うーん、じゃあいいよぉ』と許可も得る。
周、相変わらず仕事が早い。
「淳、宇月先輩がそろそろステージに移動してこいとのことです。今日はお客さんが想定以上に多く、いつものスタッフさんの数では手いっぱいのようで大変だとか」
「じゃあ、早めに移動しようか。魁星、柳くん、今日のスケジュール大丈夫?」
「えっと、午前十時から星光騎士団第一、第二部隊でステージだろ? そのあと十三時からWalhallaと『決闘』!」
「じ、自分たちは午後に空きステージでライブ、ですよね。はあ……」
「っていうか、待って? ジュンジュン、なんで俺と柳くんだけにスケジュール確認したの?」
「え? 柳くんはいっぱいいっぱいで心配だったし、魁星は時々時間間違えるから」
「うぐう……!!」
というわけで練習棟から野外大型ステージの舞台袖に移動。
午前の一番最初のステージは、客寄せの意味が大きい。
開場して一番最初にステージに上がれるのは、東雲芸能科で一番人気のグループ――ということ。
「お、来た来た~」
「お疲れ様です。もう出ますか?」
「うちの次に出る勇士隊のバカ君主がまた打ち合わせサボって戦隊モノの子芝居やろうとしてるの。御上くんが苗村と一緒に参加してくれちゃって、ますますカオスなんだけど」
「ええ……? 千景くんんん……?」
舞台袖で待機している勇士隊のテーブルを見ると、戦隊もの風の衣装をまとった蓮名と苗村、千景が佇んでいる。
さらに日守が怪獣の着ぐるみから顔を出していた。
二年生の中でもトップクラスの顔のよさを誇る日守が着ぐるみ、千景がフルフェイスマスクの仮面で顔を隠すなんて……いや、逆に仮面を外すと超イケメンが出てくる方がいいのか?
「まあ、他のグループのことだしぃ、勇士隊は『面白ければなんでもやる』グループだから蓮名のやりたいことにつき合ってやる気概がメンバーにあるんならそれでいいんじゃないのぉ?」
「それにしては熊田たちは姿が見えませんよね」
「勇士隊だしね。やりたくないことはやらなくていいんじゃなぁい?」
宇月も後藤も「勇士隊だから」ということでスルーするつもりらしい。
しかし、ついに衣装まで戦隊ものっぽくなってしまった。
新調したらしい。
「魔王軍は――」
「Walhallaをボコボコにするために今日はフルメンバーだってさぁ」
へッと笑う宇月。
勇士隊より後ろのテーブルにいるのは魔王軍のフルメンバー。
ここからでも殺気立っているとわかる程度にはやる気が違う。
「まあ、うちもあのおバカちゃんたちには思い知らせてあげなきゃねぇ」
「ね」
珍しく後藤も完全に同意。
まあ、売名のために星光騎士団、魔王軍、勇士隊を利用するつもりだったようなので、それなら徹底的に潰すしかないだろう。
「星光騎士団の皆さんー、出番です!」
「はあーい。――ま、その前に朝早くから来てくれたお客さんにサービスしようね。騎士らしく、優雅に慎ましく――ね」
「了解」
星光騎士団フルメンバーがステージに上がる。
二年間の中でもっとも観客が集まっており、七人がステージに現れた瞬間沸き立った。
昨今の酷暑で野外大型ステージは来月から屋根工事が入るので、青空の下は九月までお預け。
「やっっっほー! 星光騎士団団長第一部隊の宇月美桜だよぉ~! 今日は朝早くから来場ありがとぉ~う!」
「おはよう。星光騎士団副団長、後藤琥太郎です」
「はい、皆様おはようございます。本日もよいお日柄ですね。第一部隊、音無淳です」
「おはようございます、同じく第一部隊の狗央周です。早朝寄りのご来場、誠にありがとうございます」
「おっはよーーーー! 第一部隊の花房魁星だよーーーー! 朝から会いに来てくれて嬉しいー! 楽しんで言ってねーーー!」
「お、おはよおお! 第二部隊所属の柳響でーす! 今日も緊張しているけれど、頑張るねー!」
「おはようございま……」
鏡音が口を開いた瞬間、客席からドッと空気が震えるほどの『おかえりー!』という声が響いてきた。
星光騎士団のメンバー全員、目を見開く。
54
お気に入りに追加
194
あなたにおすすめの小説

学園の俺様と、辺境地の僕
そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ?
【全12話になります。よろしくお願いします。】

顔だけが取り柄の俺、それさえもひたすら隠し通してみせる!!
彩ノ華
BL
顔だけが取り柄の俺だけど…
…平凡に暮らしたいので隠し通してみせる!!
登場人物×恋には無自覚な主人公
※溺愛
❀気ままに投稿
❀ゆるゆる更新
❀文字数が多い時もあれば少ない時もある、それが人生や。知らんけど。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

VR『異世界』より
キリコ
BL
急速な高齢化が進む中、それに急かされるように開発が先行されていた、医療用VR技術の一般転用がされ始め早数年。
大手シェアのゲーム機メーカーが、ライバル社の幾つかと手を組み共同開発したVRゲームが、ついにお披露目されることになった。
その名も『異世界』。
世界中の名だたる頭脳によって作られたゲーム世界の神、AIユグドラシルの主張により、購入予約の権利は脳波測定を併用したテストをクリアした者を優先するとされた。後から公開されたその基準は、悪でもなく過ぎた善でもない者。毒にも薬にもならない、選りすぐりの『普通の人』。
ゲームができると思えば合格したのは嬉しい事なのに、条件に当てはまったと言われると嬉しくない。そんな微妙な気持ちながら、ついにログインできる日が来たのだった。

ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。

なんで俺の周りはイケメン高身長が多いんだ!!!!
柑橘
BL
王道詰め合わせ。
ジャンルをお確かめの上お進み下さい。
7/7以降、サブストーリー(土谷虹の隣は決まってる!!!!)を公開しました!!読んでいただけると嬉しいです!
※目線が度々変わります。
※登場人物の紹介が途中から増えるかもです。
※火曜日20:00
金曜日19:00
日曜日17:00更新

BLドラマの主演同士で写真を上げたら匂わせ判定されたけど、断じて俺たちは付き合ってない!
京香
BL
ダンサー×子役上がり俳優
初めてBLドラマに出演することになり張り切っている上渡梨央。ダブル主演の初演技挑戦な三吉修斗とも仲良くなりたいけど、何やら冷たい対応。
そんな中、主演同士で撮った写真や三吉の自宅でのオフショットが匂わせだとファンの間で持ち切りに。
さらに梨央が幼い頃に会った少女だという相馬も現れて──。
しゅうりおがトレンドに上がる平和な世界のハッピー現代BLです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる