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古森きり

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鏡音の復帰ライブ(1)

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「可哀想だなぁ」
「可哀想ですね」
「本当に……」
 
 五月三十一日の、五月の定期ライブ。
 ゴールデンウイークの東雲芸能科GPで、定期ライブは平日なのでお客さんは少ないかな、と思われていたのにゴールデンウイークよりも増えている。
 恐らく、みんな喧嘩祭見たさだろうな、と思って星光騎士団二年生たちは目を細めた。
Walhallaヴァルハラ』と三大大手グループとの『決闘』を見に来たんだろう。
 また、今日から鏡音が復帰。
 淳が思っていたよりも鏡音の推しうちわを持っている人が多い。
 というか、星光騎士団箱推しのファンがほぼ鏡音の推しうちわ装備しているような?
 
「ああああああ、緊張するよぉぉぉぉ」
「柳くん、そんなこと言っていると――」
「柳くんはまだ緊張癖が抜けていないのですね。では、『決闘』以降の空きステージの確保をしておきますね。第二部隊の二人は『決闘』には出す予定はありませんでしたが、二人も出演できるように宇月先輩に頼んでおきますから」
「うえええええええ!?」
「ああ……言わんこっちゃない……」
 
 緊張でガクブルしていた柳、まんまと周にステージに引っ張り出されてしまった。
 しかもそのあとも空きステージでライブしろ、と笑顔で言い放たれる。
 大丈夫ですよ、我々も一緒に出ますからね、と微笑まれて柳の顔色が悪くなったような。
 なんというか、周、宇月の刺々しさを抜きつつやっていることが宇月よりもえぐい気がする。
 すぐに宇月にスマホで電話して報告。
 宇月から『え? あの子らも? うーん、じゃあいいよぉ』と許可も得る。
 周、相変わらず仕事が早い。
 
「淳、宇月先輩がそろそろステージに移動してこいとのことです。今日はお客さんが想定以上に多く、いつものスタッフさんの数では手いっぱいのようで大変だとか」
「じゃあ、早めに移動しようか。魁星、柳くん、今日のスケジュール大丈夫?」
「えっと、午前十時から星光騎士団第一、第二部隊でステージだろ? そのあと十三時からWalhallaヴァルハラと『決闘』!」
「じ、自分たちは午後に空きステージでライブ、ですよね。はあ……」
「っていうか、待って? ジュンジュン、なんで俺と柳くんだけにスケジュール確認したの?」
「え? 柳くんはいっぱいいっぱいで心配だったし、魁星は時々時間間違えるから」
「うぐう……!!」
 
 というわけで練習棟から野外大型ステージの舞台袖に移動。
 午前の一番最初のステージは、客寄せの意味が大きい。
 開場して一番最初にステージに上がれるのは、東雲芸能科で一番人気のグループ――ということ。
 
「お、来た来た~」
「お疲れ様です。もう出ますか?」
「うちの次に出る勇士隊のバカ君主がまた打ち合わせサボって戦隊モノの子芝居やろうとしてるの。御上くんが苗村と一緒に参加してくれちゃって、ますますカオスなんだけど」
「ええ……? 千景くんんん……?」
 
 舞台袖で待機している勇士隊のテーブルを見ると、戦隊もの風の衣装をまとった蓮名と苗村、千景が佇んでいる。
 さらに日守が怪獣の着ぐるみから顔を出していた。
 二年生の中でもトップクラスの顔のよさを誇る日守が着ぐるみ、千景がフルフェイスマスクの仮面で顔を隠すなんて……いや、逆に仮面を外すと超イケメンが出てくる方がいいのか?
 
「まあ、他のグループのことだしぃ、勇士隊は『面白ければなんでもやる』グループだから蓮名のやりたいことにつき合ってやる気概がメンバーにあるんならそれでいいんじゃないのぉ?」
「それにしては熊田たちは姿が見えませんよね」
「勇士隊だしね。やりたくないことはやらなくていいんじゃなぁい?」
 
 宇月も後藤も「勇士隊だから」ということでスルーするつもりらしい。
 しかし、ついに衣装まで戦隊ものっぽくなってしまった。
 新調したらしい。
 
「魔王軍は――」
Walhallaヴァルハラをボコボコにするために今日はフルメンバーだってさぁ」
 
 へッと笑う宇月。
 勇士隊より後ろのテーブルにいるのは魔王軍のフルメンバー。
 ここからでも殺気立っているとわかる程度にはやる気が違う。
 
「まあ、うちもあのおバカちゃんたちには思い知らせてあげなきゃねぇ」
「ね」
 
 珍しく後藤も完全に同意。
 まあ、売名のために星光騎士団、魔王軍、勇士隊を利用するつもりだったようなので、それなら徹底的に潰すしかないだろう。
 
「星光騎士団の皆さんー、出番です!」
「はあーい。――ま、その前に朝早くから来てくれたお客さんにサービスしようね。騎士らしく、優雅に慎ましく――ね」
「了解」
 
 星光騎士団フルメンバーがステージに上がる。
 二年間の中でもっとも観客が集まっており、七人がステージに現れた瞬間沸き立った。
 昨今の酷暑で野外大型ステージは来月から屋根工事が入るので、青空の下は九月までお預け。
 
「やっっっほー! 星光騎士団せいこうきしだん団長リーダー第一部隊の宇月美桜うづきみおだよぉ~! 今日は朝早くから来場ありがとぉ~う!」
「おはよう。星光騎士団副団長ふくリーダー後藤琥太郎ごとうこたろうです」
「はい、皆様おはようございます。本日もよいお日柄ですね。第一部隊、音無淳おとなしじゅんです」
「おはようございます、同じく第一部隊の狗央周くおうあまねです。早朝寄りのご来場、誠にありがとうございます」
「おっはよーーーー! 第一部隊の花房魁星はなぶさかいせいだよーーーー! 朝から会いに来てくれて嬉しいー! 楽しんで言ってねーーー!」
「お、おはよおお! 第二部隊所属の柳響やなぎひびきでーす! 今日も緊張しているけれど、頑張るねー!」
「おはようございま……」
 
 鏡音が口を開いた瞬間、客席からドッと空気が震えるほどの『おかえりー!』という声が響いてきた。
 星光騎士団のメンバー全員、目を見開く。

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